第2話 王都から来た冒険者

 俺の名前は、一ノ瀬歩いちのせあゆむ

 今いる世界では、ウォーカーと名乗っている。


 訳あって、二回異世界転移している。だけど、元の世界に戻ることを諦めてもいない。

 そして、仲間はいない。一回目の世界で別れてしまった。

 ついでにスキルと魔法は授かったが、チートスキルではなかった。良く言えば、誰とも被らないスキルってとこかな。

 俺のスキルは、仲間がいて始めて役に立つという、大きなデメリットを抱えていた。


 まあ、最悪な状況からスタートして、生活できるまで立て直した状況だ。

 今は生活も安定し出して、迷宮探索から帰還した状況だった。





 冒険者ギルドに着くと、歓声が上がった。ダイゾン……、そんな音が鳴るようにカウンターに貨幣を置くもんじゃないぞ?

 ダイソン達は、今日の成果を披露して鼻高々だ。


 総額を計算して貰うまで、冒険者ギルドで時間を潰す。ダイソン達は、エールを浴びるように飲んでいる。

 俺は、今日の昼食の余りを消費することにした。食費を少しでも浮かしたい。

 米が食べられるから、この街にいると言ってもいい。具材は、汁気を切った肉と野菜だ。

 ダイソンのパーティーは、食材をケチらないから、美味しいモノが作れるんだよな。

 ギルド内で食事をしている冒険者を見る。


(見ると分かってしまうってのも、つまらないんだよな。スキルが、雑菌やばい菌、寄生虫なんかを警告して来る。腹下し率50%ってなんだよ……。食べらんないじゃん)


 結局は、怖くなって自炊することにした。それが、サポーターの職に繋がったのもある。

 冒険者ギルドの食事も危ない。

 ステーキは、焼き加減がレアで出て来る。ウェルダンで頼むのは俺くらいなんだそうだ。細菌だけでもない。洗わない野菜なんて、火を通しても毒が残っている場合もある。

 エールも……アルコールが入っているとはいえ、危ないモノがある。

 まあ、俺はアルコールを嗜まない。


 迷宮ダンジョンでの話で盛り上がる【金の猛牛】。

 武器を全部失っているのを忘れないでくれよ?

 そんなことを考えていると、集計が終わったようだ。

 ギルド職員が、集計結果をテーブルに置いた。


「「「「おおお!?」」」」


 金貨100枚? 日本円で一千万円くらいかな?

 それと端数は、もう少し待って欲しいとのことだ。

 聞いてみるか。


「魔力の篭った宝石は、ありませんでしたか?」


「金属類だけでしたが? もしかして含まれていました?」


「いえ、確認だけです。俺は、鑑定士ではないので」


 俺が確認しても、見落としがある。でも、今回は見落としはなかったようだ。

 ギルド職員が、不思議そうな顔をした。


「そんじゃ、分配の話をしようか」


 ダイソンを見る。


「俺は、もういいかな? 事前の取り決め通り銀貨5枚を貰えれば帰るよ」


 立ち去ろうとする俺を【金の猛牛】が止める。

 強制的に座らせられた。


「なあ、ウォーカー。もうちょっと、強請ってもいいんだぜ?」


 強請る? 冒険者の金の流れは、自然とクリーンになんだけどな。

 その後、交渉を行い俺の報酬は、金貨2枚となった。40倍は多過ぎるけど、受け取っておく。

 交渉次第では、金貨10枚まで行けそうだが、そこまで強欲でもない。そんな未来があったかもしれないと知っているだけだ。


 まあ、あのまま進んでいれば、今頃迷宮ダンジョンのど真ん中で立ち往生だったろうしね。

 俺だけは、どうあっても生き残るので、今回の報酬を独り占めするのであれば、助言しなくても良かった。

 俺のスキルは、確率により、死なない道を事前に用意できる。逃げに徹すれば、かなり安全に迷宮探索できる。それに気がついてからは、迷宮探索が安定した。

 ただし、戦闘系の技能は覚えないみたいだ。

 剣を振っても、筋トレしても、スキルが戦闘系の者には敵わない。

 ここは、そんな世界だった。


(俺は、本当であれば鑑定士として後方支援が正解なんだろうな……。命掛けの探索者シーカーは、向いていないのかもしれない。まあ、奥の手を出すかどうかだけど)


 金貨を2枚即金で貰う。


「そんじゃ、今日はここまでで。それと武器を新規に調達してね」


「ああ、今日はすまなかったな。武器屋に文句を言っておく」


 自分達で整備しろよと言いたい。いや、自分で整備したから、折れたのか?


