第7話 10層のボス戦2

「どうなっているんだ? 蟻の猛攻が止まらなくなって来たぞ? 何度目の襲撃だよ? 兵隊蟻がこんなにいるなんて聞いてないぞ!?」

「結界は、もう長時間は持たないわ。早くなんとかしてよ! 私は、防御と回復専門なのよ。守ってよね」

「MPが枯渇してきてるって。削り切れないよ。あ~もう、もっとマナポーションを持って来ればよかったのに~」

「体力ががが……」


 戦闘開始してから、10時間が経過した。

 籠城作戦にも、限界が来たみたいだ。

 そもそもだけど、兵隊蟻の数を把握していなかったと思う。彼等からすれば、雑魚なのかもしれないけど、群れで来られた場合に、殲滅できるか否かを考えていなかったんだろうな。


 冒険者ギルドの方も、動きが慌ただしそうだな。俺はスキルで一度でも組んだことのある冒険者の位置を知ることができる。俺だけ見える、地図で街の様子を確認すれば、人の流れも把握できるんだ。

 徴収レヴィーによるバフにも、限界は来る。どう考えても無限じゃない。

 そして、内容はギルド長が知っている。まあ、致命的に長期戦に弱い。10時間は耐えたけどね。


(体調が悪くなったら、冒険者ギルドから退避すればいいだけだもんね。どうせなら、街全体にデバフをかけないと逃げられるよ。もしくは、商業ギルドと労働者ギルドにもデバフをかけるべきだったんだ。魔導具の効果範囲に限界があったのかな?)


 俺に事前に話してくれていれば、今の状況は回避できた。正直、物資が少な過ぎる。予備の武器も今使っているのが最後だし。

 まあ、結果論かな。

 未来視の言葉も曖昧みたいだし。

 新しい仲間が誰なのかを言わなかった時点で、未来が曖昧だと言っている。

 そして、俺を仲間にすれば、勝てる可能性があるってだけだ。確実じゃない。

 それは俺の気分次第で負けると言っている。彼等だけでは、勝つ未来は得られないんだろう。

 まあ、推測は立てられるな。俺も数字でだけど、未来を知る術があるんだし。


 もう何度目か分からない蟻の襲撃が止まった。

 ここでの正解は、結界を解いて女王蟻を瞬殺することだ。周囲の兵隊蟻から攻撃を受けるけど、無視して特攻すれば、可能だと思う。まあ、噛みつかれて、全身傷だらけになるのが嫌なんだろう。

 このパーティーならそれができるけど、リスクは取らないらしい。周囲の兵隊蟻を全滅させてからと考えているみたいだ。

 俺も助言はしない。見ているだけだ。そんな契約内容だしね。

 この後、パーティーは小休止を選んだ。


「はあはあ。どうするのよ? もう、徴収レヴィーも微々たるモノじゃない。気付かれているわ。短期決戦じゃなかったの?」


 まあ、一発芸なのは、理解しているらしい。

 リーダーは、思案気味だ。

 次の襲撃には耐えられないのは、全員が理解している。結界も持たないだろう。

 特攻か、撤退か……。


「撤退する……」


 その言葉を聞いて、俺は立ち上がった。撤退であれば、荷物を運ぶ必要はない。

 転移装置まで、走るだけでいい。

 そう思った時だった。


 ――ザシュ


 俺の足から、鮮血が飛び散った。


「痛てぇ。何すんですか?」


「撤退するにしても、仕方があるんだよ。まあ、理由だな」


 レストを睨みつける。


「俺が足手まといだった……と?」


「頭良くて助かるわ。時短できんじゃん。やっぱお前は、有能なサポーターだったわ」


 これが王都のAランク冒険者か……。実力は認めるけど、正直クズだな。


「ゴメンね~。仲良くしたかったんだけど~」


 マーリンが、再度胸を押し付けて来る。正直嬉しくない。

 つうか、痛みでそれどころじゃない。


「結界は、30分ほどで消えるわ。その後は自由にしてね」


「アディオス」


 クズ4人……。助けなくて良かった。

 言いたいことを言ったら、【真理を知る天秤】は撤退した。俺を生贄に残して。

 転移装置が、10層前に設置できた以上、危険を冒す理由もないんだろう。

 次は、街の冒険者が回復したら数の暴力で押し潰せばいい。

 徴収レヴィーではなく、街の冒険者を雇って、襲撃と撤退を繰り返せばいいだけだ。

 それくらいは、あいつらでも考え付くだろう。


 ――ギュ


 切られた箇所の止血を行った。


「ふぅ~」


 ため息が出た。

 何してんだろうな。

 俺の目的は、元の世界に帰ることだけど、日銭稼ぎで命が危なくなっている。

 まあ、死ぬことはないけどね。

 それは、俺のスキルで確認できる。今日の俺の死亡率は0%だ。


 ここで、女王蟻が前に出て来た。

 俺一人ならば、危険ではないと判断したんだろうな。

 だけど、俺はまだパーティーを組んだままだ。この状態の俺であれば、いくつかの方法が試せる。

 今度は、俺がレストたちから徴収するか、それとも……。


 少し思案して、決断した。


「よう……、俺とパーティーを組まないか?」


 俺は、女王蟻に向けて右手を差し向けた。

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