第10話 事後処理と休憩

 【真理を知る天秤】と王女さまは帰って行った。多分、王都にだと思う。

 まあ、これから借金の返済に追われるんだろうな。王家の監視も付くんだろう。

 足を引きずっているけど、自業自得だ。回復魔法もあるみたいだし、大丈夫だろう。

 それと、俺には移動制限がかけられた。数日で帰って来るそうだ。

 空飛ぶ魔導具か、転移魔法か……。まあ、興味はないな。


 【真理を知る天秤】が使っていた武器防具だけど、査定が行われたら、王女さまが即金で買い取ってくれた。

 それを街と冒険者の保証に充てて欲しいと言えば、誰も反論しなかった。

 こうなると、不祥事が起きる前提で監視していたのかもしれない。

 まあ、どうでもいいか。

 後は、【真理を知る天秤】が借金を返せれば、全て丸く収まる。金貨何枚なのか聞いとけばよかったな。


「ウォーカー。外にいる女王蟻なんだが……」


 ああ、忘れてた。しかも、女王蟻は寝ているし。

 誰も攻撃しなかったのが、幸いだな。

 こんな街中で暴れられたら街が半壊してしまっていた。


「なあ、ウォーカー……。〈テイム〉に制限時間とかないのか?」


「ないですよ? 厳密には、〈テイム〉とは違うし。その気になれば、俺が死ぬまで味方でいてくれます」


 食事の世話とか洒落になんないけどね。

 その後、現在迷宮ダンジョンには誰も籠っていないことを確認して、迷宮ダンジョン入り口でパーティーから離脱させた。


「ありがとな。次会う時は、敵かもしんないけど、元気でな」


 ――コクン


 女王蟻は、頷いてから迷宮ダンジョンに戻って行った。


「食料は、途中の怪物モンスターで賄えるだろう。でも、数日は誰も迷宮ダンジョンに入らない方がいいよな」


 行きは、急いでくれたけど、帰りがどれだけの時間をかけるのかが分からない。女王蟻の気分次第だ。

 冒険者ギルドに連絡しておこう。





 女王蟻を帰した後に、冒険者ギルドで説明を行った。


「3日ほど迷宮ダンジョンが安定しないと思うので、立ち入り禁止にしてください。まあ、危険を顧みないなら止めませんけど。中層であの女王蟻と遭遇したら、この街の冒険者では対処しきれないと思いますが、それでも行きたい人は、止めません」


 冒険者の反応は、それぞれだ。まあ、3日間とはいえ収入を絶たれるんだしね。でもね、ほとんどが怪我人だ。

 反論は出なかった。


 その後、ギルド長室へ呼ばれた。

 今は、ギルド長と2人きりだ。


「なあ、ウォーカー。何処まで知っていたんだ?」


 質問が曖昧だな。ギルド長は、なにかを探っているのか?


「魔道具のことですか? 王族が来ている時点で怪しいと思いました」


「そうか……。それと、【真理を知る天秤】からの報復があるかもしれん。街への立ち入りは禁止するが、年単位だと庇いきれないぞ? 暗殺者を送り込んで来るかもしれんしな」


 心配し過ぎだな。


「ないとは言い切れませんが、借金まみれの彼等に人を雇う余裕は生まれませんよ。それこそ、一攫千金を得る幸運があればですけど」


「……ないと言い切るんだな」


「まあ、彼等の幸運ラックは、今日尽きているでしょうし」


 そんなのは、スキルを使わなくても分かる。

 二度と会わないことを祈るだけだ。


「肝が据わっているのか、慢心なのか……。まあ、ウォーカーは図太いんだな。その若さで達観しているようにも見えるよ」


 そう言われてもね。

 性格は、そう簡単には治せないんですよ。


 その後、冒険者への保証の話に移った。

 負傷と徴収レヴィーに関しては、金銭で保証できるんだそうだ。

 問題は、死者の出たパーティーだ。


「この街の最上位のパーティー2組だ。流石に、冒険者ギルドとしても依頼を出した手前、保証を出さないといけない」


 依頼クエスト失敗だろう?

 ギルドから無理強いしたのかな?


「なら、【真理を知る天秤】をこき使えばいいのに。王族に渡さずに、この街で飼うことは考えなかったんですか?」


「……使い潰すのが目に見えるだろうに。最悪、街の冒険者が、殺しにかかるぞ」


 俺は、打算しか考えられなんだな。少しは、人間らしい感情も覚えるか。

 その後、ギルド長の相談には乗ったけど、いいアイディアは出なかった。





 迷宮攻略から三日が過ぎた。

 俺は動けないでいた。どうやら、王女さまが事前に指示を出していたみたいだ。

 宿屋の部屋から街を眺めるくらいしかできることがない。


「俺を街から出さないように……か」


 毎度のことだ。

 俺のスキルは真価を発揮すると、周囲が騒ぎ出す。

 いや……、真価はまだ見せていないか。まだまだ本気じゃない。

 それでも監視付きの軟禁状態だ。


 チートというより、珍しいんだろうな。


「組んだ人によって変化するスキル。まあ、分からなくもない」


 考え方次第なのは、俺が一番よく知っている。

 何ができなくて、何処までできるのか。

 高校生だった頃に、MMORPGにはまっていた時期がある。その時のシステムコマンドを模倣してスキルを作り上げた。

 パーティーメンバーの位置をレーダーのように捕捉することから始め、各人のステータス把握、パーティーから見た敵の強さの鑑定……。思いついたスキルは全て実現できた。

 そして、それだけじゃなかったんだ。


「〈模倣コピー〉が大きかったんだよな。まあ、体力も魔力もないんだけど、そこは考え方次第だった」


 最上級魔法を撃てる状態になっても、MPが少な過ぎて撃てないバグが発生した。だけど、アイテムで補う方法を見つけた。

 そして、調子に乗って今の状況だ。


「2回目の異世界転移で、ほとんどのモノを置いて来てしまった。だけど、〈時間回帰タイムリープ〉と〈収納魔法〉を持ってこれたのが大きい。一応はまだ、元の世界に帰れる条件は残っているんだ」


 最悪、死亡する可能性があるので、独りで実験した結果が、2回目の異世界転移だった。

 1回目の異世界と同じ世界なのかも、怪しいと思っている。


「同じ次元の別時間に飛ばされた可能性……。10年後とか20年後に再会できればいいんだけどな」


 希望的観測に過ぎないのは、理解している。唯一の希望は、魔法を使える世界であって、その体系が1回目の異世界と同じということだけだ。根拠としては、乏しいとしか言えない。

 孤独にも慣れた。

 自分の右手を見る。指輪が4個はめられていた。


「これだけが、命綱ってのも頼りないけど、俺にとってこれ以上ないアイテムでもある」


 昔の仲間――元クラスメイトが作ってくれた、俺専用の装備。状況次第では、この指輪一つで世界を壊せる可能性すらある。


 考えていると、馬車が見えた。かなり豪華な馬車だ。

 王女さまが戻って来たみたいだ。


「呼び出しがかかるんだろうな。外出する準備だけしておくか」

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