第9話 ちょっと変わった断罪

 街に迷惑をかけてるし、俺も足を切られた。躊躇う必要もない。償って貰うか。

 今の俺は、4人分のバフがかかっている。それには、〈思考加速〉も含まれる。


「それでは、三つ……、俺の要求を飲んで貰います。拒否した場合は……、冒険者ギルドの法に則って処罰してください」


「味方殺しは、奴隷落ちだな。男なら鉱山労働10年とか……。女性に関しては、ここでは言えないな」


 女性は……体を使った奉仕だと言っている。娼館で金を稼ぎ、負債を返してもいいし、逆に修道女シスターとして、教会への奉仕もあったな。どちらも、自由な生活は送れないんだろう。賠償金は、金貨数千枚だったと思う。

 ギルド長の言葉を聞いて、レストたちは真っ青だ。


「う~ん。王家が保証金を出すからさ、引き取ってもいいよ?」


 可愛らしい王女さまだけど、鉱山労働よりも過酷なことをさせると言っている。戦争で使い潰す気だろうな。

 王族貴族には、余り関わり合いたくないのが本音だ。

 特に俺は、このパターンに何回もあっている。


 周囲を無視して、話を進めることにする。女王蟻も待たせているしね。


「一つ目。高価な武器防具を持っていますよね? それを冒険者ギルドに寄付してください」


「「「「なっ!?」」」」


 痛い所を突かれたみたいだな。


「ねえ、ウォーカー君? もしかして、このパーティーが借金していることを知っているの?」


 王女さまを見る。お姫さま呼ばわりしたら、失礼に当たるのかな?

 まあ、関わり合うのは、今日限りだろうけど、礼儀をわきまえよう。


「そこまでは知りませんでした。でも、新品の武器防具を見れば察しは付きますね。それに転移装置と徴収レヴィーの魔導具は、借用品だと想像できます。個人所有ならば、Sランクもありえんじゃないですか?」


 もし彼等がこの二つを所有しているのであれば、こんな辺境に来る理由がない。そして、使い方が間違っている。

 焦らずに、ゆっくりと地道に進めば、どんな迷宮ダンジョンでも攻略できる。それほどの価値があるはずだ。

 俺は、ゲームでそれを知っている。ゲームならば、移動系の誰もが使えなければならない魔法装置に、外道と思える魔導具の組み合わせなんだ。

 どちらもこの世界では、チートになるはずだ。


「あはは。正解! 持ち逃げされたりしないように、私が監視役として来たんだ~」


 ほう……。ちょっと計算狂ったかな?


「それで、2つ目。転移装置と徴収レヴィーの魔導具を俺にください」


 周囲がザワザワしだす。


「それは……、無理があると分かって言っているよね」


「先に考えていました。王家からの借用品とは思っていませんでしたけど」


「その要求は、他に替えられない?」


「では、同程度の魔晶石を要求したいです」


 魔晶石とは、魔力を吸収する結晶だ。魔晶石自体も魔力を帯びている場合もある。

 これを集めることが、俺が元の世界に帰るために必要なことの一つなんだ。思わぬ形で、手に入りそうだ。


「う~ん。その件は、王家が預かるよ。王都のオークションに掛け合ってみるね」


 驚いてしまう。


「王家が協力してくれるのですか? 一介の冒険者の案件に?」


「うん? 支払いは、【真理を知る天秤】だよ?」


 下手をすると、借金が数倍になるんじゃないか?

