第3話 変わらない日常

「まあ、なんだ……。Aランク冒険者の実績作りだったか」


 この街の迷宮ダンジョンは、10層までしかない。そして、誰も10層を踏破できないでいた。

 フロアボスが、強すぎるのも一因だ。

 9層までの怪物モンスターとは、一線を画すレベルで強い。

 そして、田舎の迷宮ダンジョンだ。ドロップアイテムも、有名な迷宮ダンジョンと比べると期待できない。


 そこに目をつけて来たか。

 考えながら、耳を働かせる。作戦は聞いていますよ。


(要は、Aランク冒険者パーティーを9層まで送り届けるのが、この街の役割か。それでいて、報酬は高い)


 参加と不参加に分かれて、討論が始まった。

 ギルド長は渋い顔だ。ここは、自由意志や報酬によって、個々人に決めさせたい場面だよね。

 一時間程度の討論で、結論が出た。早い方だと思う。


「100名以上のパーティーを組んでも踏破は難しい。そこで、この街の最上位の冒険者を集めて、Aランク冒険者パーティーの補佐をして貰う」


 それでも、無理があると思うけど口には出さない。

 この拘束時間を早く終わらせたいからだ。


 そんでもって、Aランク冒険者パーティーの秘策が披露された。


「これを設置すると、二点間で行き来ができるようになる! これを用いれば、迷宮ダンジョン攻略など簡単だ!」


「「「おおお!?」」」


 なるほどね。言葉にするのであれば、〈転移・転送〉だな。チートアイデムだわ。伝説級か、もしくは誰かが作ったのか。

 俺みたいな、異世界転生・転移者が関わっていないことを祈りたい。


(現時点で、踏破率2%なんだけどね。10層まで行けても、エリアボスは倒せないんだろう)


 まあ、失敗するんだろうな。

 俺は関わらなければいい。

 それよりも、負傷者が多く出そうだ。回復薬の需要が高まると思う。

 インフレの懸念もある。この街は辺境にあるので閉じられている。そんな街に貨幣をばら撒いたらどうなるか……。ある程度の資金を稼いだら、拠点を移すのもいいかもしれない。

 俺は……、この街に居続けなければならない理由がないのだから。





 しばらくは、迷宮ダンジョンへの立ち入りが制限されることになった。ギルド長の許可性になったんだとか。

 今日俺は、外で採集かな。

 魔力を帯びた草……、〈回復草〉と呼んでいる植物が生えている。

 需要が高まると思うので、今から集めておこうと思う。


 ここで、肩を叩かれた。


「ウォーカーは、これからどうするんだ?」


 ダイソンだった。


「俺は、外で採集か雑魚狩りでもしてるよ。あのAランク冒険者パーティーも一週間程度でいなくなるだろうしね」


「俺たちは、迷宮ダンジョンへの入場を許可されている。一緒に来ないか?」


「止めとく。これから迷宮ダンジョンは不安定になると思うから。弱っちい俺は、外で見てるよ」


「……そうか」


「頑張ってくれ」


 ダイソンと握手を交わして別れた。



 街の外に出て、採集を開始する。目標は、背中に背負った籠一杯になる量だ。

 回復草は、全部引っこ抜いても、気がつくと生えて来る不思議な植物だ。

 ただし、森の中限定という制限付きだ。

 森を焼いた場合は、生えて来ない。理由は良く分っていないが、そんな法則があるんだそうだ。

 まあ、森の中で炎系魔法を放つバカもいないだろう。

 山火事起こして、冒険者ギルドに知られたら、最悪奴隷落ちもありえる。良くて、強制労働――鉱山行きかな?

