第11話 指名依頼1

 着替え終わったら、王族の護衛が来た。

 装備が普通じゃない。

 武器防具が、一級品だよ。この街にいると、浮いている自覚はあるんだろうか?

 目立っているんだけど……。


「ウォーカー殿。リナリーさまが、お呼びだ。時間を作って貰えないか?」


「時間は大丈夫です。だけど……、話の内容が怖いですね」


 俺は部屋から出て、ついて行く意思を示す。逆らっても意味がない。

 こうして、歩きながら話をすることになった。


「【真理を知る天秤】は、王族預かりですか?」


「休戦状態だが、戦場がいくつかある。そこに送り込むそうだ。戦争が起きなければ、20年間の拘束になるだろうね。もしくは未開拓地域の調査だが……、選ぶ者はそうはいない。後は、適正に合わせて職場を決めるかだな」


 20年の拘束か……。冒険者って自由な身分から、規則が厳しい軍隊か。

 裏がありそうに感じる。

 いや……どれだけの借金をしたかだな。白金貨をサポーターに支払う金銭感覚だ。勝負に出て、負けたんだろう。

 戦場以外は……、危険なのか拘束期間が長くなりそうだ。


 この護衛の人は、セージさんと言うそうだ。

 歩きながら決まったことを教えてくれる。

 死者の出た冒険者パーティーは、この地の領主に衛兵として雇って貰うみたいだ。もしくは、王都での雇用を考えているんだとか。特別待遇みたいだな。

 まあ、これだけの情報で想像できるか。


「……そんなに人材不足なんですか? もしかして国として?」


「先王の時代に……、戦争に負けている。それで他国に賠償金を支払っている。国民一丸となった生産を行っている状況だぞ? できれば誰一人として遊ばせておく状況じゃない。君は……、冒険者とはいえ知らないのか?」


 要点を纏めて説明してくれた。

 国として戦争に負けたのは知っているけど、この街ではあんまり意味がない。


「根無し草なので、流れてついてこの街にいるだけです。次を考えた方がいいですかね?」


 セージさんが、笑みを浮かべた。


「リナリーさまは、人材の発掘も担当されているんだ。君に依頼を出すだろうね」


「無理難題を持ちかけられたら、逃げますよ? それと俺も、『リナリーさま』とお呼びしても大丈夫ですか?」


「そうだね……。最初は、『リナリー殿下』か『リナリー王女さま』がいいだろう」


 『殿下』か……。礼儀とか分かんないけど、大丈夫かな?





 話していると、冒険者ギルドに着いた。

 ドアを開けて中に入る。

 視線が、俺に集中してんだけど……。


「何かありました?」


「いや……、頑張ってくれ。応援してるぞ、ウォーカー」


 知り合いの冒険者から励まされた?

 嫌な予感がするな。


 ――ピピ


 ここで俺のスキルが働いた。


『逃亡成功率1%』


 逃亡成功率? 初めて出たな。

 この確立による未来予測は、最も重要な値が出るように調整した。魔力を使えば、見れる数も増えるけど、一つで十分でもある。

 要は、これから逃げられない状況が続くんだろうな……。



 ギルド長室に案内される。

 まあ、当然の如くギルド長とリナリー殿下がいた。


「ウォーカー殿を連れてまいりました」


「うふふ。ありがと~。待ってたよ、ウォーカー君!」


 プラチナブロンドの髪をなびかせて、リナリー様が太陽のような笑顔を向けて来た。金髪が眩しいです。

 顔もスタイルもアイドル顔負けだ。これで王族なんだから、非の打ちどころがない。

 まあ、俺は身長が低い。

 俺と同程度の高身長が、俺だけにはマイナス要素かな。


 促されたので、椅子に座った。

 ギルド職員が、飲み物を持ってきたらドアが閉められて、防音の魔法がかけられた。

 リナリーさまの背後には、護衛が二人。

 対面に、俺と冒険者ギルド長。

 部屋には、五人だけになった。


「それで、リナリー殿下。話とは?」


「君はせっかちだね~。世間話から入ろうよ~。それと、殿下か~」


 ギルド長を見る。


「ウォーカー……。指名依頼だ」


 ギルド長も顔が真っ青だな。緊張していそうだ。

 そして、依頼書を出して来た。


「他国の軍事活動の調査? 潜入任務?」


「そそっ。護衛を探していたんだ~。それで、ギルド長からウォーカー君を紹介されたという訳なんだよ。一番、仕事の成功率が良い人材だってね~」


 リナリー殿下が、ビシっと俺を指差して来た。


「俺は、サポーターですよ? Dランクですよ? 間違っていませんか?」


 ギルド長を見ると、滝のような汗を流している。

 そんな、2メートルを超える身長で、縮困らないで欲しいな。仮にもドワーフ族だろうに。トロール族と良く間違われるのを、俺は知っている。


「いやな……。ウォーカーの活動報告を求められてだな。いい点だけを説明させて頂いたんだ。俺も驚いたよ。成功率100%だったんだな」


 そう言えば、この街に来てから依頼の失敗はなかったかな?

 それが仇になるとはね。

 断れないことは分かっているけど、少し粘ろう。


「まず、話の流れからリナリー殿下が、他国に潜入することになるんですよね? そのサポートと考えていいですか?」


 リナリー殿下は、俺がギルド長と話している間に、セージさんに詰問していた。

 何か問題でもあったか?


「ごほん! ウォーカー君。まずその『リナリー殿下』を止めようよ。壁を感じるな~」


 なんだ? 呼び方が気に入らなかったのか?


「なんとお呼びすればいいですか?」


「『リナリー』でいいよ? これから、パーティーメンバーの一員になるんだし」


 できるか! 不敬罪で殺されそうなんだけど?

 いや、まずこの状況を乗り切ろう。


「それでは、『リナリーさま』で……」


「う~ん。まあ、いいけど~」


「それで、他国に潜入するつもりですか?」


「そうだよ?」


「もし、見つかった場合は?」


「敵国だからだね。最悪、死刑かな? 捕虜交換とか身代金の場合は、五体満足ではいられないと思う……っで、回答になってる?」


 俺は、戦争で捕虜になった女性がどんな目に会うかを知っている。

 絶対に行かせられないな。

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