第6話 昼飯

「ほう、これが日本に定食と言うものなのですか。興味深いですね」

「そうか?まあ確かに最近じゃこんだけ趣のある店は少ないけどな」


俺たちは昼飯を食べる場所を探しに春風通りに向かった。ここはたくさんの飲食店や雑貨屋が並ぶ大通りだ。そこで昼に何を食べるか話して歩いている時、一店舗覚えのある老舗飲食店を思い出したのだ。それを聞いたフィーは気になりそこに行くことになった。


「はーちゃんの言う通り、こんなおんぼろ店はここらにはもうそんなに無いからね」


そう言ってきたのはこの店を切り盛りする70代のおばあちゃんだ。


「そこまで言ってないだろう……それよりあん婆、やっていけてんのかよこの店……」


隼が店を見回すとそこには隼とフィー以外の客はいなかった。


「へっへっへ、悪いねはーちゃん。うちは昼より夜が勝負なんだい」


それが単なる意地で出た言葉なのか、それとも本心なのかはわからない。


「旦那様、はやくいただきましょう!」


隼が杏婆と言い合ってる中、フィーが楽しそうにそう言ってきた。

流石に折角作ってくれた飯が冷めるもの悪いし、隼は一度口を閉じた。


「そうだな」

「へっへっへ、どうぞ召し上がれ」


俺は杏婆のなんとも言えない余裕があるような、いかにも相手が自分の策にハマっているのに当の本人がまったく気づいておらず意味深な笑いに少しイラっとしながら魚を一口食べた。


「んん~~美味しいです!!」

「相変わらず美味いな」


身体をくねくねと揺らし落ち着きのない子供のように素直な感想を言うフィーとツンデレライバルのような感想を言う隼。そんな二人を見て杏婆は笑う。


「へっへっへ、そうかいそうかい。そいつは嬉しいね。それにしてもはーちゃんにこんな別嬪さんが嫁に来てくれると世の中も捨てたもんじゃないね」

「おい待て、それじゃあ俺がいつまでも嫁さん来てくれないみてぇじゃねえか!」

「そう言ってんだよこのツンデレ男子が」

「な、その年してツンデレとか言うなよ……」

「仕方ないだろう本当の事なんだからな。ほれそれよりはよ食べ、そこの別嬪さんは既に完食寸前だよ?」


横を見るとほとんど空になった器があった。

俺がそれを見ていると気付いたフィーはモグモグしているハムスターが頬に食べ物を溜め込んだ状態で、『どうしましたか?』と問いかけてくるように首を傾げた。

フィーは頬にあったものを喉に通した。


「ほら旦那様、これは旦那様の御身体をより丈夫にする為に必要なプロセスなのですよ。最低でも3食は食べていただきますからね」


そう言ってフィーは自分の箸で俺の焼き魚の一部を取って近づけくる。


「はい♪」


これは俗に言う恋人アーンと言うやつだ。

思春期真っ盛りの隼にとっては知り合いの婆さんがニコニコ笑って見られている状態でのこれは拷問ともいえよう。


「ほら旦那様、アーン?」


隼は意を決して食べた。


「どうですか旦那様?」

「……うん……美味しい……」

「それは良き事です♪さあ、どんどん食べましょう!」


結局俺は杏婆に見られながら、フィーの宣言通り、定食3食を食いきったのである。


「おばあ様、ごちそうさまでした」

「こっちこそご馳走さん」

「ほら旦那様も」


そう言ってフィーが俺の脇腹を肘で突っついてきた。


「ああ、美味かったよ」

「まったく素直じゃないねこの子は……別嬪さん、どうかこの子をよろしく頼むよ」

「お任せ下さいおばあ様!!」

「アンタは俺の母親か!」


まあとにかく、俺たちは昼飯を食べ終えて消化がてら春風通りを散歩していた。


「美味しい場所でしたね」

「そうだな。昔懐かしい良い味だった」

「夜の方が人気があると言っていましたし、機会がありましたらまた行きましょう旦那様」

「そうだな」

「それにしても日本とは面白い場所ですね。私、興味が尽きません」

「そうか。ならどこか行きたいとこでもあるのか?」


俺がそう聞くと、まるでサンタを信じた少女がクリスマスの朝にプレゼントをもらった時のような満面の笑みでこちらを見て来た。


「はい!実はずっと行ってみたい場所があったのです!」


そう言って彼女は年相応の少女の様に駆け足でどこかに向かって行き、俺は彼女を追いかける。

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