第12話 指名依頼2

 とりあえず、説得が始まった。

 ギルド長とセージさんが、俺の味方をしてくれる。もう一人の護衛は、口を開かない。


「王族が担う任務じゃないです。もっと、全体に指示を出してください。そもそも、【真理を知る天秤】の監視というのも、どうかと思いますよ?」


「むう~。男女差別はいけないと思うんだけど?」


 リナリーさまが、頬を膨らませる。

 見ていて可愛いけど、正論をぶつけて論破する。俺に妥協はない。


「じゃあ、ウォーカー君が依頼を受けてくれるで、いいの?」


 う……。全員の視線が集まって来る。

 考えてしまう。俺のスキルで情報収集か……。

 アイディア次第だけど、現時点で厳しい。

 単独ソロの俺は、無力なんだ。

 冒険者ギルドから、数人紹介して貰って、潜入任務に就くのが正しいかもしれない。

 国が欲しがる情報も、依頼書には書かれていないし。


「何を調べて来ればいいかによりますね」


「それを聞いたら、逃げられないよ?」


「現時点で、逃げられないと思っています」


 リナリーさまは、いい笑顔だ。

 それに比べて、俺の気分は沈み込んでいる。





 とりあえず、ギルド長が保留にしてくれた。

 考える時間をくれるらしい。

 部屋から出ると、俺に視線が集まる。


(もう、この街も終わりかな……)


 移動が正しいかもしれない。資金もそれなりに溜まった。そして、この地に俺の欲しいモノはないと思う。


「ウォーカー君。連絡待ってるね」


 リナリーさまが手を出して、握手を求めて来た。

 俺は敬礼で返す。


「む~。差別を感じるな~」


 握手した瞬間に、手首を切り落とされそうだ。

 この世界には、回復魔法がある。切断程度なら、回復させてしまうんだ。

 首の切断以外なら、結構見ている。


 その後、無言で冒険者ギルドを後にした。



「あ、ウォーカーさん。いらっしゃいませ」


 久々に飯屋に来た。挨拶してくれたのは、看板娘のメグだ。

 ちょっと高い店なので、節約している俺はたまにしか来ないが、愛想を振り撒いてくれる、いい娘だと思う。

 15歳くらいのまだ幼さの残る顔立ちが、可愛らしい。この娘も人族だ。髪が茶色く、後ろで束ねている。そして、ウェイターだからかもしれないけど、ちょっと手足が筋肉質だ。胸の成長は、今後に期待だよね。

 ヨーロッパよりも中東って感じの顔つきだ。俺は、異世界に来た時に白人も黒人も怖かった。今は見慣れたけど、メグはそんな俺を気遣ってくれた経緯がある。

 最初の出会いが、餓死しそうで裏路地で倒れてた俺を保護してくれたってのもある。

 金欠の俺は、たまにしか来れないが、生存確認のためにも定期的に通わないといけない。メグの親父さんからは、『金がなくても定期的に顔を出せ、ツケにしてやる』と言ってくれた。冒険者を始めた頃は、泣きそうだったよ。

 死亡者が多い街のせいなのか、人の温かさを感じさせてくれた人たちだった。


「ご注文は?」


「シチューと、穀物料理を何かお願いします」


「う~ん、パスタでいいですか?」


「トマトソースをお願いします。辛いのは苦手なので、それも注意で」


「うふふ。かしこまりました」


 メグは、いたずらの気がある。たまに食事で嫌がらせして来るが、それが男心を刺激するらしい。


(激甘と激辛料理は勘弁だよな。激甘パスタは、吹き出してしまった。)


 混む時間じゃないので、すぐに料理が運ばれて来た。

 パスタを一口食べる。


「普通だね……。美味しいです」


「うふふ。もうちょっと通ってくださいね。待っていますから」


 メグとわずかに話しただけだけど、まばらな客の視線が痛いな。

 それほど親しい関係ではないんだけどね。

 シチューは、具材が多いので、俺には御馳走だ。

 もう少し収入が多ければ、毎日通えるけど、料理のできる俺は自炊が主だ。


 全部食べ終わって、会計になった。銅貨3枚だ。


「ありがとうございました」


 メグが、銅貨を受け取って、替わりに紙を差し出して来た。


『絡まれている王族は、王妹に当たる人です。敵国は戦力が揃って来ているので、開戦の兆しあり。敵国への潜入を探っているみたいで、目的は敵将軍の暗殺だと思われます』


 一度読んだら、その場で燃やした。


「美味しかったです。また来ますね」


 そのまま、メグの飯屋を後にした。

 メグの父親には、少しばかり恩を着せた過去がある。そして、酒場を経営していることもあり、情報を流してくれる。

 まあ、持ちつ持たれつだな。食材が手に入ったら、卸しているのもあるし。

 本当なら、娼館も情報源になるが、俺のスキルの足を引っ張る可能性があるので通えない。

 まあなんだ。2回の異世界転移で精神年齢は、八十歳以上だ。〈時間回帰タイムリープ〉持ちのスキルを応用した結果だった。

 性欲もかなり枯れている。資金もないしね。


「文明的には、中世から前近代くらいだけど、冒険者の楽しみが、食う・飲む・ヤるが主体の世界なのは慣れないな。俺は、煙草も女性も要らない。ネットやスマホが恋しいよ」


 歩きながら考える。


(情報は揃って来たかな。逃亡率1%の時点で逃げられないとは思うし。最優先は、俺の生存率だ。それと、リナリーさまを死亡させたり、捕虜にされた時点でこの国にはいられなくなる。単独ソロで潜入して、軍に紛れ込むのが正解かな……。それで、情報を得て敵将を仕留める)


 依頼を受ける前提で、未来を予測している。


 ――ピピ


 ここで俺のスキルが働いた。


『依頼成功率59%』


(ダメだな。これだけ危険な任務なんだ。最低でも成功率80%は欲しい)


 現時点で受ける訳にはいかない。

 後必要なのは、情報なのか、味方なのか。


 未来を知れると言っても、余りにも曖昧だ。

 ダイソンなんか、0.5%を引き当てているんだしね。


「もうちょっと粘って、引き延ばすか」

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