第3話 変わる現実

夢を見ていると思う。それも飛び切り不愉快であり得ない夢だ。よく知らない男に美月が殺されて、自分も殺される夢。そうだ、目が覚めればきっといつもと同じ、退屈で安全な日常がある。


「ん’’…?」


隼はうっすらと目を開ける。


「あ、お目覚めですね?」


聞き覚えのないはずの声。しかしなぜかわからないが聞いたことのある声。

隼は目を開ける。するとだんだんとぼやけていた視界がクリアになっていく。


「今度こそちゃんと起きましたね?」

「ん…?ぬわ!?お、おおおお前は誰!?」


目が覚めると俺の部屋に見ず知らずの異国風の美少女がいた。


「あら、覚えておりませんか?昨日あなたは使徒に背を斬られ、その傷により一度死にかけたのですよ?」


俺はそれを聞いてハッとなる。まさか本当にあれが起きたのか・・・昨日のあれは現実だったのか・・・


「・・・・・・そうだ!美月は!美月はどうなったんだ!!」


俺は彼女の両肩を掴み問いただす。

だが彼女は己を乱すことなく冷静に答える。


「落ち着いて下さい。申し訳ありませんがその方の生死は私には分かりません。ですが例え生きていたとしても、もう貴方にはなんの意味もありません」

「・・・・・・どういうことだ?」


彼女のその言葉にゾッとした寒気を覚えた。


「ふむ。それならば一度学校の方に休みの連絡を入れてみてはいかがですか?流石にそのお身体では当分は安静していなくては」

「は?何をイッ!?」


身体を改めて動かすと凄まじい痛みが頭の中を通り過ぎた。

自分の身体を見ると胴体と右腕には包帯が巻かれており。その包帯の隙間からは焼け焦げた跡があった。


「これは・・・昨日の・・・」

「そうです」


夢と思いたい。だが、この傷が、この痛みが否応にも現在だと知らしめてくる。

とにかく彼女の言う通りこの身体じゃこの場から動くことも出来ない。

俺はスマホを持って学校を調べて電話する。


「すみません。2年7組の九十九隼と言います」

『お待ち下さい。確認致します。・・・・・・申し訳ございません。別の学校とお間違えておりませんか?本校の2年7組に九十九という生徒はおりません』

「えっ・・・・・・」


いない?どう言うことだ?俺は彼女を見ると、彼女はそれが現実と小さく頷く。


『あの、どうかしましたか?』

「あ、すみません。どうやらこちらの手違いのよう・・・でした。申し訳ございません」

『いえ、ではそれでは』


それで俺は電話を切った。


「これが現実でございます。混乱と動揺で理解し難いとお察しいたします。お時間を置いてまた」


そう言って彼女は部屋を出て行った。

そして彼女の言葉は的を射ていた。

隼は整理をつける為、ベットの上で半日を過ごした。



***


「心の整理はつきましたか?」

「ああ・・・一応・・・・・・」

「そうですか。それは良かった。まずは体力回復の為御食事をお持ちしましたのでよく噛んで食して下さい」

「食事って何も持っていないじゃないか」


そう言うと彼女は笑い、指を回すと、彼女の腰についていたバックから本が出てきた。


「なんだ・・・!?」


本は宙に浮かび、開く。彼女がもう一度指を回すと本からベットに備えついていた様なテーブルと食事が出てきた。


「これは・・・」

「どうぞお食べ下さい」

「・・・・・・」


正直、本から出てきた物を口にするのはちょっと・・・それにここまで助けてくれたとはいえ、彼女が俺の味方なのかもまだ・・・・・・


「ん?ああ、御安心を、それらは本当に安全なものでございます。それにそのお身体では何処にも移動することは出来ません。これではこのまま餓死してしまいますよ」

「・・・・・・」


彼女の言う通り、この身体での移動は多分無理だ。

俺は勇気を出して、一口食べる。


「・・・・・・美味しい」

「それはありがとうございます♪」


彼女は笑顔でそう答えた。

お世辞抜きにこの料理は美味しかった。

それに何故か食べているだけで力がみなぎる。


「それではお食事中で、申し訳ありませんが現状のご説明をさせて頂いても?」


彼女の纏う雰囲気が変わり、真剣な雰囲気に変わった。俺も唾を飲み、頷く。


「それでは、簡潔に申しますと、貴方様は四大種族代表戦、通称ラグナロクの代表者に選ばれました」

「四大種族代表戦、ラグナロク?」

「はい。昨夜、貴方を襲ったのも他の代表の使徒でしょう」

「ちょっと待ってくれ、まずそのラグナロクって言うのはなんなんだ?」

「はい。四大種族代表戦、ラグナロクは各種族が世界の主導権を握る為に戦う殺し合いです」

「殺し合い!?」

「はい、殺し合いです。ラグナロクとは文字通り四つの種族が互いの威信を賭けて戦います」

「その四つの種族ってのは?」

「それは人間、悪魔、天使、そして神です」

「悪魔に天使・・・それに神・・・か・・・勝てるのか?そんなヤバそうな奴らに?」

「勝てます。その証拠がこの世界です」

「この世界が証拠?」

「はい。このラグナロクは世界の種族の支配権を得る為の争いです。そして今この世界の主導権を握っているのは」

「人間・・・・・・」

「その通りです。そして各種族の順位によってその影響力は変わります。分かりやすく言えば、宗教などの神は少なからず大きな影響力を持っています。それに続き、天使、そして悪魔です。これが前回の順位という感じです」

「つまり、今の世界は前回のラグナロクってやつの結果によって作られているってことか?」

「その認識で大方合っております。そしてつきましては、今回貴方が人の代表、そして私が貴方のパートナーになりました。なのでよろしくお願い致しますね旦那様♪」


こうして俺はこの銀色の髪を持つ、異国の少女との暮らしが始まった。

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