第15話 撤退
捕獲された敵兵は、ペガサスの部隊に吊るされて連れて行かれた。
ペガサスという生物は、飛ぶときに重量を無視できるのかもしれない。馬車なんかも牽けているし。
後は、死亡した敵兵を埋めて証拠を隠滅するだけだ。
そう思ったのだけど……。
「土魔法の使い手がいると、速いですね」
穴を掘る必要もなかった。野犬に掘り返されない程度まで穴を掘るのは面倒だと思ったけど、数秒だ。
遺体を埋葬して、土を被せて表面を慣らす。
血の匂いが残っているが、じきに消えるだろう。
「どうする? 土が変色するまで、ここで待つか?」
バジルさんからだった。
初めて話しかけられたよ。
「リナリーさまの安全を第一に考えましょう。早急に移動した方がいいと思います。残る理由があるのであれば、教えてください」
全員の意思確認が行われて、移動することになった。
ここは、戦場から近いんだと思う。
街道の封鎖……、それが彼等の仕事だったんだと推測できる。
崖崩れの仕掛けを作ってまで、潜んでいたんだろうな。伝令なり、敗残兵を足止めするのが彼等の役割だったんだろう。
正規兵ではないのかもしれない。
傭兵団……、くらいかな?
◇
今俺は、二尻で馬に乗っている。俺の前にリナリーさまが馬に乗っているんだ。前後逆にすると、胸を押し付けられるので、俺が嫌がった。後から何を言われる分からないからね。
セージさんとバジルさん、それとギルド長は馬車で移動だ。流石に無傷とはいかなかった。
それと馬だな。尻に矢を受けて動けなくなっただけの馬が一頭いた。
その馬に〈回復魔法〉で治療を行い、馬車を牽かせている。
ペガサスの騎兵隊からは、一人だけ護衛として残って貰った。上空からの警戒は心強い。後で名前を聞こうか。
「ねえ、ウォーカー君。さっきの戦闘なんだけど、聞きたいことがあるんだよ~。移動中だけどいいかな?」
まあ、そうなるよね。
魔法二発で30人を黙らせた訳だし。
「弓矢で〈必中〉ってスキルがあるじゃないですか? それと、〈魔法〉を組み合わせただけですよ?」
「ウォーカー君は、スキルの組み合わせができるの? 聞いたことがないんだけど?」
スキルだけで実現しているんじゃないんですよ。魔道具を使用して始めて可能となるんだ。
指輪を見せる。【真理を知る天秤】から、スキルを10%ほど奪った指輪だ。
「言葉遊びになりますが、〈必中〉とか〈無限〉からスキルを分けて貰っても、元の使用者には影響が出ないんですよ。昔の仲間に貰ったんですけどね」
「〈
「この指輪は、討伐困難な
本来の使用目的は、敵の弱体化だった。10人が、指輪の効果を持ち、敵を弱体化させる戦法を取ったのだ。
90%から始まり、90×0.9%=81%、72.9%……、38.7%まで敵を弱体化させて、皆でボコった。
楽しかった頃の、レイド経験だな。
その後に、
そして、それだけでもない。予備を含めて10個ほど持たせてくれたんだ。
ちなみに再利用可能だ。【真理を知る天秤】のスキルは正直ショボい。奪ったスキルを解放して、空にしてもいい。
解放したスキルは、元の持ち主に戻ったりはしないけどね。
元の持ち主に返すこともできるけど、他の人間に付与することも可能だ。
まあ、全ては俺のパーティーに入ってくれるかどうかで決まる。
「ふ~ん、自分専用の特殊な魔導具を持っているってことなんだね。それと、仲間がいるんだ?」
「俺は……、異世界転移者です。この世界では、珍しくもないでしょう?」
「ふむふむ。今は
なんか、確認されている?
◇
川沿いまで戻って来た。
ここで、休憩だ。無理をすると馬が潰れてしまう。俺が〈疲労〉を引き受けてもいいけど、その場合は、俺を誰かが運ぶ必要がある。
休憩がてら、現状の確認を行うことにした。
「ギルド長……。怪我はどうですか?」
「うむ? 〈回復〉のバフを貰ったみたいだが? ウォーカーのスキルか?」
ガイアから奪った、〈HP回復〉。まあ、悪くはないかな? 回復量はショボいけど、時間をかければ効果も実感できる。
本来であれば、俺一人にしか効果を及ぼさないのだけど、パーティーを組んでいる状態であれば、メンバー全員に効果を及ぼせる。逆もできるんだけどね。
(負傷を一人に集約させる……。二度とやりたくないな)
まあ、黙っていればそんな機会も訪れないだろう。
馬が川の水を飲んで、草を食み出した。
この間に次の行動を決めないといけない。
6人で集まって、話し合いを始める。
「まず、ペガサスがいるのであれば、リナリーさまの安全を確保すべきじゃないですか?」
「むう~。何処に行けって言うの?」
「飛べるのなら、王都まで行けるんじゃないですか?」
これは、リナリーさまが反対し出した。
最低でも、俺を連れ帰るつもりらしい。
行くと思っているのか? 連行される理由はない。
「なあ、ウォーカー殿。頼みを聞いて貰えないだろうか?」
セージさんを見る。
「俺に王都に行けと? その後が怖いんですけど? 王族とはいえ、命令権はありませんよね?」
何をさせるつもりだよ。まあ、戦争に加担が妥当だと思うけど。
俺のスキルを知ったら、大人数の戦争に行かせるよね。
「〈未来視〉を持つ巫女が、見つけた人材なのだ。これは、王命でもある」
「その巫女が間違っていますね。俺に価値はないです。他を当たってください」
「むう~!」
ここで、リナリーさまが頬を膨らませた?
リナリーさまと視線が合う。
「当人を前に、良くそんなことが言えるね! これは、拘束してでも連れて行きたくなるな~」
笑顔で、青筋立てているよ。
しかし、失言だったか。
〈未来視〉の巫女は、リナリーさまだったか。
ただの不思議ちゃんだと思ったけど、そうでもなかった。戦場に向かったのも意味があったのかもしれない。
まあ、謝る必要はないと思う。
「のう、ウォーカー殿。従って貰えないだろうか? このままでは、国王の叱責を食らう」
騎兵さんを見る。
「名前を教えて貰ってもいいですか?」
「オウレンだ」
「ウォーカー。王家に逆らうな。一生追われる人生になるぞ?」
今度は、ギルド長を見る。
そう言われてもね。
「私は、ウォーカー君の探しているモノを知ってるよ? 王城に用意してあるんだ~。それに、特大の魔晶石も用意したんだけどな~。要らないのかな~?」
……報酬ってことか?
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