第17話 輸送1

 ほぼ一日、馬での移動と、短時間ではあったけど戦闘まであった日だった。

 流石に疲れた。

 シリルさんとヒナタさんが食事まで用意してくれていたので、冒険者ギルドで食べることになる。豪華な弁当だな。


「もぐもぐ。街になにかありました?」


「冒険者の活動が、停滞してしまって私たちの収入も止まってしまいました」


 そう言えば、怪我人多数だったな。


「それで、ウォーカーさんに相談に乗って貰おうと思ったニャ。そしたら、馬で飛び出して行ったって……」


 錬金術の手伝いか……。前に美味しい思いをさせてしまったようだ。

 だけど、銅貨で生きる人たちなんだ。冒険者には、小銭かもしれないけど、彼女たちみたいな人がいないと、この街も成り立たない。街の人へ暴力を振るった冒険者は、結構重い処罰を与えられる。危険を冒す人ともてなす人が、対等な関係でないと街が成り立たない。


「情報は……、ないですよね?」


「冒険者が動いていないので、噂話も回って来ません」


 今日は、街にとって厄日だな。

 考えていたら、食べ終わった。

 銅貨を5枚渡す。

 その光景を、女性のギルド職員とリナリーさまが、見ていた。

 視線が痛いです。


 二人を伴って、冒険者ギルドを後にする。もうね、腕組とか止めて欲しい。同伴出勤? 逆だな……。同伴退勤? 俺は、ホストじゃないんだけどな。

 視線が痛いんですよ。



 なんとか、二人を引き連れたまま宿屋に着いた。

 自分の部屋に着いたら、そのまま寝てしまう。


(このまま寝ると、また夜中に起きそうだな。でも、眠気に逆らえない……)


 そのまま、眠りについた。





 朝起きて、今日の行動を決める。


「乗馬で体が痛いな……。今日は休むか」


 休みを自由に決められるのが、冒険者家業のいい所だ。この街は、物価も安いしね。

 そう思ったんだけど。


 ――ピピ


 ここで俺のスキルが働いた。


『逃亡率1%』


「あ……。リナリーさまとパーティーを組んだままだった。お呼びってことかな?」


 ――コンコン


 タイミングよく、ドアをノックされる。


「セージさん? おはようございます」


「うむ、おはよう。それで今日は、時間が取れるかな?」


「身支度に一時間ほど貰ってもいいですか?」


 渋っても逃げられないのが分かっているので、精神を落ち着かせる時間が欲しい。

 風呂に入ってから、着替えて食事を頂く。

 宿屋の食堂は、空いていた。冒険者が、動き出したかな?





 冒険者ギルドへ着くと、ギルド長室へ案内された。

 ギルド長室へ入ると、リナリーさまがいた。ギルド長は、相変わらず萎縮している。

 それと、リナリーさまは、資料を読んでいる。


「おはようございます」


「おはよう。というか、もうお昼だね~」


 セージさんに促されて、椅子に座る。

 リナリーさまは、資料を読んでいて、俺に視線を向けて来ない。


 ――ペラ


「ふ~ん。ウォーカー君は、街を救ったことがあったんだ? だから、街の女の人から慕われていると? 食事処のメグって娘にも唾をつけているみたいだね……」


 街の記録? いや、俺の実績を調べているのか?

 それと、リナリーさまは、ご機嫌斜めの御様子だ。

 シリルさんとヒナタさんが、俺に抱き着いて来てから機嫌が悪いんだと思う。


「街を救ったか……。ナイフを投げたら、怪物モンスターの急所に当たっただけですよ」


 まあ、実際のところは、大したことはなかった。

 城壁が壊されて、魔物が街に侵入して来たことがあった。

 その時に、ボスの討伐を行ったのが、たまたま俺だっただけだ。


「……誰が聞いても嘘だって思うよね? それで、通じていると思っているの?」


「……えっ?」


 ギルド長を見る。


「城壁を壊すほどの大型の怪物モンスターだぞ? どうやったらナイフ一本で撃退できるっていうんだ? 誰も見ていなかったから、追及はしなかったが、サポーターができることじゃないことは、街の誰もが思っていることだ」


 信じてくれていると思っていたんだけどな~。


「その後に、街の女の子にモテモテになったと……」


 リナリーさま。そんなことはないんですよ。

 コミュニケーションの一環なんです。


「特定の相手はいませんよ。明日街を離れても、問題ないくらいクリーンにしています」


「冗談だろう? 本気でそんなこと考えているのか? ウォーカーが街を出たら何人の女性が追いかけると思っているんだ?」


「はい?」


 初耳なんだけど?

 サポーターとしての俺の人気は、そこそこあると思っている。

 だけど、女性に手を出したことはないんだけど?


「まあ、ウォーカー君の女性問題は、この際目を瞑ります。それよりも、これだよ。大型の怪物モンスターを短時間で撃退できた理由が知りたいかな~。昨日のサーチ能力ではないんだよね?」


 話題を逸らされた……。まあいいけど。


「まあ、俺も隠しているスキルはあります。全部は、開示できませんよ」


 俺の本当の奥の手。それは教えない。


「ウォーカー君のスキルは、本当に謎だね~。見当がつかないよ。でも、攻撃力はあるんだね?」


「さあ、どうでしょう? デバフ系で幻覚を見せたのかもしれませんよ?」


 腹の探り合いになって来たな。

 リナリーさまが、俺を拘束しようとするのであれば、街を捨てて逃げるか。

 ここで、バジルさんが箱を差し出して来た。

 箱の蓋が開けられる。


「……魔晶石? 随分と大きいですね」


「【真理を知る天秤】の時の報酬だよ~。欲しかったのは、これで合ってる?」


 貰っていいのか。

 ありがたく受け取る。これだけで、目的の一つを手に入れられたことになる。大きな一歩だ。

 口角が上がったのを自覚する。数ヵ月ぶりに前進した気がするよ。


「ふ~ん、随分と嬉しそうだね? それでね。次の依頼があるんだ~」


 リナリーさまに視線を移す。


「またですか? 俺に指名依頼?」


「そそっ、指名依頼」


 ため息しか出ないよ。



「依頼内容は、物資の運搬か……。荷馬車の護衛になるのかな?」


 問題は、目的地だ。戦場への物資の運搬。移動経路は、先日と異なる。少し遠回りになるが、街道を使うみたいだ。

 まあ、物資の運搬で、山岳地帯を通過する理由がないよな。


「どうしても、俺を戦場に向かわせたいんですかね? 〈未来視〉の情報ですか?」


「そんな意図はないよ? 途中のさ、怪物モンスターの群生地帯を抜けられたら、そこまででもいいんだ~」


 危険を避ける……。俺ならば、できなくはない。

 だけど、どうしても裏があると思ってしまう。

 この王女さまは、身を危険に晒しても望む未来を掴もうとする思考が見て取れる。


「リナリーさまも同行するんですよね? 護れる保証はありませんよ?」


「うん? 今回は、行かないよ? バジル君に任せる予定だよ?」


「どんな未来を視ていますか?」


「ウォーカー君が参加してくれないと、全滅して物資を失う未来……かな~。防衛線も崩れて、国が危うくなる――可能性もあるんだ~」


 若干の嘘が混じっているな。それくらいは、分かる。

 だけど、俺はサポーターとして生計を立てている。輸送の依頼を断ると、悪い噂が立つ恐れもあるな。

 利益と損害の天秤になって来た。


「物資の確認をさせて貰ってもいいですか?」


 リナリーさまは、いい笑顔だ。

 今日初めて笑ってくれた。

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