第5話 ランニング

それから大体3日、俺はベットの上でフィーに介護されながら順調に回復していった。信じられないがあの物凄い傷の痕がほとんど完治している。だがフィーによれば見た目の傷が完治しても身体の芯は未だに完治していないのでもう少し様子見の事。

その間に俺はこの世界のことをフィーに教えたりしていた。どうやら彼女もつい最近この世界に顕現したらしくあまりこの世界のことを知らないのだそうだ。だから俺はこの世界の基礎的なことやこの国の文化などを教えた。その代わりに俺はフィーのあの魔法の本から出て来たいくつもの歴史書や神話、悪魔書などを読まされた。

少しでも読んで相手のヒントを知ろとのことだ。彼女にはスマホがあるからと言ったが、殺し合いの最中にスマホなるものを開いて調べる余裕なんてあるとお思いですか?と論破されてしまった。

なので俺はいまフィーから渡された神話を読み漁っていた。


「何分以外ですね。こういう書物は読むのは大半の人間が苦痛だと感じると思ったのですが」


フィーが彼女特製の回復飯を本から出しながらそう言ってきた。


「確かに最初は面倒だと思ったが、読んでみると案外面白いし、それに命がかかってるからな。妥協はできない」

「それは良い心がけですね。それとですね。そろそろ旦那様の内側の傷も癒える頃合いだと思うのでそろそろ剣術の練習と行こうかと思います」

「そうか。ようやくこの介護生活ともおさらばか」

「それに伴い、どこか剣を振るうに適した場所はありませんか?」

「それなら心配いらない」

「そうなのですか?それならばそれは旦那様にお任せいたします」


***


それから更に3日後


「久しぶりの外だ」

「まずは軽いランニングから失った筋力を取り戻しますよ」


ようやくフィーからのOKサインが出たので外に出たが、1週間近く、寝て過ごしていたので体の筋力が低下している。なのでまずは軽い運動から始めることになった。


「確かにそれは理に適っているが、これは少し不公平じゃないか?」


なぜ隼がそう言うのか言うと、隼が私服で走るのに対して、フィーが自転車に乗っているからである。


「それは違います。今回の目的はあくまで旦那様の戦力強化です。なので文句をたれず走りますよ」


フィーが見た目に似合わない竹刀を持って隼に活を入れる。


「はいはい走りますよ」


それから俺は30分走って、10分休むを繰り返していった。やはり1週間も動いていないこともあり脚は既にガクガクだ。


「そろそろお昼にしましょうか」


フィーがミネラルウォーターを俺に渡しながらそう言ってきた。時刻は既に12時を過ぎ昼時だ。


「それはありがたい。それで何を食べる?」

「そうですね…と、その前にこう言ってはなんですがお金はあるのですか?」


ああ…そういえば今日まで、フィーと出会ってから彼女の料理しか食べていなかったな。そうなると、彼女が金の心配をするのも頷ける。


「平気だ。金ならたんまりある」

「そうなのですか?」

「ああ。違和感を感じなかったか?うちに来てから何か違和感を」

「う~ん?そうですね。強いていうなら一人暮らしの割に妙に生活感がありましたね」

「そこが間違いだ。俺は一人暮らしじゃなくて実家暮らしだ」

「そうなのですか?ですが一度も旦那様のご両親が帰ってきた様子はございませんでしたが?」

「俺の親父は既に他界して、母さんは作家でいつもいろんなところに取材に行って、家事は放棄。幸い、毎月通帳に使いきれないほどの金を入れてくれるから助かってるけどな」

「そうなのですね。旦那様の記憶はここ数日程度の記憶してみていなかったのでそこまでは把握しておりませんでした」

「はぁ?じゃあなんで俺が剣術やってたの知ってるんだよ?」

「それは書いてありましたから」

「書いてあった?何に?」

「こちらに」


フィーが一冊の古い本を取り出した。明らかに年季が入っており、紙も昔の日本が使っていた書道とかで使う紙質に似ている。

そしてそこには『第壱四目九十九刀術師範九十九隼』と書かれていた。

それを見て隼はその書物をフィーから奪い取った。


「どこでこれを!?」

「少々暇でしたのでお家を散策していたら何やら面白そうな部屋を見つけてしまいましてね。何分古い本棚と本たちがたくさんありましたので嬉々として読み進めていたら偶々見つけたのです。まだ半分程度しか読み切れていないのですが」


フィーが言っているのは隼の母親が作った、本の保管庫の事だ。


「おい待て、あの量の本の半分を読み終えたのかよ。たった1週間と少しで?」

「はい♪」


そう笑顔で答えるフィーに隼は少し戦慄を覚えた。


「とりあえず移動しながらお昼の場所を考えましょか。ここでくすぶっていても仕方がありませんし」

「そうだな」


俺とフィーは昼飯を食べる為に飲食店などが立ち並ぶ商店街に向かった。

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