第12話 指名依頼2
とりあえず、説得が始まった。
ギルド長とセージさんが、俺の味方をしてくれる。もう一人の護衛は、口を開かない。
「王族が担う任務じゃないです。もっと、全体に指示を出してください。そもそも、【真理を知る天秤】の監視というのも、どうかと思いますよ?」
「むう~。男女差別はいけないと思うんだけど?」
リナリーさまが、頬を膨らませる。
見ていて可愛いけど、正論をぶつけて論破する。俺に妥協はない。
「じゃあ、ウォーカー君が依頼を受けてくれるで、いいの?」
う……。全員の視線が集まって来る。
考えてしまう。俺のスキルで情報収集か……。
アイディア次第だけど、現時点で厳しい。
冒険者ギルドから、数人紹介して貰って、潜入任務に就くのが正しいかもしれない。
国が欲しがる情報も、依頼書には書かれていないし。
「何を調べて来ればいいかによりますね」
「それを聞いたら、逃げられないよ?」
「現時点で、逃げられないと思っています」
リナリーさまは、いい笑顔だ。
それに比べて、俺の気分は沈み込んでいる。
◇
とりあえず、ギルド長が保留にしてくれた。
考える時間をくれるらしい。
部屋から出ると、俺に視線が集まる。
(もう、この街も終わりかな……)
移動が正しいかもしれない。資金もそれなりに溜まった。そして、この地に俺の欲しいモノはないと思う。
「ウォーカー君。連絡待ってるね」
リナリーさまが手を出して、握手を求めて来た。
俺は敬礼で返す。
「む~。差別を感じるな~」
握手した瞬間に、手首を切り落とされそうだ。
この世界には、回復魔法がある。切断程度なら、回復させてしまうんだ。
首の切断以外なら、結構見ている。
その後、無言で冒険者ギルドを後にした。
「あ、ウォーカーさん。いらっしゃいませ」
久々に飯屋に来た。挨拶してくれたのは、看板娘のメグだ。
ちょっと高い店なので、節約している俺はたまにしか来ないが、愛想を振り撒いてくれる、いい娘だと思う。
15歳くらいのまだ幼さの残る顔立ちが、可愛らしい。この娘も人族だ。髪が茶色く、後ろで束ねている。そして、ウェイターだからかもしれないけど、ちょっと手足が筋肉質だ。胸の成長は、今後に期待だよね。
ヨーロッパよりも中東って感じの顔つきだ。俺は、異世界に来た時に白人も黒人も怖かった。今は見慣れたけど、メグはそんな俺を気遣ってくれた経緯がある。
最初の出会いが、餓死しそうで裏路地で倒れてた俺を保護してくれたってのもある。
金欠の俺は、たまにしか来れないが、生存確認のためにも定期的に通わないといけない。メグの親父さんからは、『金がなくても定期的に顔を出せ、ツケにしてやる』と言ってくれた。冒険者を始めた頃は、泣きそうだったよ。
死亡者が多い街のせいなのか、人の温かさを感じさせてくれた人たちだった。
「ご注文は?」
「シチューと、穀物料理を何かお願いします」
「う~ん、パスタでいいですか?」
「トマトソースをお願いします。辛いのは苦手なので、それも注意で」
「うふふ。かしこまりました」
メグは、いたずらの気がある。たまに食事で嫌がらせして来るが、それが男心を刺激するらしい。
(激甘と激辛料理は勘弁だよな。激甘パスタは、吹き出してしまった。)
混む時間じゃないので、すぐに料理が運ばれて来た。
パスタを一口食べる。
「普通だね……。美味しいです」
「うふふ。もうちょっと通ってくださいね。待っていますから」
メグとわずかに話しただけだけど、まばらな客の視線が痛いな。
それほど親しい関係ではないんだけどね。
シチューは、具材が多いので、俺には御馳走だ。
もう少し収入が多ければ、毎日通えるけど、料理のできる俺は自炊が主だ。
全部食べ終わって、会計になった。銅貨3枚だ。
「ありがとうございました」
メグが、銅貨を受け取って、替わりに紙を差し出して来た。
『絡まれている王族は、王妹に当たる人です。敵国は戦力が揃って来ているので、開戦の兆しあり。敵国への潜入を探っているみたいで、目的は敵将軍の暗殺だと思われます』
一度読んだら、その場で燃やした。
「美味しかったです。また来ますね」
そのまま、メグの飯屋を後にした。
メグの父親には、少しばかり恩を着せた過去がある。そして、酒場を経営していることもあり、情報を流してくれる。
まあ、持ちつ持たれつだな。食材が手に入ったら、卸しているのもあるし。
本当なら、娼館も情報源になるが、俺のスキルの足を引っ張る可能性があるので通えない。
まあなんだ。2回の異世界転移で精神年齢は、八十歳以上だ。〈
性欲もかなり枯れている。資金もないしね。
「文明的には、中世から前近代くらいだけど、冒険者の楽しみが、食う・飲む・ヤるが主体の世界なのは慣れないな。俺は、煙草も女性も要らない。ネットやスマホが恋しいよ」
歩きながら考える。
(情報は揃って来たかな。逃亡率1%の時点で逃げられないとは思うし。最優先は、俺の生存率だ。それと、リナリーさまを死亡させたり、捕虜にされた時点でこの国にはいられなくなる。
依頼を受ける前提で、未来を予測している。
――ピピ
ここで俺のスキルが働いた。
『依頼成功率59%』
(ダメだな。これだけ危険な任務なんだ。最低でも成功率80%は欲しい)
現時点で受ける訳にはいかない。
後必要なのは、情報なのか、味方なのか。
未来を知れると言っても、余りにも曖昧だ。
ダイソンなんか、0.5%を引き当てているんだしね。
「もうちょっと粘って、引き延ばすか」
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