「それと、ポーションの瓶ね。割らないで錬金術師に渡してね」


「……おまえは、母親かよ」





 宿屋に帰って来た。一人部屋を月単位の契約で借りている。

 今日も一日生き残れたんだな。

 STR強化の指輪を外す。


 〈収納魔法〉を展開して、指輪と金貨を収納した。これだけは、誰にも知られたくない。

 まあ、〈収納魔法〉と言っても小さな鞄程度の容量しかない。貴重品を収めているだけだ。


 ベッドに横になる。


「もう一年だ。目的のモノは何時手に入るのかな……」


 俺は静かに目を閉じた。





 夜中に目を覚ます。

 疲れていたのかもしれない。

 まあ、スタート時点で100キログラムの荷物を運んだんだ。結構体力を消耗していたんだろう。


「前世では考えられない筋力だよな……。スキルと魔法は、僅かでも凄い効果を生み出すよな」


 それと、俺は魔力がほとんどない。

 とあるゲームの〈種ブースト〉を行っている状態だ。

 だけど……、魔力が増えればできる事の幅が広がる。スタートは最悪だったけど、生き残る道が残っていたのもこの世界の特徴だった。


「小腹が空いたな」


 部屋には、食べる物があるけど、飲み物がなかった。

 宿屋の食堂に降りてみるか。



「おんや? ウォーカーさん、どうしたのかニャ?」


 食堂というか、宿屋のカウンターに受付嬢がいた。今の時間は、彼女しかいないんだろう。


「飲み物をなんかください。まあ、何時ものモノがあれば、お願いします」


 銅貨を1枚渡す。

 彼女の名は、シリルさん。獣人族の女性だ。この宿屋の店番を担当している……と思う。

 猫系みたいだけど、興味がないので詳細を聞く気はない。

 一応、美人なんだろうか? 獣耳好きがいたら、いきなりプロポーズしそうな……、そんな容姿だ。尻尾も揺らいでいて、目を引く。

 背も低く、中学生ともとれる外見だし。偏見だけど、日本のアニメで獣人が出て来る場合は、こんな娘を描く……、そのモデルと言えそうな容姿というか。俺の語彙力では、表現できない人だ。まあ、亜人全員がそうなりそうだな。

 身長は低めだ。それと宿屋の制服を着ている。だけど古そうだな。何度も洗濯をしたんだろう。宿屋の店番では、稼げない世界なのかもしれない。


「昨日は稼げたんでしょ? 今晩どうかニャ?」


 考えていることが、顔にでていたかもしれない。気をつけよう。

 しかし噂話は、速いんだな~。昨日の今日でもう知っているのか。

 この宿は、売春も行われている。

 だけど、俺は興味がない。まだ一度も女性を買ったことがない。余りにも禁欲的過ぎるかもしれないが、前世の常識を捨てきれていないのが本音だ。実際、高校生だったんだし。それと、性病が怖いのもある。食事が怖いしね。

 俺の嫌な顔を見て、シリルさんが厨房へ入って行った。


「ほい、何時もの煮沸した水ニャ」


「ありがとうございます」


 前は水すら飲めたものじゃなく、俺が厨房で煮沸消毒していた。それを知った店長が、俺用に作り置きしてくれるようになっていた。

 受け取っても、俺のスキルは働かないので、安全なんだろう。

 ちなみにシリルさんは、この宿屋のメンバーでパーティーを組んでいる扱いになっている。街に住んでいて、本当の単独ソロなのは、俺だけなのかもしれない。

 まあ、スキルの関係上、俺はボッチでいなければならないのもある。恋人を作った時は、スキルが混乱したこともあったし。

 その場で煮沸水を一口飲む。


「ふう~。なんか、新しい噂話ってありますか?」


 情報は、重要だよね。こんな田舎だと、それが噂話でもだ。


「う~ん。明日、Bランク冒険者パーティーが来るみたいニャ。Aランクだったかニャ? 今日は、領主のお屋敷に泊ってるらしいニャ」


 Bランク?

 こんな田舎街になんの用だ?

 ちなみにランクは、A~Eまである。Aの上がSだけど、Sランクなんて国家お抱えの冒険者だ。

 それと俺は、Dランクだ。

 Eランク(ビギナー)の一つ上。ランクは、冒険者ギルドに一定期間貢献しないと降格してしまう。

 降格するルールがなければ上げてもいいかもしれないけど、単独ソロ活動が厳しい俺は、ランクを上げないでいる。


 他には、数日戻って来ないパーティーがいるってことくらいだ。

 冒険者ギルドも諦めているらしい。

 安全マージンを見誤った者の末路……。

 俺は、スキルで気が付けるのでなんとかなっている。


「ありがとうございます。それでは、寝ますね」


「待ってるニャ」


 何を待つの?





 朝起きて、冒険者ギルドに向かう。

 途中の露店で朝食を買うが、今日はパンにした。安全は確認済み。店によるよね。

 味ではなくて、安全かどうかで店を選ばなければならないのが、悲しい。


 冒険者ギルドに着いたんだけど、静まり返っていた……。


(モグモグ。違和感があるな)


 冒険者ギルドの中を見ると、一つのテーブルにのみ人が座っていた。他の人たちは、壁に張り付くように立っている。

 そいつらの装備が、また異質だ。武器は、金銀で装飾されていて高価なのが見て取れる。多分だけど、何かしらの効果も付与エンチャントされていそうだ。装備は分からないけど、マントは上質な布が使われていそうだ。

 王都だと、あんな装備が普通に出回ってるのかもしれない。

 ここで、ギルド長が来た。


「ごほん。王都より来た【Aランク冒険者パーティー:真理を知る天秤】の要請により、連合アライアンスを組んでの迷宮ダンジョン攻略を行うこととする。この街の冒険者は、全員強制参加だ!」


 ギルド長が、紙を前に広げて見せて来た。


(おいおい、王印があんじゃん)


 それと、街の冒険者全員か……。100人はいる。

 迷宮ダンジョンの大きさから、現実的ではない。

 通路で詰まって、怪物モンスターに囲まれるのが落ちだ。

 それと、Aランクか。


 ――ピピ


 ここで俺のスキルが働いた。


『全滅率79%、報酬率1%、レアアイテム取得率10%……』


 最悪な結果になりそうだな。

 さて、俺はどうやって断るかを、考えないといけない。

 とりあえず、何が起きているか知る事から始めないとな。

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