俺だけ見えるパーティーレベル~二度目の異世界転移は隠れたサポーター生活がしたかったです~

信仙夜祭

第1話 プロローグ

「おう、ウォーカーじゃないか。迷宮ダンジョンに籠るんだが、来ないか? 物資は用意してある」


 冒険者ギルドで、今日の仕事を探していると、声をかけられた。

 馴染の、ダイソンだな。サポーターを探しているのか。俺を見かけたら、真っ先に声をかけてくれるのは嬉しいな。

 ここで俺のスキルが働いた。


 ――ピコン


『全滅率20%、報酬率10%、レアアイテム取得率0.5%……』


 これ以上見ると、俺の頭と魔力が持たないので情報を遮断する。

 この得られた数値からすると、ローリスク・ローリターンな迷宮探索になりそうだ。

 未来の情報が知れる訳だけど、こんな曖昧じゃ使えない。そもそもこれって、アカシックレコードからの情報なんだろうか?


「どうした? ボーとして?」


 ここは、スキルと魔法のある異世界だった。

 まあ、俺は異世界転移者だ。結構時間が経っているが、今だに慣れていない部分もある。


「ああ、ダイソン……。すまない。少し考え事をしてたんだ。今日は……、よろしく頼むよ」


 俺は、ダイソンと握手を交わした。



「荷物はこれだけか?」


 俺の背丈ほどに積み上げられて、運べるようにまとめられている荷物を見た。


「……もっと運べるとか言いたそうだな」


 背負えなければ、独りでは運べないんだけどね。別に一輪車でもいいし。

 俺は、指輪を一つ左手にはめた。これは魔導具マジックアイテムだ。STR強化のスキルが封印されている。これだけで、身体能力をかなり高めてくれるので重宝している。まだ数種類あるけど、今日は一個でいいだろう。

 荷物を背負ってみる。

 大体、100キログラムってとこかな? 今の俺には、丁度良い量だろう。


「そんじゃ行こうぜ。何層まで潜る予定なんだ?」


 ダイソンのパーティー……、【パーティー名:金の猛牛】の全員が呆れ顔だ。


「まず、持ち上げられる時点で不思議なんだけど? 魔法を使っていないのよね? その指輪が怪しいんだけど?」

「ウォーカーの不思議ちゃんは、今に始まったことじゃないだろう?」

「スキルも魔法も明かさないからね……。まあ、サポーターをしてる時点で、隠し事してるって言ってるもんだし~」


 雑音を無視して、俺は歩み出した。行き先は、迷宮ダンジョンって聞いているしね。


「食材は、一通り買い込んであるんだ」


 歩きながら、ダイソンを見る。


「ああ、分かっているよ。異国の料理だよな。食材を見てから決めさせてくれ」


 料理は、俺が評価される点だ。

 この世界は、まだ文明が成熟していない。露店の食事を食べれば、食中毒なんか普通に起きる。

 食材に火を通しても、細菌は完全に死滅しないみたいだ。正直、火の通し方が甘いんだと思う。


 死と隣り合わせの迷宮探索で、食中毒で動けなくなり、命からがら撤退するパーティーを何組も見て来た。

 そして、帰らないパーティーも多い。

 だけど、迷宮探索には、それだけの魅力があった。


(お宝が無限に湧いて出れば、冒険者なんて職業も成り立つんだろうな)


 俺が以前住んでいた世界の、石油や硝石に近いかもしれない。

 まあ、怪物モンスターは住んでいなかったけどね。


「戦闘は頼むぜ?」


「ああ、低層を徘徊するつもりだ。ウォーカーは、自分の身を守ってくれればいい。それと、物資を持って逃げるなよ?」


「全滅すると判断したら、逃げる予定だ。その後、戻って遺品回収はするから安心してくれ」


 軽口を叩きながら、迷宮ダンジョンへ辿り着いた。





 ――ガルルゥ


「犬型の怪物モンスターが、前方三匹! 各自当たれ!」


 【金の猛牛】は、盾役がいない。魔法による回復役もいない。4人全員が盾を持ち、各々が得意な武器で戦闘するスタイルだ。

 今回は、3対4なので、一人余る。そいつがバックアタックを決めると、怪物モンスターの陣形が崩れ始めた。


(正直、効率悪いよな……)


 俺から言わせて貰えれば、古代の戦い方だ。陣形を組んで盾で攻撃を塞ぎ、弓矢なり槍なりで戦えば、消耗も少ないだろうに。バフ・デバフの概念もない。

 だけど、余計なことを言う必要もない。

 俺は、荷物持ち――サポーターだからだ。


 考えていると、戦闘が終わった。

 俺は荷物を降ろして、回復薬を取り出し、全員に配った。


「助かるよウォーカー。瓶を回収してくれることも含めてな」


 大量生産できる瓶に価値はないけど、量が嵩めばそれなりの金額で引き取ってくれる。

 誰か、ペットボトルを発明して欲しいな。


「魔石が取れたわ。ウォーカー、荷物に入れておくわね」


「ありがとうございます」


 メモ帳を取り出して、時間と個数を書いて行く。

 後で揉めないようにするためだ。

 まあ、荷物を落としたり、捨てて逃げることもあるので、絶対ではないけどね。

 その後、数度の戦闘を行いながら進むと、宝箱を発見した。


「一つ目だな。ミミックではないことを祈りたいところだ」


 俺は、彼等をじっと見つめた。


 パーティー名:金の猛牛

 HP:172

 MP:152

 STR:120

 DEX:56

 VIT:70

 AGI:71

 INT:64

 MND:34

 CHR:50


(体力は十分。まあ、ミミックが出ても負けはないだろうな。それと、宝箱は期待できない……はずだ)


