第13話 追跡

 次の日に、冒険者ギルドに向かうと、意外な話を聞かされた。

 ギルド長からの手紙を受け取って知ったんだ。ギルド職員は、不安気だ。


『戦場に動きがあった。リナリー殿下は、護衛二人だけで向かった。私も追いかける。もし来てくれるのであれば、報酬は言い値で払おう。冒険者ギルド長より』


 ギルド長には、恩がある。受け入れて貰ったし、スキルを隠すことに協力もしてくれていた。

 追いかける選択肢しかない。


「……馬を借りられますか?」


 昨日、握手をしていれば、リナリーさまの位置を知ることもできたのに。それと、決断が遅かったのも致命的だ。

 ギルド職員から、もう二枚差し出された。地図と通行証だった。

 通行証は、国境まで行くかもしれないことを示唆している。


(馬車みたいだから、追い付ける可能性があると思う。ギルド長は、夜明けと共に向かったみたいだから、遅れは、2時間程度だ。十分に間に合うよな)


 ギルド職員が、馬を連れて来てくれた。予想していたんだろうな。鞍が付いているし。


「ありがとうございます」


「お願いします。ギルド長を助けてください!」


 最善を尽くすとしか言えない。

 俺は、馬を駆った。


「ギルド長の位置は……、把握できる。かなり進んでいるんだな」


 街の有力者とは、一度パーティーを組ませて貰ったことがある。俺のスキルは、それだけで相手の居場所くらいは分かる。

 『フレンド登録』に近いかな。無許可、強制だけど。

 でも、使えない俺のスキルなんだ。これくらいは、許して貰おう。


 ここで、疑問が浮かぶ。

 リナリーさまは、なぜ急に出発したかだ。

 俺が渋れば、拘束してでも連れて行けばいい。戦場に立たされたら、流石に俺でも本気を出す。


「何かしらの状況が変わったのか?」


 ――ピピ


 ここで俺のスキルが働いた。


『危険度51%、追い付ける確率99%、負傷率10%……』


 この数字から未来を予測する……。


「道中で……、戦闘に巻き込まれそうだな」





 川が見えたので、一度休憩だ。馬を使い潰したら俺が動けなくなる。

 ついでに水筒も取り出す。ギルド職員は、必要そうな物資一式を用意してくれていた。


「ゴクゴク……ふう」


 もう半日、馬を駆けさせている。ギルド長との距離も大分詰まっている。

 つうか、ギルド長の速度から、リナリーさまに追い付いたと考えるのがいいだろう。


「ぶるる……」


 馬が、草を食べ出した。

 流石に馬も疲れていそうだ。休憩は必須だな。

 だけど、急がないといけない。合流が最優先だ。

 スキルを使うか。


「……〈疲労平均化アベレージ〉」

「ひひん!」

「どうどう」


 俺のスキルで、馬の疲労を半分請け負った。馬は、臆病で敏感な生き物だ。

 僅かの変化でも、混乱する。


おまえの、HPとVITの減少した数値を半分請け負っただけさ。もう少しだけ頑張ってくれ」


 優しく鼻を撫でると、馬は落ち着いたらしく、俺を乗せてくれた。

 さて、急がないとな。



 川から離れると、森から草原へと変化した。だけど、道だけは舗装されている。

 いい放牧地になりそうだけど、入植者はいない。

 街から遠すぎるからだろう。

 それに、怪物モンスターがちらほら見える。襲われないとは、限らないんだ。危険生物の徘徊する世界なんて、こんなもんなんだろう。

 少なくとも、土地の奪い合いは起こっていない。


「ギルド長の位置は……、動いていない?」


 最悪の予想が、当たったかもしれない。

 俺は馬を駆った。

 山の谷間に差し掛かった時だった。

 金属音……、戦闘音が聞こえた。


(そろそろか?)


 俺は、短剣を抜いた。

 そうすると、矢が飛んで来た。

 馬を操作して、躱して行く。

 来ると分かっていれば、例え挟撃されても当たる事はない。射手の位置なんて、丸見えなんだし。

 それと、〈動体視力〉だな。レストから10%奪ったスキルだけど、実用性があるな。矢を見れるって便利だ。


「二人……、三人かな?」


 無視して進むと、落石が見えた。馬では通れそうだけど、馬車では無理だな。

 その程度の落石だった。


「頼むぜ」


 正直、乗馬はあんまり得意じゃない。馬に任せることしかできなかった。

 だけど、馬は障害物を跳んで回避してくれた。

 着地も完璧だ。優秀な駿馬を借りられたらしい。


 その先に兵隊と思われる人達がいた。

 こちらに背を向けている。

 俺は、馬を直進させて、何人か弾き飛ばした。


 その騒動が、視線を俺に集めることになる。


「ウォーカー?」


「ギルド長……。無茶しないでくださいよ」


「えっ、ウォーカー君?」


 リナリーさまも、確認した。護衛の二人も戦闘中だ。

 どうやら、間に合ったようだ。

 でも、こっからなんだよね。

 今日は、忙しい一日になりそうだ。いや、なっている……か。

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