第二幕 第二場 風神ゼフュロス

 ゼファが風穴を通り抜けて風神ゼフュロスの神殿に足を踏み入れた瞬間、厳かな雰囲気が彼を包み込んだ。石造りの壁と冷たい大理石の床が、どこか居心地の悪さを感じさせる。ゼファは周囲を見回しながら、無意識に口を開いた。


「なんだか…狭くて居心地が悪いなあ…」


 その言葉はゼファの無邪気な思いをそのまま表していたが、それが神殿内に響き渡ると、突然の静寂が訪れた。風神ゼフュロスがその場に現れ、ゼファを見つめる。その目には驚きが浮かんでいたが、同時にゼファの率直さに対して微笑んだ。


「狭くて居心地が悪い、か…。お前のその率直さ、嫌いではない。」


 ゼファは一瞬、息を呑んだが、ゼフュロスの言葉に少し安心して、風の国が直面している危機について話し始めた。


「風神ゼフュロス、闇の民が風の国を襲っています!あなたがこの国を救うのは当然のことです!」


 その言葉がゼファの口から出た瞬間、ゼフュロスの表情が一変した。彼はゼファをじっと見つめ、厳しい声で言い放った。


「当然…か。ならば、お前たちにも当然の試練を与えよう。」


 ゼファが返事をする間もなく、ゼフュロスは手をかざした。その瞬間、神殿内に凍てつく烈風が巻き起こり、ゼファとピッピを襲った。その風は骨の髄まで冷たく、肌を切り裂くような鋭さを持っていた。


「この風…凍てつくようだ。でも、僕たちは負けない!」


 ゼファはその冷気に耐えながらも、ピッピを守るために自分の体温を使い、ピッピを温めた。風はますます強くなり、ゼファの顔は凍りつくような痛みに歪んでいたが、それでも彼は仲間を守るために風をそらそうと奮闘した。


 ゼファの心は揺るぎなかった。彼はこの試練を乗り越え、風の国を守るために全力を尽くす決意を固めていた。


「風神ゼフュロス、私たちは風の国を守るためにあなたの力を必要としています。どうか、力を貸してください!」


 ゼファのその言葉に、ゼフュロスは目を閉じ、しばしの沈黙の後、頷いた。


「お前の決意、確かに受け取った。風の力を授けよう。だが、その準備が必要だ。しばし待て。」


 ゼフュロスはそう言うと、奥の間へと静かに歩いていった。しかし、ピッピはその背中をじっと見つめ、何かを感じ取ったかのように後を追った。


 ゼフュロスは振り返り、小鳥に目を向けた。「小鳥よ、なにか言いたげに見ゆる。どれ、その口から人の言葉を喋れるようにしてやろう。」


 すると、ピッピは驚いたように一瞬静止したが、次の瞬間、ゼフュロスの手のひらから放たれた光が彼を包み込んだ。


「…!」ピッピは自分が突然言葉を話せるようになったことに驚きながらも、ゼフュロスに対して重要な情報を伝え始めた。彼はゼフュロスが探している人物、すなわち闇の神に関する情報を持っていたのだ。


 ゼフュロスはその話を聞き終えると、深く感謝の意を表した。彼の目には、探し求めていた答えが与えられたことへの感動が浮かんでいた。


「お前の助け、感謝する。ゼファに力を貸す決意は、さらに強まった。小鳥よ、ありがとう。」


 ピッピはゼファに聞こえないようにその言葉を受け取り、静かにゼフュロスのもとを去った。そして、ゼファに戻ると、再び元の無邪気な小鳥の振る舞いを見せた。


 ゼフュロスは奥の間で一人、母の面影を描いた手慰みの小説を手にし、思いを巡らせた。彼が探し求めている母、すなわち闇の神がまだこの世界に健在であることを願いながら。その思いが、今やゼファに力を貸す理由となった。


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