 俺には、『鑑定』とは少し違うスキルがある。『人物鑑定』の亜種らしいけど、使い勝手は良くないのでサポーター止まりだ。

 集団を組んだ相手の、レベルというかステータスが知れる……。まあ、使い方次第だよな。


 盾役がいるパーティーだと、VITはその人の数値になる。

 スピードは、パーティーメンバーの最も遅い人の数値になる。ただし、転移魔法とかあると、また変わるんだけどね。

 STRは、攻撃力に直結するけど、DEXが低いと信用できない。当たらないとね。

 魔法は、攻撃の場合はINT、回復支援の場合はMNDだ。

 まあ、パーティーのレベルというか、実力が見える。

 それと、パーティーを組む前に未来の情報を確率で知れる。

 詳細はこんな感じだ。


 大体は、100を超えれば一人前のパーティーかな。この数値は、俺を基準にしていると思う。俺の数値を全て50として算出されていると、最近気がついた。

 【金の猛牛】は、まだまだこれからのパーティーだ。


「「「「おおお!」」」」


 考えていると、開錠が終わっていた。

 俺の予想とは裏腹に、大量の金貨が出て来た。この金貨は、この世界のモノじゃない。異世界で使われている通貨らしくて、その純度によっても価値が変わって来る。

 しかし、レアアイテム取得率0.5%を引き当てたのか。

 俺の使えないスキル……。まあ、こんな日もあるか。この報酬の10%が貰えるかもしれないので、良しとしよう。


 ダイソンが、早めに食事を摂りたいと言って来た。

 宝箱のあった地点は、少し広めの部屋となっていたので、俺は荷物を広げることにした。



「今日は、ちゃんこ鍋にしてみたよ。米も炊いたので食べてくれ」


 移動中は、鍋料理が多くなる。

 だけど、俺ならば、調味料次第で味を変えることができる。それが、俺に人気がある理由でもある。


「動いているんだから、汁まで飲んでくれよ。水分と塩分補給な」

「「「「うま~い!」」」」


 【金の猛牛】は、腹いっぱいになるまで食べた。

 動けなくなるまで食べるなよと言いたい。それと、酒は少しで止めさせた。腐らない水で水分補給といっても限度がある。

 余った食材は、携帯食にする。鍋料理だったけど、具材を集めて固めれば、どうとでもなる。

 それと、飲み物が減ったので、荷物も大分軽くなったかな?


 食休み中に、俺は宝箱から出て来たモノを確認した。


(金貨は種類がバラバラだな。ごちゃ混ぜだ。金銀銅の貨幣に紙幣もあるし……)


 紙幣の価値は、この世界ではまだ理解されていない。あくまで、貴金属が主流だ。それらを、新しい鞄に詰めて移動しやすくする。それと、武器だな……。


「ダイソン、剣に罅が入っているから交換しておくよ」


 さっきの戦闘で、気になっていた。


「おう……。何時も気が利くな」


 普通であれば、壊れた武器は、迷宮ダンジョンに捨てて行く。

 この世界では、壊れない武器は、まだ発明されていない。

 魔法のある世界だけど、都合が良すぎる世界でもなかった。


 俺からすると、丁度良い。

 スマートフォンや電子音に指示される生活にうんざりしていたからだ。

 この世界に来て、前世の仲間と別れてから、一年くらい経過したが、今の生活は、それなりに気に入っている。


「なあ、ウォーカーは料理人にはならないのか?」


「目的があってね。迷宮ダンジョンに用があるんだよ」


 俺は、元の世界に戻りたい。例え、前世で死亡したと言われてもだ。


(異世界転移なんて言われても、時間も空間も滅茶苦茶なんだ。それに……、戻れる算段は立っているんだし)


 ちょっと実験で失敗したけど、まだ諦めるつもりもない。

 二度の異世界転移が、何だってんだ。


「う~ん。そろそろ移動しようか」


 会話で時間を潰していたら、彼等も休めたようだ。

 ダイソンが立ち上がると、パーティーメンバーも立ち上がった。


 ――ピピ


『全滅率95%、半壊率67%……』


(なんだ? パーティーの全滅率が跳ね上がったぞ?)


 道の先を見る。この先に何かあるのか?


「ウォーカー?」


「ダイソン……。今日は引き返そう。まだ半日だが、欲をかいてこの金貨を失いたくない。利益を確定しようぜ」


 【金の猛牛】が、話し合いを始めた。

 しばらくして、結論が出たようだ。


「それでは、戻るとしようか」


 【金の猛牛】のいい点だな。俺の話を聞いてくれる。いや、俺のスキルを信頼してくれている……か。

 前に俺の忠告を無視したパーティーは、全滅したことがある。

 そんなことがある度に、俺の信頼度は上がって行く。


 迷宮ダンジョンがある街といっても、冒険者の噂話はあっという間に広がってしまう。

 良い噂も、悪い噂もだ。



 帰路に着くと、ダイソン達の武器が壊れ始めた。

 どうやら整備不良だったみたいだ。それと、予備武器は質が悪いのもある。

 全ての武器を破壊し終わった時に、迷宮ダンジョンの入り口に辿り着いた。


「進んでいたら、武器なしで、迷宮ダンジョンのど真ん中に取り残されてたね」


「まあ、なんだ。ウォーカーの助言が的確なのは認めるが、その軽口をどうにかした方がいいぞ」


 ……アドバイスのつもりなんだけどね。

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