第4話 変えられた日常
「はい? 怪我人多数?」
今俺は、錬金術師の工房にいた。商業ギルドの施設だ。
回復薬を作っている最中だ。
そこで、意外な報告を受けた。まだ王都から来たAランク冒険者は、初日だよ?
報告して来たのは、冒険者ギルド職員だ。
どうやら、
迷宮探索には、Cランク以上に入場許可が下りていたが、それでも対応しきれなかったのか。
話を聞くとAランク冒険者パーティーは、戻って来たらしい。補佐役の冒険者たちは、壊滅状態だとか。
数人死者が出て、
(予想はしていたけど、最悪に近いな。特にこの街は、最上位の冒険者を失ったことになる)
それだけでもなかった。低層にも高レベルの
ただし、低層での死者は出なかったらしい。
要は、欲張ったAランク冒険者が原因で、補佐パーティーだけ死者が出たと。
「あの~、ウォーカーさんは、なんで回復薬を作り始めたんですか? 今回の事態を見越していたのですか?」
そうだけど、口には出せないな。
「様子見ですね。Dランクの俺には関係ないけど、
まだ半分……20本くらいだけど、ギルド職員に渡す。
「助かります。でも……、前もこんなことがありませんでしたか?」
まずいな。俺の未来を知れるスキルがバレ始めている。
「環境の変化に慎重に対応すれば、危険も避けられる? まあ、弱者の生存戦略ですね」
難しい言葉を使って、誤魔化した。
それと、会話している時間も惜しいみたいだ。ギルド職員は、急いでポーションを持って行った。
俺は、残りの材料を使って調合しないといけない。
残りのポーションができたので、それを持って冒険者ギルドへ向かう。もう夕暮れだ。
ドアを開けると、怪我人多数だった。
(何処の野戦病院ですか?)
「ウォーカー……、来てくれたか。待っていたよ」
「追加で20本持って来ました。重傷者に使ってください」
ギルド長に渡す。
ここで、ダイソン率いる【金の猛牛】も来た。彼等は、今日は
【金の猛牛】は、怪我人を運び込んでいる。ダイソンなんて、フル装備の冒険者を二人も抱えて運んでいるよ。防具を含めて100キログラムの人を二人も長距離運ぶのか。スキルが羨ましい。
詳細を聞くと、Aランク冒険者パーティーが、9層に踏み込んでから、
タイミング的にそれしか考えられないのだとか。
(トラップでも踏んだのかな? まあ、口に出すと責任の押し付け合いが始まってしまうから言えないけどね)
Aランク冒険者パーティーは、転移装置を設置してから撤退したらしい。
強敵と相対して、即座に決断したと言っている。
それってさ、補佐役を見捨てたと言ってない?
「死亡者は、何人ですか?」
「……Bランクの2人だ。即死だったらしい」
この街にBランクは、10人しかいないのにね。
Aランク冒険者パーティーは、領主の館で休んでいるらしい。
その後、夜通しの治療が行われた。街の協力もあり、冒険者ギルドでの死者は出なかったけど、暫くは冒険者ギルドは運営できないな。
◇
冒険者ギルドでの治療の手伝いが終わって、休憩している時だった。
「Aランク冒険者パーティーは、まだ、迷宮踏破を諦めていない?」
次の日に、噂話が聞こえて来た。
それって、死亡フラグじゃない?
「今度は、商業ギルドと労働者ギルドに協力を要請だとさ」
アホい。商業ギルドは、物資の提供だけだろうな。しかも、今この街にポーションがない。労働者ギルドは、農業を主体として、一次産業を担当している。狩猟と採集、漁や採掘だ。どうやって、協力しろと言うのか。
――ピピ
ここで俺のスキルが働いた。
『危険度87%』
何時もの"率"じゃない。"度"……?
しかも"危険度"だ。俺の未来視が最上位の警告を発している。
今日は、ギルドに顔を出すのを止めておくか。
そう思ったのだけど……。
「ウォーカー。時間あるか?」
商業ギルド長が来たよ。未来を知れても逃げられなければ意味がない。使えないスキルだよな。
◇
「俺に、Aランク冒険者パーティーの補佐をしろと?」
どうしてそんな話になるんだ?
俺は、Dランクなんだけど?
「今、商業ギルドと労働者ギルドでポーションを制作している。全力でだ。それで……、三人のギルド長で集まったのだが、時間稼ぎができないかって話になり、ウォーカーの名前が上がった。つうか、今万全の状態の冒険者ギルド所属は、ウォーカーしかいないんだ」
俺に下層に行けと? 死んで来いと言われている気がする。
実際は、生き残れるけど、それを悟られるようなことをした覚えがない。
……もうこの街には、いない方がいいのかもしれないな。
潮時――嫌な言葉が頭を過る。
「この件は、領主も了承済みだ。それで報酬なのだが、金貨100枚。白金貨1枚を約束してくれた」
「根回しが行き届いていて感心しますよ」
嫌味を言ってみる。
「随分、不遜な態度だな? それだけの実力を見せてくれれば文句は言わないが」
背後から声をかけられた。
振り向くと、Aランク冒険者がいたよ。聞かれていたのか。
――ピピ
ここで俺のスキルが働いた。
『危険度98%』
会話というか、交渉に入った。俺は、参加する気がないことを伝える。
どんなに高い報酬でもだ。
「まず、俺はサポーターです。戦闘力はありません。荷物を運ぶことしかできませんよ?」
「荷物持ちだけでいい。今は、9層入り口に転移装置を設置しているからな。10層手前、もしくは9層出口まで行ければ、白金貨1枚だ。お得な依頼だろう?」
どうあっても、断れないみたいだ。
「ちなみに、名前を教えて貰えますか?」
「【パーティー名:真理を知る天秤】のリーダー、レストだ」
俺は、彼をじっと見つめた。
パーティー名:真理を知る天秤
HP:421/421
MP:568/568
STR:1221/1221
DEX:997/997
VIT:892/901
AGI:1504/1504
INT:831/831
MND:946/946
CHR:1500/1500
(
考える。ここで俺が断ると、他の冒険者にしわ寄せがいく。
ノルマは、一階層分の距離だけ。
全ての
そして、俺には未来視もどきがある……。
街の被害をこれ以上広げないためには、俺が協力すのが最適だ。
そして……、今回の任務を最後にして他の街に移住すれば、俺の真価を追及されることもないだろう。
「分かりました。受けましょう」
こうして、俺の危険度98%の迷宮攻略が決まった。
その場で契約書にサインして、即出発だった。まあ、もう決めていたんだろうな。
「紹介しておく。勇者:レスト、戦士:ガイア、神官:メルフィ、魔導師:マーリンだ」
メルフィとマーリンが女性だ。
まあ、これで情報を得られる状態が整った。
俺は、今後彼等の動向を知れることになったな。サーチ……追跡まがいのことをしなくていいことを祈ろう。
「荷物を確認させて貰えますか?」
「発注済みだ。もうすぐ来るだろう」
暫くしたら、荷物が運ばれて来た。
「少ないですね?」
「今日一日で、9層の出口まで行く予定だ。そこで、転移装置を設置して退却する。だから物資はそんなに必要ないんだ」
油断は命取りだな~。予備の武器くらいは持とうよ。
俺が荷物を背負うと、Aランク冒険者パーティーが
(さて……、『危険度98%』の迷宮探索。どうなることやら)
人生において、失敗すると分かっていても断れない時がある。
そもそも、命を対価にするのは、久々だな。
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