第8話 帰路へ

 俺は、女王蟻に乗せて貰い、迷宮ダンジョンの入り口を目指すことにした。

 道中の怪物モンスターは、女王蟻を見ると逃げて行く。レベルが違うよね。

 中層に辿り着くと、冒険者とも出会った。

 皆、驚いているよ。女王蟻は、デカいからね。


「ウォ、ウォーカー? その怪物モンスターを〈テイム〉したのか!?」


「その認識であっています。それと、地上の街まで着いたら、女王蟻が戻ります。迷宮ダンジョン内にいる冒険者に退避を勧告して貰ってもいいですか?」


 厳密には、違うんだけどね。

 従僕関係はない。なので、俺の命令を100%聞いてくれる訳でもない。

 俺からの要求は、2つ。

 1.兵隊蟻を下層に留めること。

 2.足を怪我して歩けない俺をまで運ぶこと。

 この条件を受け入れて貰った。

 女王蟻の背中に乗りながら、迷宮ダンジョンを逆走する。


(成功確率0.1%でも、数撃てば当たるよね。マーリンの〈高速詠唱〉が大きかったな。512回目で成功。まあ、30分の余裕があったし、1秒間に数回スキルを発動できれば、成功するよね)


 俺のスキルの利点を利用させて貰った。

 俺は、パーティーを組んでいるメンバーのスキルを〈模倣コピー〉することができる。組み合わせ次第では、チートにもなりえる。

 昔の話になるが、〈超速魔力回復〉と〈詠唱破棄〉の組み合わせであれば、大規模殲滅もできた。

 そして、俺のスキルを知ると、貴族が出て来て利用しようとして来る。余りにもしつこい奴がいたので、〈記憶喪失魔法〉を取得したくらいだ。

 そうやって、街を数ヶ月単位で移動しながら生活して来た。


「〈複数回攻撃〉と〈クリティカルヒットUP〉を組み合わせて、ドラゴンと戦えとか、バカな考えをする奴もいたな~」


 防御をどうすんだって話だ。〈回避〉スキルがなければ、前衛は務まらないだろうに。俺は、万能じゃないんだよ。

 まあ、俺は異世界転移者だ。現地人からしたら、チート持ちになるんだろうな。

 でもね、発動条件が特殊過ぎて、理解されないのよ。泣けてくる。


 それに使える〈スキルコマンド〉も決まっている。今後、経験によって増えるかもしれないけど、期待はしていない。

 下手をすると、レベルキャップに達している可能性もあるからだ。


「自分自身を〈鑑定〉できない鑑定士……。それが俺だ。まあ、ステータスにレベルの項目がないので、視れたとしても確認はできない。この世界では、鑑定士自体が珍しいしね」





 迷宮ダンジョン入り口に着いた。

 街に入ると、衛兵が槍を突き付けて来たよ。


「あ、大丈夫です。〈テイム〉していますので。冒険者ギルドまで俺を運んでくれたら、大人しく迷宮ダンジョンに帰らせます」


 俺の背後には、冒険者が続いている。全員青い顔をして。

 探索の邪魔をしてゴメンなさい。

 それと、冒険者ギルドで迷宮ダンジョンに籠っている奴の確認をしないとな。

 今、俺の後ろには12人いる。先日のAランク冒険者に付き合ったので、まだ街の冒険者は、怪我人だらけだけど、全員街にいるとは言い切れない。


 衛兵に先導されて、街の中央通りを進んで行く。

 商店などは、店じまいだ。迷惑かけてごめんなさい。短時間で済ませます。

 そんなこんなで、冒険者ギルドに着いた。

 ドアを開けて、ギルドの建物に入る。


「そんでよ。サポーターが荷物をぶちまけちまって、それを拾っていると、怪物モンスターに囲まれてさ。ほんっとに使えなかったぜ」

「そうね~。足手まといだったわね~」

「顔は、可愛かったんだけど~、お姉さんの魅力には気がつかなかったし~」

「ゴフゴフ……」


 楽しそうな会話が聞こえた……。

 俺は、足を引きずりながら、そのテーブルに近づく。


 ――ドン


 女王蟻が、ギルドの建物に入ろうとして来た。俺の怒りの感情を感じてくれているみたいだ。

 視線が、俺に集中する。


「「「「ウォーカー!? 生きていたのか!?」」」」

「……どうゆうことなのかな~?」


 レストたちは、王女さまに報告を行っている最中だったのか。ベストなタイミングだ。

 冒険者ギルドの建物が揺れる。

 俺は、女王蟻を制止した。


「その報告……。俺も聞かせて貰ってもいいですか?」


 レストたちは、一瞬の逡巡の後、逃走を選択した。

 出入口は、女王蟻が塞いでいるので、窓にダイブしたのがレストだ。ギルド受付カウンターを飛び越えて裏口から逃げようとしたのがメルフィ。転移魔法を使おうとしたのがマーリン。何故か、二階に逃げたのが、ガイアだ。

 即座に、衛兵と王女さまの護衛兵が動く。遠巻きに見ていた冒険者たちも協力してくれている。

 秒で制圧したよ。いくらAランク冒険者とはいえ、数の暴力には勝てないよね。


(衛兵はともかく、王女の護衛は、マジに強いな。レストたちに疲労が残っているとしてもだ)


 全員が縛られて、俺の前に座らされた。


「そんじゃさ、ウォーカー君? 君の話を聞きたいかな~」





 王女さま……、リナリー王女さまに迷宮ダンジョン10層で起こったことを説明した。

 ついでに嫌がらせとして、転移装置も持って来た。

 これは、俺が10層まで到達したことの証明でもある。

 レストたちに功績を立てさせる気がないのもある。今できる最高の嫌がらせだ。


「ふむふむ。ウォーカー君の説明の方が、説得力があるね~」


 それと、冒険者ギルドに所属している全員が殺気立っていた。まあ、徴収レヴィーの魔導具は、それだけ不評だったんだろう。9層に行くまでに、死者まで出してんだし。心証は最悪だよね。


「それで、どうする? こいつらを裁く権利は、ウォーカーにあるだろう。それも、王女さまの認定付きでな」


 ギルド長を見る。

 断罪とか興味ないけど、今回は必要だな。

 この街の冒険者に還元しないといけないし。


 それと……、女王さまは、興味深く俺を見ているよ。

 また、このパターンだ。

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