第17話 輸送1
ほぼ一日、馬での移動と、短時間ではあったけど戦闘まであった日だった。
流石に疲れた。
シリルさんとヒナタさんが食事まで用意してくれていたので、冒険者ギルドで食べることになる。豪華な弁当だな。
「もぐもぐ。街になにかありました?」
「冒険者の活動が、停滞してしまって私たちの収入も止まってしまいました」
そう言えば、怪我人多数だったな。
「それで、ウォーカーさんに相談に乗って貰おうと思ったニャ。そしたら、馬で飛び出して行ったって……」
錬金術の手伝いか……。前に美味しい思いをさせてしまったようだ。
だけど、銅貨で生きる人たちなんだ。冒険者には、小銭かもしれないけど、彼女たちみたいな人がいないと、この街も成り立たない。街の人へ暴力を振るった冒険者は、結構重い処罰を与えられる。危険を冒す人ともてなす人が、対等な関係でないと街が成り立たない。
「情報は……、ないですよね?」
「冒険者が動いていないので、噂話も回って来ません」
今日は、街にとって厄日だな。
考えていたら、食べ終わった。
銅貨を5枚渡す。
その光景を、女性のギルド職員とリナリーさまが、見ていた。
視線が痛いです。
二人を伴って、冒険者ギルドを後にする。もうね、腕組とか止めて欲しい。同伴出勤? 逆だな……。同伴退勤? 俺は、ホストじゃないんだけどな。
視線が痛いんですよ。
なんとか、二人を引き連れたまま宿屋に着いた。
自分の部屋に着いたら、そのまま寝てしまう。
(このまま寝ると、また夜中に起きそうだな。でも、眠気に逆らえない……)
そのまま、眠りについた。
◇
朝起きて、今日の行動を決める。
「乗馬で体が痛いな……。今日は休むか」
休みを自由に決められるのが、冒険者家業のいい所だ。この街は、物価も安いしね。
そう思ったんだけど。
――ピピ
ここで俺のスキルが働いた。
『逃亡率1%』
「あ……。リナリーさまとパーティーを組んだままだった。お呼びってことかな?」
――コンコン
タイミングよく、ドアをノックされる。
「セージさん? おはようございます」
「うむ、おはよう。それで今日は、時間が取れるかな?」
「身支度に一時間ほど貰ってもいいですか?」
渋っても逃げられないのが分かっているので、精神を落ち着かせる時間が欲しい。
風呂に入ってから、着替えて食事を頂く。
宿屋の食堂は、空いていた。冒険者が、動き出したかな?
◇
冒険者ギルドへ着くと、ギルド長室へ案内された。
ギルド長室へ入ると、リナリーさまがいた。ギルド長は、相変わらず萎縮している。
それと、リナリーさまは、資料を読んでいる。
「おはようございます」
「おはよう。というか、もうお昼だね~」
セージさんに促されて、椅子に座る。
リナリーさまは、資料を読んでいて、俺に視線を向けて来ない。
――ペラ
「ふ~ん。ウォーカー君は、街を救ったことがあったんだ? だから、街の女の人から慕われていると? 食事処のメグって娘にも唾をつけているみたいだね……」
街の記録? いや、俺の実績を調べているのか?
それと、リナリーさまは、ご機嫌斜めの御様子だ。
シリルさんとヒナタさんが、俺に抱き着いて来てから機嫌が悪いんだと思う。
「街を救ったか……。ナイフを投げたら、
まあ、実際のところは、大したことはなかった。
城壁が壊されて、魔物が街に侵入して来たことがあった。
その時に、ボスの討伐を行ったのが、たまたま俺だっただけだ。
「……誰が聞いても嘘だって思うよね? それで、通じていると思っているの?」
「……えっ?」
ギルド長を見る。
「城壁を壊すほどの大型の
信じてくれていると思っていたんだけどな~。
「その後に、街の女の子にモテモテになったと……」
リナリーさま。そんなことはないんですよ。
コミュニケーションの一環なんです。
「特定の相手はいませんよ。明日街を離れても、問題ないくらいクリーンにしています」
「冗談だろう? 本気でそんなこと考えているのか? ウォーカーが街を出たら何人の女性が追いかけると思っているんだ?」
「はい?」
初耳なんだけど?
サポーターとしての俺の人気は、そこそこあると思っている。
だけど、女性に手を出したことはないんだけど?
「まあ、ウォーカー君の女性問題は、この際目を瞑ります。それよりも、これだよ。大型の
話題を逸らされた……。まあいいけど。
「まあ、俺も隠しているスキルはあります。全部は、開示できませんよ」
俺の本当の奥の手。それは教えない。
「ウォーカー君のスキルは、本当に謎だね~。見当がつかないよ。でも、攻撃力はあるんだね?」
「さあ、どうでしょう? デバフ系で幻覚を見せたのかもしれませんよ?」
腹の探り合いになって来たな。
リナリーさまが、俺を拘束しようとするのであれば、街を捨てて逃げるか。
ここで、バジルさんが箱を差し出して来た。
箱の蓋が開けられる。
「……魔晶石? 随分と大きいですね」
「【真理を知る天秤】の時の報酬だよ~。欲しかったのは、これで合ってる?」
貰っていいのか。
ありがたく受け取る。これだけで、目的の一つを手に入れられたことになる。大きな一歩だ。
口角が上がったのを自覚する。数ヵ月ぶりに前進した気がするよ。
「ふ~ん、随分と嬉しそうだね? それでね。次の依頼があるんだ~」
リナリーさまに視線を移す。
「またですか? 俺に指名依頼?」
「そそっ、指名依頼」
ため息しか出ないよ。
「依頼内容は、物資の運搬か……。荷馬車の護衛になるのかな?」
問題は、目的地だ。戦場への物資の運搬。移動経路は、先日と異なる。少し遠回りになるが、街道を使うみたいだ。
まあ、物資の運搬で、山岳地帯を通過する理由がないよな。
「どうしても、俺を戦場に向かわせたいんですかね? 〈未来視〉の情報ですか?」
「そんな意図はないよ? 途中のさ、
危険を避ける……。俺ならば、できなくはない。
だけど、どうしても裏があると思ってしまう。
この王女さまは、身を危険に晒しても望む未来を掴もうとする思考が見て取れる。
「リナリーさまも同行するんですよね? 護れる保証はありませんよ?」
「うん? 今回は、行かないよ? バジル君に任せる予定だよ?」
「どんな未来を視ていますか?」
「ウォーカー君が参加してくれないと、全滅して物資を失う未来……かな~。防衛線も崩れて、国が危うくなる――可能性もあるんだ~」
若干の嘘が混じっているな。それくらいは、分かる。
だけど、俺はサポーターとして生計を立てている。輸送の依頼を断ると、悪い噂が立つ恐れもあるな。
利益と損害の天秤になって来た。
「物資の確認をさせて貰ってもいいですか?」
リナリーさまは、いい笑顔だ。
今日初めて笑ってくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます