第2話 王都から来た冒険者
俺の名前は、
今いる世界では、ウォーカーと名乗っている。
訳あって、二回異世界転移している。だけど、元の世界に戻ることを諦めてもいない。
そして、仲間はいない。一回目の世界で別れてしまった。
ついでにスキルと魔法は授かったが、チートスキルではなかった。良く言えば、誰とも被らないスキルってとこかな。
俺のスキルは、仲間がいて始めて役に立つという、大きなデメリットを抱えていた。
まあ、最悪な状況からスタートして、生活できるまで立て直した状況だ。
今は生活も安定し出して、迷宮探索から帰還した状況だった。
◇
冒険者ギルドに着くと、歓声が上がった。ダイゾン……、そんな音が鳴るようにカウンターに貨幣を置くもんじゃないぞ?
ダイソン達は、今日の成果を披露して鼻高々だ。
総額を計算して貰うまで、冒険者ギルドで時間を潰す。ダイソン達は、エールを浴びるように飲んでいる。
俺は、今日の昼食の余りを消費することにした。食費を少しでも浮かしたい。
米が食べられるから、この街にいると言ってもいい。具材は、汁気を切った肉と野菜だ。
ダイソンのパーティーは、食材をケチらないから、美味しいモノが作れるんだよな。
ギルド内で食事をしている冒険者を見る。
(見ると分かってしまうってのも、つまらないんだよな。スキルが、雑菌やばい菌、寄生虫なんかを警告して来る。腹下し率50%ってなんだよ……。食べらんないじゃん)
結局は、怖くなって自炊することにした。それが、サポーターの職に繋がったのもある。
冒険者ギルドの食事も危ない。
ステーキは、焼き加減がレアで出て来る。ウェルダンで頼むのは俺くらいなんだそうだ。細菌だけでもない。洗わない野菜なんて、火を通しても毒が残っている場合もある。
エールも……アルコールが入っているとはいえ、危ないモノがある。
まあ、俺はアルコールを嗜まない。
武器を全部失っているのを忘れないでくれよ?
そんなことを考えていると、集計が終わったようだ。
ギルド職員が、集計結果をテーブルに置いた。
「「「「おおお!?」」」」
金貨100枚? 日本円で一千万円くらいかな?
それと端数は、もう少し待って欲しいとのことだ。
聞いてみるか。
「魔力の篭った宝石は、ありませんでしたか?」
「金属類だけでしたが? もしかして含まれていました?」
「いえ、確認だけです。俺は、鑑定士ではないので」
俺が確認しても、見落としがある。でも、今回は見落としはなかったようだ。
ギルド職員が、不思議そうな顔をした。
「そんじゃ、分配の話をしようか」
ダイソンを見る。
「俺は、もういいかな? 事前の取り決め通り銀貨5枚を貰えれば帰るよ」
立ち去ろうとする俺を【金の猛牛】が止める。
強制的に座らせられた。
「なあ、ウォーカー。もうちょっと、強請ってもいいんだぜ?」
強請る? 冒険者の金の流れは、自然とクリーンになんだけどな。
その後、交渉を行い俺の報酬は、金貨2枚となった。40倍は多過ぎるけど、受け取っておく。
交渉次第では、金貨10枚まで行けそうだが、そこまで強欲でもない。そんな未来があったかもしれないと知っているだけだ。
まあ、あのまま進んでいれば、今頃
俺だけは、どうあっても生き残るので、今回の報酬を独り占めするのであれば、助言しなくても良かった。
俺のスキルは、確率により、死なない道を事前に用意できる。逃げに徹すれば、かなり安全に迷宮探索できる。それに気がついてからは、迷宮探索が安定した。
ただし、戦闘系の技能は覚えないみたいだ。
剣を振っても、筋トレしても、スキルが戦闘系の者には敵わない。
ここは、そんな世界だった。
(俺は、本当であれば鑑定士として後方支援が正解なんだろうな……。命掛けの
金貨を2枚即金で貰う。
「そんじゃ、今日はここまでで。それと武器を新規に調達してね」
「ああ、今日はすまなかったな。武器屋に文句を言っておく」
自分達で整備しろよと言いたい。いや、自分で整備したから、折れたのか?
「それと、ポーションの瓶ね。割らないで錬金術師に渡してね」
「……おまえは、母親かよ」
◇
宿屋に帰って来た。一人部屋を月単位の契約で借りている。
今日も一日生き残れたんだな。
STR強化の指輪を外す。
〈収納魔法〉を展開して、指輪と金貨を収納した。これだけは、誰にも知られたくない。
まあ、〈収納魔法〉と言っても小さな鞄程度の容量しかない。貴重品を収めているだけだ。
ベッドに横になる。
「もう一年だ。目的のモノは何時手に入るのかな……」
俺は静かに目を閉じた。
◇
夜中に目を覚ます。
疲れていたのかもしれない。
まあ、スタート時点で100キログラムの荷物を運んだんだ。結構体力を消耗していたんだろう。
「前世では考えられない筋力だよな……。スキルと魔法は、僅かでも凄い効果を生み出すよな」
それと、俺は魔力がほとんどない。
とあるゲームの〈種ブースト〉を行っている状態だ。
だけど……、魔力が増えればできる事の幅が広がる。スタートは最悪だったけど、生き残る道が残っていたのもこの世界の特徴だった。
「小腹が空いたな」
部屋には、食べる物があるけど、飲み物がなかった。
宿屋の食堂に降りてみるか。
「おんや? ウォーカーさん、どうしたのかニャ?」
食堂というか、宿屋のカウンターに受付嬢がいた。今の時間は、彼女しかいないんだろう。
「飲み物をなんかください。まあ、何時ものモノがあれば、お願いします」
銅貨を1枚渡す。
彼女の名は、シリルさん。獣人族の女性だ。この宿屋の店番を担当している……と思う。
猫系みたいだけど、興味がないので詳細を聞く気はない。
一応、美人なんだろうか? 獣耳好きがいたら、いきなりプロポーズしそうな……、そんな容姿だ。尻尾も揺らいでいて、目を引く。
背も低く、中学生ともとれる外見だし。偏見だけど、日本のアニメで獣人が出て来る場合は、こんな娘を描く……、そのモデルと言えそうな容姿というか。俺の語彙力では、表現できない人だ。まあ、亜人全員がそうなりそうだな。
身長は低めだ。それと宿屋の制服を着ている。だけど古そうだな。何度も洗濯をしたんだろう。宿屋の店番では、稼げない世界なのかもしれない。
「昨日は稼げたんでしょ? 今晩どうかニャ?」
考えていることが、顔にでていたかもしれない。気をつけよう。
しかし噂話は、速いんだな~。昨日の今日でもう知っているのか。
この宿は、売春も行われている。
だけど、俺は興味がない。まだ一度も女性を買ったことがない。余りにも禁欲的過ぎるかもしれないが、前世の常識を捨てきれていないのが本音だ。実際、高校生だったんだし。それと、性病が怖いのもある。食事が怖いしね。
俺の嫌な顔を見て、シリルさんが厨房へ入って行った。
「ほい、何時もの煮沸した水ニャ」
「ありがとうございます」
前は水すら飲めたものじゃなく、俺が厨房で煮沸消毒していた。それを知った店長が、俺用に作り置きしてくれるようになっていた。
受け取っても、俺のスキルは働かないので、安全なんだろう。
ちなみにシリルさんは、この宿屋のメンバーでパーティーを組んでいる扱いになっている。街に住んでいて、本当の
まあ、スキルの関係上、俺はボッチでいなければならないのもある。恋人を作った時は、スキルが混乱したこともあったし。
その場で煮沸水を一口飲む。
「ふう~。なんか、新しい噂話ってありますか?」
情報は、重要だよね。こんな田舎だと、それが噂話でもだ。
「う~ん。明日、Bランク冒険者パーティーが来るみたいニャ。Aランクだったかニャ? 今日は、領主のお屋敷に泊ってるらしいニャ」
Bランク?
こんな田舎街になんの用だ?
ちなみにランクは、A~Eまである。Aの上がSだけど、Sランクなんて国家お抱えの冒険者だ。
それと俺は、Dランクだ。
Eランク(ビギナー)の一つ上。ランクは、冒険者ギルドに一定期間貢献しないと降格してしまう。
降格するルールがなければ上げてもいいかもしれないけど、
他には、数日戻って来ないパーティーがいるってことくらいだ。
冒険者ギルドも諦めているらしい。
安全マージンを見誤った者の末路……。
俺は、スキルで気が付けるのでなんとかなっている。
「ありがとうございます。それでは、寝ますね」
「待ってるニャ」
何を待つの?
◇
朝起きて、冒険者ギルドに向かう。
途中の露店で朝食を買うが、今日はパンにした。安全は確認済み。店によるよね。
味ではなくて、安全かどうかで店を選ばなければならないのが、悲しい。
冒険者ギルドに着いたんだけど、静まり返っていた……。
(モグモグ。違和感があるな)
冒険者ギルドの中を見ると、一つのテーブルにのみ人が座っていた。他の人たちは、壁に張り付くように立っている。
そいつらの装備が、また異質だ。武器は、金銀で装飾されていて高価なのが見て取れる。多分だけど、何かしらの効果も
王都だと、あんな装備が普通に出回ってるのかもしれない。
ここで、ギルド長が来た。
「ごほん。王都より来た【Aランク冒険者パーティー:真理を知る天秤】の要請により、
ギルド長が、紙を前に広げて見せて来た。
(おいおい、王印があんじゃん)
それと、街の冒険者全員か……。100人はいる。
通路で詰まって、
それと、Aランクか。
――ピピ
ここで俺のスキルが働いた。
『全滅率79%、報酬率1%、レアアイテム取得率10%……』
最悪な結果になりそうだな。
さて、俺はどうやって断るかを、考えないといけない。
とりあえず、何が起きているか知る事から始めないとな。
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