第37話 仮免探索者みう《採掘》

「それじゃあ次はー?」


「採掘だな。先ほどと同様におさらいをしよう」


 俺はここのダンジョンで取れる鉱石の大まかな見分け方を画面の端に載せる。

 やや狭めて中央に大きく妹を移しつつ、下側にテロップを流した。


 内容は鉱石を見分けよう!

 全員参加型強制イベント第二弾である。


:やばい、どれも一緒に見える

:え? 見ただけで見分けろって? むりぽ

:あーこんなことだったら鉱石の勉強しとくんだった

:ここにきて採掘品の見分けかー

:そう言う時のための端末やで

:みうちゃん、仕分けはお兄ちゃん達に任せてなー?

:お姉ちゃんも頑張るよ!

@威高こおり:お姉ちゃんはちょっと自信ないなー

:こおりたん、鉱石詳しくないんや

:意外

:女子が詳しいのは宝石類で、金属はそこまでやろ

:それもそう

:女が全員が宝石に詳しいと思わんでくれ、ちなソースはワイ


「今回もがんばろーね!」


 採取で一緒に成果を見せたのもあり、みうもノリノリで他人任せにし出す。

 人に頼ることを少しは覚えてくれたのなら、今回の配信は上出来だ。


 あまり距離感が近いリスナーはざっするが、これくらいなら十分に許容範囲。

 向こうもみうと共同作業ができて大満足だろうし、我ながらいい仕事をしたなと思える。


 今まではどうにもみうが勝手にしゃべっているのを垂れ流ししていたからな。

 もっとリスナーにも働いてもらわなければ。

 なので敢えて達成難度が高い設定にしたのもあった。


 え? 当初は無理に終わらせなくてもいいって言ってた?

 採取であんなに成果を上げたのなら、そりゃ考えも変わるだろ。

 正直、採取と採掘で討伐に回せる時間なんて取れないと思ってたからな。


 意外にもみうの記憶能力は非常に高いことが判明した。

 学校に行ってないのに大したものだ。

 兄として非常に鼻が高い。


:でもみうちゃん。見分けよりも、探す方が大変じゃない?


 尤もなコメントが寄せられる。

 そう、採掘はただそこら辺の壁を掘れば出てくるものじゃない。

 ちゃんと鉱脈を察知して、それから掘る必要があるのだ。

 なんなら探すのがメインの仕事だったりする。

 体力仕事は、他のメンバーに任せたりしてもいいのだ。


「あ、それはお兄たんが裏技があるって。ねー?」


「これは俺だからできる技なんで」


 本当は真似されても嫌なので公開する気はなかったが。

 妹がうっかりお漏らししちゃったので仕方なく公開。


 なぜって? 否定すればとても悲しい気分にさせるからだ。

 なるべくなら配信中、妹には笑っていて欲しいのが兄の気持ちである。


 適当にそこら辺のスライムをテイムして、魔力を検知させる。

 集まった中心にみうが周囲を警戒しながら進み「ここ! ここ!」と俺に催促するまでがセットである。

 はい、可愛い。


「と、こんな感じでスライムを自動操作で魔力検知器として使うことができる。ただの石に魔力は宿らず、鉱石には微量な魔力が宿る。スライムなんかのモンスターは魔力を検知してそれを吸収するみたいだな」


:え、それじゃあ

:スライムが多い場所って鉱石あんまり出ない感じ?


「そんなことはない。ただそこにダンジョンがリソースを割いてるかどうかの話だ。俺はダンジョンマスターではないからわからないが、殺意が高くて強いモンスターばかり出るダンジョンはこういった採取に向いてないことが多いのは確かだな」


:はえー、ダンジョン側の都合なのね

:ランクが高いダンジョンほどあまりみられない?

:みんなダンジョン攻略に躍起になってるから

:ドロップ素材がうまいのよ

:ダンジョンとしては魔力の回収が最優先事項なのかな?

:よくわかったねぇ

:お兄たんの博識っぷりはちょっと最近まで学生してたとは思えないレベルよ

@威高こおり:私も初めて知ったよ


「お兄たんすごーい!」


 みうも喜んでくれた。嬉しい。

 今日ほどテイマーをやってて良かったと思う日もないだろう。


:ほんますごいな、お兄たん

:これで本当に仮免なの?

:採掘のプロじゃん

:プロなのはスライムなんだよなー

:それ

:いや、それに気がついたお兄たんもすごいのよ

:普通のテイマーはまずスライムなんて捕まえないしな

:そうなん?


「それはそう。でも俺みたいにスライムをこういうふうに使うテイマーってまぁいないし? 真似したっていいけど、普通はやらない」


:そうなの?