 俺は、攻撃魔法が使えないのでそんな心配はないけどね。


 考えていると、森に着いた。


「早速発見」


 回復草を根ごと取り除く。それを背中の籠に入れる。今日は、この繰り返しだ。

 森を見る……。


「俺の使えないスキル。単独ソロだと使い道があるってのも、皮肉だよな~」


 俺の目には、ウィンドウが映っている。

 もうね、ゲーム画面だよ。回復草の位置にウィンドウと矢印が浮かんでいるんだし。

 これは、森が俺を受け入れてくれているということなのかもしれない。森をパーティーとして認識している。俺は、植物であっても仲間にできる生物として認識している……。

 意思疎通ができなので、何とも言えないけどね。


「まあ、どんなスキルもないよりはマシかな」


 俺は、回復草の採集を始めた。



 陽が落ちる前に、宿屋に帰って来た。

 十分な収穫量だ。もう、これ以上持てないとの判断でもある。


「あっ……、ウォーカーさん」


 今日の店番は、ヒナタさんか。

 一応、宿屋の看板娘。客を取っているかは不明だけど、彼女を目的としてこの宿屋に滞在している奴は多いと聞く。

 人族であり、背が高い。俺と背丈が変わらないのが悲しい。コンプレックスってなかなか克服できないな。

 165cm程度だと思う。モデル体型だよね。

 それでもって、アイドル顔負けの笑顔。髪の色も抜いていて明るい。元は黒髪らしいけど、今はブラウンだ。

 制服も決まっていて、シワ一つない。

 男性というか、顧客受けを知っていそうだ。もしくは、誰かに指導でも受けたのか……。


 名前からして、モンゴリアンというか、日本人だよね。怖くて、異世界転移者かどうかは聞いていない。慣れ合う必要もないし、異世界での愚痴を言い合う仲でもない。

 俺は……、あゆむではなく、ウォーカーと名乗っているしね。まあ、黒目黒髪で日本人だとバレているかもしれないのは、置いておこう。どちらかが、『日本』というキーワードを出すまではだけど。


「ヒナタさん。シリルさんはいますか? お土産があります」


 籠を降ろす。

 兎を一羽狩れたので、掴み上げて見せる。


「シリルさんは、寝ていると思います。起こして来ますか?」


「それでは、店長にでも渡してください」


「シリルさんが起きたらば、ウォーカーさんの部屋に向かうように伝えておきますね」


「それは、不要です」


 もう何度目になるのか……。不要なやり取りを行う。互いに笑顔だ。

 まあ、話題の少ない俺のコミュニケーションだな。ヒナタさんなりの気遣いなんだろう。

 ここで、ヒナタさんが籠を覗いて来た。


「そんな大量の回復草をどうするんですか?」


「ギルドに売ってもいいんですけどね。明日、調合して薬にします。錬金術の施設が借りられればですけど」


「調合できるのに、冒険者ギルド所属なんですね?」


 ヒナタさんには、理解できないみたいだ。

 ちなみに街のギルドは、冒険者・商業・労働者に分かれている。

 一つの街に一つのギルドだけだと、汚職が蔓延したんだそうだ。

 凄惨な事件の後、この街――辺境都市クレスは今の自治体制になったんだとか。

 統治者となる貴族もいて、街の治安も安定している。


 街の歴史を語るのであれば、この街は魔物が徘徊する森のど真ん中に建設された経緯がある。蟻などの昆虫系の怪物モンスターが一番多く、オーガなどの魔族も時々現れるそうだが、街の外の危険度は低い。それよりも、迷宮攻略にメリットがある。

 単純に言えば、街の内側が危険で、街の外側の危険度はかなり低い、意味不明な街になっている。


「それでなのですが、浴場は使えますか?」


 日本式の風呂があるのが大きい。この宿屋を選んだ理由でもある。


「混んでいるかもしれませんが、使えますよ」


「ありがとうございます」


 兎をヒナタさんに渡して、自分の部屋へ向かった。

 籠を自室に置いて、風呂セットを持って浴場へ向かう。

 混んでると思ったけど、ほとんど人がいなかった。


 体を洗った後に、湯に浸かった……。

 目を閉じる。


(ダイソン達の状況が知りたい)


 パーティー名:金の猛牛

 HP:92/172

 MP:83/152

 STR:61/120

 DEX:36/56

 VIT:30/70

 AGI:40/71

 INT:24/64

 MND:25/34

 CHR:26/50


 俺のスキルの利点かな。一度組んだことあるパーティーなら、リーダーを起点として現状を知ることができる。それと場所のサーチも可能だ。これは、昔はまっていたMMORPGからヒントを得ている。

 パーティーメンバーの入れ替えが起きると、使えなくなる欠点もあるけどね。


(生きてはいるな。場所は……、迷宮ダンジョンじゃない。街にいる……のか?)


 まあ、ボロボロなのは理解できた。迷宮探索から、戻って来たんだろう。

 戦利品があればいいんだけど。これで収穫なしとなると、パーティーの存続が危うくなる。


「まあ、ダイソン達は昨日儲けているし、暫くは大丈夫だろう」


 他のパーティーも確認するけど、大きな変化はなかった。

 唯一の気がかりは、王都のAランク冒険者パーティーの補佐に着いた奴等だな。多分Bランクのパーティーが、補佐をしているはずだ。

 ステータスを見る限りは、慎重に進んでると思われる。

 場所は……中層の入り口か。順調そうだ。


 現時点で街に異常はない。

 理由はなかった。


 俺は、風呂から上がった。

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