第5話 迷宮9層へ

 街を歩いていると、声をかけられた。

 まあ、俺ではないんだけど。


「レスト君。無理してない?」


 その方向を向く。とても綺麗な女性が、護衛を引き連れて声をかけて来たみたいだ。

 しかし、その装飾品多目の服装って、この街に似合わないな。領主ですら、そこまでの装飾品は付けないぞ?

 金髪碧眼、それでいて、抜群のスタイル。例えるなら、ヨーロッパ系のモデルかな?

 宿屋のヒナタさんも美人だったけど、服装だけで差が出ているよ。正にお姫様って感じだ。

 一点上げるのであれば、ミニスカートってとこだな。西洋では、胸を大きく開いた服が多いと聞いた。日本は逆で太ももを出すと聞いたことがある。人種と文化が合っていない気がする。


(どうでもいいことだけど、この世界って顔面偏差値高いよな。辺境だから色んな人種がいるのも大きいかもしれない。『平均顔美人説』だったかな……。様々な人種が入り混じっている地域だと美人が増えて、閉鎖的な地域だと美人が少なくなるとか聞いたことがある。時代が前近代くらいなので、肥満体系の人はまずいないし)


「これは、リナリー王女さま。わざわざ、監視に着て頂き、感謝の言葉もありません」


 考えていると、レストは片膝をついた。

 そして、レストの言葉で、周囲がざわめき出した。皆、腰を落とし頭を下げて、敬意を示す。もちろん俺も習った。


(……王女さま? 監視?)


 その後、レストたちと王女さまの会話を黙って聞く。

 要は、Sランク認定するためには、この王女さまの確認が必要みたいだ。


「街の冒険者に迷惑をかけているよね? 死者も出しているんだし。このままだと、Sランク認定はできないかな~」


 レストは、冷汗を流している。

 俺には関係がないと思った高レベルの認定試験。やはり厳しいらしい。


 リナリー王女さまが、言いたいことだけ言って立ち去った。

 どうやら、【真理を知る天秤】の印象は良くないみたいだ。王都からすると、Aランク冒険者でもこんな扱いなのか。


 そして、レストたちは、真剣な眼差しで、迷宮ダンジョンへ歩み出した。

 まあ、詮索は止めておこう。





 ダンジョン前に着いた。

 転移装置というものを使わせて貰う。本当にワープできるようだ。

 これって、ロストテクノロジーなのか、科学の発展の成果なのか。

 俺の前世ではなかった技術なので詳細が分からない。

 とりあえず、迷宮ダンジョンの9層へ一瞬で来れたんだ。これは便利だと思う。


「とりあえず、周囲に怪物モンスターの気配はない。索敵を頼む」


 リーダーの言葉で、魔導師:マーリンが索敵魔法を使用した。

 魔力感知の怪物モンスターもいると分かっているのか?

 ちょっと抜けていそうだな。

 そして……、怪物モンスターが現れた。

 だけど、このパーティーは、連携を決めて瞬殺したよ。正直強い。街の冒険者とはレベルが違う。


(実力だけは、あるみたいだ。まあ、ステータスゴリ押しとも言えるけど。バフ・デバフの概念があるだけでも違うのにな)


 顔を上げる。

 道は三方向。地図はない。時間経過で変化するからだ。


 ――ピピ


 ここで俺のスキルが働いた。


『左の道:危険度10% 真ん中の道:危険度60%、右の道:危険度90%』


 左の道、一択だな。

 さて、どうやって、説得するかが重要だ。


「ウォーカー。好きな道を選んでくれ」


 リーダーのレストからだった。

 予想外の幸運が来た。だけど、疑問もある。


「何故、俺に決めさせるんですか?」


「ウォーカーがサポーターを務めたパーティーは、幸運が舞い降りると聞いたのでな」


 ちょっと間違っているけど、信頼されているのであれば、応えよう。


「左の道が、有利そうです」


「そうか……。では左の道を進むとしよう」


 あっさり通ったけど、裏がありそうだな。

 転移装置を回収して、移動開始だ。マジックアイテムの〈空間収納〉持ちがいるパーティーって便利だな。


 その後、雑魚モンスターを一回討伐して、また分かれ道に辿り着いた。

 ちょくちょく、トラップがあったけど、全部事前に察知して回避したのも大きい。


「ここって、さっきの場所じゃない?」


 神官のメルフィが疑問を口にする。戦士のガイヤは口数が少ない。


「ちょっと空間が歪んでますね。1/3の確率で辿り着けるギミックかな?」


「把握してるのであれば、任せるけど、後二回で辿り着けるのね?」


「クジ引きの箱から、アタリを引くのとは違います。クジを引く度に1/3です」


 毎回1/100なのであれば、100回クジを引いた時の当たる確率は、38%くらいだ。分母の3倍のクジを引いてやっと100%以上になる。まあ、これも絶対ではないけどね。


「良く分からないわ。最多でどれくらいのかかるの?」


「う~ん。9回ですかね? ですが、左の道を選び続ければ、そんなにかからないかもしれません」


 メルフィは、黙ってしまった。理解できなんだろう。

 まあ、9回なら現実的だろうな。


 その後、ループした空間を数度歩くことになる。怪物モンスターとの遭遇がなかったので、とても早かった。

 そして、5度目でアタリを引いた。

 【真理を知る天秤】は、不満が出る前に10層前に来たので、静かだな。


「ここが、10層入り口になるのか? 戦闘一回って凄い幸運だな」


「俺もそうだと思いますよ。それでは、転移装置を設定して、俺だけでも帰してください」


 荷物を置く。ここから先は、ボス戦との情報を得ている。サポーターは必要ないはずだ。

 そして、ギルドで受けた際の説明では、10層を【真理を知る天秤】だけで踏破すると聞いた。

 詰まるところ、この街の冒険者の任務はここで終わっているはずだった。

 だけど、肩をガシっと掴まれる。


「折角だし、もうちょっとだけ、付き合え。お前の勘は使える。幸運ラックが高いのかもな」


 ステータスにラック(LUC)はないと言いたい。

 それに、ここから先は、契約にないんだけどな~。

 だけど、帰してくれそうにはない。

 最悪一人で逃げようかな。


 まず、10層前で食事を行う。ただし、今回俺は、調理しない。商業ギルドの携帯食だ。

 少し休憩すると、HP・MPが全快したらしい。危険な怪物モンスターが徘徊する9層だったけど、戦闘は一回だけだったしね。

 俺は、荷物から予備の武器を取り出して、最後方で待機でいいと言われた。


(勝率2%の戦いか……。退路だけは確保しておかないとな)


 転移装置の位置を再確認する。最悪一人で装置を起動させればいい。使い方は見て覚えた。魔力を送りこむだけでいいみたいだ。そして、2点間の転移だから、構造としては、簡単だと思う。

 ガイアが、10層の扉を開けて入って行く。

 俺は、最後に入った。


「なんで俺は、迷宮ダンジョンのボス戦に挑んでいるんだろうな?」


 最近愚痴しか出ない自分に、呆れて来た。

 まあ、得るモノがなくて、今回の迷宮攻略に飽きて来たのかもしれない。

 白金貨1枚の仕事は、終わっているしね。

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