第6話 10層のボス戦1

「……蟻の怪物モンスターですね。しかも人間大の」


 長高10メートルはありそうな女王蟻と、数えきれない兵隊蟻が見えて来た。

 この数は、流石にヤバい。これは、街の冒険者を総動員しないと勝算ないぞ?


「ホーリーシールド!」


 メルフィが、結界を張った。結界に触れると、蟻に電撃が走るみたいだな……。もしくは、光魔法? 聖魔法?

 俺は、荷物を降ろした。動く必要がないとの判断だ。


「この後は、どうするんですか?」


「一匹ずつ丁寧に間引いて行くんだよ」


 そう言うと、レストが剣を振り下ろした。ガイアも続く。魔力を使った飛ぶ斬撃だな。

 マーリンは、火魔法みたいだ。MPを配慮しないで、ガンガン撃っている。

 安全地帯から、中長距離の攻撃で殲滅か?


 正直、違和感がある。


(こいつら、10層の情報を掴んでいる?)


 余りにも迷いがなかった。

 俺なんか、人間大の蟻を見た時点で、竦んだというのにだ。

 とりあえず、俺は座ることにした。もうこの時点で囲まれている。撤退もできないけど、俺には攻撃手段もなかった。

 何もすることがない。

 黙って観察していると、質問された。


「随分と落ち着いているのね? 死地に放り込まれたというのに……」


 神官のメルフィからだった。

 彼女は、結界を維持し続けている。この戦法は、この結界の維持時間に依存すると思う。

 余裕があるのか?


「……事前に10層の情報を得ていましたよね? それなら安心して任せられます」


「勝算があるから、王家の許可が出たのよ。それにね、情報なんて実際に行く必要はないの。魔法のある世界なんだから。未来視や過去視、千里眼……、手段は無数にあるわ。あなたのようにね」


 俺のスキルを知っている?

 いや、それはないな。予測だろう。引っかけかな?


「誤解のないように言うと、私たちが10層で戦う場合は、街の冒険者を最低でも一人連れて行く必要があると、予言を受けたの。だから、ウォーカーに残って貰ったのよ」


 だからさっきから、幸運ラックと言っていたのか。そして、この10層を踏破できる可能性もあると言っている。

 それが、未来の情報なのだから、従わない理由もないのか。

 でもね、それって勝率2%なんだよ?


 順調過ぎる気がする。

 考える……。何か見落としがある気がする。


 ――ピピ


 ここで俺のスキルが働いた。


『危険度88%』


 まだ、安全圏じゃないな。





 昼も夜もない迷宮ダンジョンの時間は、感覚では分からない。

 懐中時計で時間経過を確認した。


(もう4時間戦闘を続けているのか……)


 違和感しかない。勇者と戦士は、どんな体力をしているんだ? 魔導師もMP切れがない。魔法を連発している。

 積み上がった、蟻の怪物モンスターの死骸が邪魔なくらいだ。

 神官は、瞑想をしながら結界を維持しているし。


 観察していたら、突然戦闘音が止まった。

 蟻が引き始めたみたいだ。

 蟻は、襲撃と撤退を繰り返している。まるで、軍隊だよ、統率が取れている。軍隊蟻の大軍だよな~。


「ふう~。予定通りだな。飲み物をくれ」


 俺は、荷物から水筒を取り出して全員に配った。


「やっぱさ、バフ100人分ともなると、勝ち確定じゃね?」


 レストの言葉にパーティーメンバーが笑い出した。


(バフ……100人分……ね)


「あら? 気がついたのかしら?」


 神官のメルフィを見る。


「何かのアイテムですよね? 呪い系かな?」


 不敵な笑みを浮かべる、メルフィ。


「まあいいだろう。種明かししてやる」


 勇者のレストが、ネックレスを取り出した。


徴収レヴィーの魔導具だ。冒険者ギルドに設置させて貰った。HP(ヒットポイント)、MP(マジックポイント)だけじゃない。VIT(体力)の減少を変換することもできる一級品なんだ。この戦法ならどんな迷宮ダンジョンも踏破可能だぜ」


 おいおい。今の冒険者ギルドは、怪我人しかいないぞ?

 そんな街の冒険者にデバフをかけたのか。

 盛大なフラグだよね。


「心配は要らないわ。ギルド長の許可を得ているから」


 まあ、王家の命令なら拒めないよね。

 ネタも分かったし、もう興味もないな。本当に帰りたくなって来た。


「……嫌悪感を示さないのか?」


 そう言われてもな……。ゲスい戦法だとは思うけど、現実的ではあると思う。

 100人以上のパーティーを組んでの迷宮攻略よりは、戦術としてよっぽど成り立っている。

 嫌悪感はあるけど、〈スキル:パーティーレベル〉なんて持っている俺は、同じようなことをしているんだし。


「効果的な戦術だとは思いますよ。徴収される方は、たまったもんじゃないですけどね。それでも成果を出せるのであれば、俺は否定しません。まあ、後から街に保証があるといいかもしれませんね」


 【真理を知る天秤】が笑い出した。物静かな戦士のガイアもだ。


「未来視は、正しかったみたいだな。ウォーカー……お前を【真理を知る天秤】に加入させてやる。王都に帰れば、Sランクだぜ」


 断るよ?

 それに、もう勝ったと思っているのか? 底が知れる。

 ここでマーリンが後ろから抱き着いて来た。胸に頭が埋まる……。巨乳をアピールしたんだろうな。


「可愛い顔してるから、可愛がってあげるわ」


 俺は、正直好みじゃないな。

 無視して、スキルを発動させる。再度の確認だ。


 ――ピピ


『危険度85%』


 まだ、脅威は残っている。未来視の人は、この後に俺がこの脅威を見抜く未来を視たんだろう。

 だけど……、こいつらに甘い汁を吸わせることに嫌悪感が出て来た。

 戦術が問題じゃない。人格が好きになれない。

 それが理由だった。


 俺自身も危なくなるけど、助言するのを避けてみるか。

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