 まあ、この件は妥協するしかない。

 俺は、王女さまの提案で妥協することにした。


「最後に、3つ目。デバフ効果を受けて貰います。まあ、スキルの10%減と考えてください。罰ゲームを受けて、これからの人生を生きてください」


 全員が理解できないみたいだ。

 こればかりは、俺のスキルに関係している。この世界の魔法体系に属していないのもある。

 俺は、懐に手を入れて、〈収納魔法〉を展開させた。そして、指輪を4つ取り出す。

 多分、普通に懐から指輪を取り出したように見えるだろう。

 この指輪は、STR強化のスキルが封印されている指輪と同等のモノだ。ただし、スキルは封印されておらずに空だ。


「これは、とある魔石を加工した指輪になります。簡易的な〈スキル:強奪ロブ〉の効果を秘めています」


 ちょっと嘘を混ぜる。


「へ~」


 王女さまの目が輝く。見たことないのか。まあ、当たり前だ。〈スキル:強奪ロブ〉は、魔石と俺のスキルを組み合わせることにより、発現できんだし。

 これは、昔の仲間に作って貰った、俺のスキルと共鳴する一品なんだ。世界に10個しかない。

 それに〈スキル:強奪ロブ〉は、過去の英雄が発現したスキルだ。有名ではあるが、使い手はまずいない。いても、隠すだろうしね。それほど、強力なスキルだ。受ける側からすれば、脅威や凶悪かな?


「……何を奪うって言うんだ?」


 レストが、口を開いた。そりゃ、〈強奪ロブ〉って聞けば、今後の生活にも影響が出るだろうし、怖いんだろうな。


「レストからは、〈動体視力〉。ガイアからは、〈HP回復〉。メルフィからは、〈MP回復〉。マーリンからは、〈高速詠唱〉かな……」


 【真理を知る天秤】は、考え出した。

 『スキルの10%減』と言った。その言葉の意味を考えているんだろう。

 まあ、過去の英雄は、〈鷹の目〉を奪って失明させたとか聞いている。だけど固有名詞が付くほどのスキルを発現させている人は、本当に稀だ。


「本当に、10%なんだな?」


 交渉できる立場でもないだろうに。


「過去の英雄クラスのスキルが使えるのであれば、俺はサポーターなんかしてませんよ」


 少し時間はかかったが、【真理を知る天秤】は首を縦に振った。


「ああ、そうだ。この足の傷も引き取って貰おうかな? それと、荷物持ちって全身が痛くなるんですよ。まあ、〈痛みペイン〉ですね」


 反論は出なかった。理解できないことが読み取れる。

 交渉成立だな。

 まあ、奴隷落ち10年よりは、借金まみれの方がいいだろう。そう錯覚させた。


 まず、武器防具が剥ぎ取られて行く。女性二人は、杖とローブだけとした。全裸にして辱めてもいいかもしれないが、俺は興味がない。

 次に、王女さまに一筆書いて貰った。


「これでいいかな?」


『王都にある、大き目の魔晶石を送ってください。リナリーより』


 簡単すぎない? 手紙の宛先は誰?

 でもまあいいとしよう。

 現物が手に入れば、俺は文句ないし。


 それじゃあ、メインディッシュだ。

 右手に指輪を4つはめて、順番に【真理を知る天秤】に触って行く。指輪の魔石に彼等のスキルが吸収された。

 彼等は即座には、理解できないみたいだ。でも確実に彼等にデバフをかけた。


 俺がパーティーメンバーにこの指輪をつけて触れると、能力スキルを奪うことができる。

 遺産レリック級の、この世界で俺しか持っていない指輪なんだ。超高度な魔法がかけられている。それと、希少な魔石だな。複製は無理だろう。

 この指輪は、昔の仲間に作って貰った。俺の奥の手でもある。

 まあ、こんな簡単に出すなって話だけど、実際問題として今の俺には余裕がない。

 彼等にかけたデバフ分を、俺のバフに変える。考え方によっては、チートだけど、奪う相手によるんだよな。

 【真理を知る天秤】から奪ったスキルは、正直ショボい。そのうち捨てることになりそうだ。


 レストは、視力を失うと考えていたらしいが、俺はそこまで鬼畜じゃない。

 他の3人は、実感がわかないみたいだ。

 まあ、実戦に出れば分かるよね。


「それじゃあ、最後かな……。俺のダメージを4人で分け合ってね。〈スキル:負傷返還プレス〉!」

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