:本来のテイマーは枠が固定で一生もんやしな

:へー

:最初に強いの引き当てないと、一生成長しないまである

:成長をとるか、稼ぎを取るか、悩ましい問題なのね


「お兄たんはユニークテイマーだから、すごいんだよ!」


「モンスターを成長させられないけどね。さて、俺ばっかり採掘するのもアレだから、残りはみうがやってみるか?」


 最初の五個は俺がやった。

 残りの五個くらい譲ってやろう。

 単純にこのペースでやると予定より早く終わりそうだったからである。


「いいの? あたしがやると失敗しちゃうかもだよ?」


「優秀な鉱石発見スライムがいるから、そこは心配しなくても大丈夫だ。それに実際、どこか自分でもやりたがってたろ? 失敗を恐れていたら成長はできないぞ?」


 そう言って、俺はナイフを手渡した。

 湾曲していて刃渡りが長い実用的なナイフだ。


 採取や採掘にもってこい。

 本当はノミやトンカチ、鶴橋などの専門道具があればいいが、持ち歩くのも重いしな。俺はこれで採掘できるし、みうだってそれが可能だ。

 まだやり方を知らないだけなのだ。


「そっか。そうだよね! ありがとう、お兄たん!」


:この兄、めちゃくちゃ過保護である

:俺もそんなサポートされて採掘行きたい

:お前が行っても撮れ高ないし

:幼女の前に出てくるなんて言語道断!

:このお兄たんも頑なにカメラの前に出ないしな

:そりゃ、カメラマンだし

:このカメラ、どう考えても人の高さから撮ってないんですよ

:草


 それはそう。俺子飼いの優秀なスライムが常にみうのベストアングルを狙ってるからな。

 この全方位撮影技術は他の配信ではまずお目にかかれない当チャンネル唯一のオリジナル技術。

 妹の可愛さをこれでもかと見せつける為だけに存在してると言っても過言ではない!


「んしょ、んしょ! 壁が硬くて鉱石が取れない〜!」


 壁にナイフを突き立てるみう。

 やっぱり最初は力加減が難しいよな。

 刺した場所をほじくって撮ろうとしていた。

 それで採掘はなかなかに難しいだろう。


:ああ、力がいるお仕事だもんね

:みうちゃん、スキル持ってなかったっけ?


「あ、そうだね! ありがとうございます。スキル使ってみます! えーい!」


 鉱石の埋まってる丁度下ら辺に意識を向けて【スラッシュ】を放つみう。

 どう言う原理か、それで採掘ができてしまった。

 このスキルの由来はジョブに関わってない。

 みうが思った通りの効果が発揮される、謎の技術だ。


「やった!取れたよお兄たん!」


「お、すごいな。これは兄ちゃん負けちゃうかも」


「そんなことないよ。お兄たんがいなかったら、あたしは採掘すらできなかったと思うの! だから勝ち負けじゃないんだよ!」


:みうちゃん優しい

:このお兄たんなら、喜んで勝ちを譲ると思うけどな

:それな

:それ

@威高こおり:みうちゃん、すごーい! 私も採掘頑張ろうかな

:こおりたんも頑張って

:まず探し当てることが大変なんよ

:それ

:それな


「この調子で残り4個、頑張ります! スライムさん、ゴー!」


:かわいい

:かわちい

:ちいかわやんな

:この絵、和むな〜

:お兄たんもノリノリである

:おいカメラの数増えたぞ

:同時使役数何体あるんだよ

@威高こおり:20体はあるのでは? と噂があります

:草

:どんな頭の構造してんねん

:お兄たんが規格外のバケモンで草

:一匹に神経を注ぐだけで疲労するのが普通なんよ

:お兄たんはそんな常識が通用しないという実例

:はえー、すごいんすね


「お兄たん最強! お兄たんしか勝たん!」


 みうが限界オタクみたいなことを言い出した。

 どこでそんな言葉覚えたんだ?

 お兄ちゃんは悲しいよ。

 内容は俺をべた褒めしているので、ヨシ!


「これで、最後! やった! しゅーりょうです!」


:最初無理ゲーって思ったけど

:ああ、すぐ終わっちゃった感

:あとはバトルだけか

:あれ? 配信始まってから何時間経った?

:まだ一時間弱なんだよなぁ

:恐ろしくハイスピードである


「あ、そのことでご報告があります。えっと、今日は水曜日なので、配信は午前中だけとなりますので、そこはごめんなさい!」


:ええんやで

:ええんやで

:別に配信時間が短いなんて思ってないんや

:効率良すぎて何時間経ったかをね、気にしてただけで


「えへへ、みんながお手伝いしてくれたおかげです! あたし一人だったらもっといっぱいお時間かかってたと思うの!」


 守りたい、この笑顔。


「でもいっぱい動いてお腹すいたろ」


「ぺこぺこー」


 満腹スキルを使っていなくっったって動けばお腹は減るものだ。


「ここで一旦お昼休憩と雑談会をします。皆さんもみうが美味しそうに食事する姿を眺める権利を与えます」


:権利て

:まぁみるんやけど

:役得やんな

:おや? スライムが集まってきて……

:何が始まるんです?

:第三次大戦だ!

:おいバカやめろ


 バカなコメントが流れているのを無視しつつ、スライムクッションで椅子を作ってテーブルを出した。

 その上にリュックから取り出した重箱を並べていく。


:ファーーーーwww

:そのスライム、椅子にするために集められたんや

:そして残りは……

:なんと幼女のブーツに潜り込みましたよ

:素足のみうちゃんかわちい


「探索中は動き回るし、すぐ湿ってしまうだろう? 余計な水分をスライムに吸わせてるんだ」


「そうだったんだ! いつも履くたびにふかふかなのはスライムさんのおかげだったんだね!」


 よしよしとスライムを撫で上げるみう。

 すっかりスライム達の王様気分だ。


:幼女スメルを吸い尽くしたスライムか

:そのスライム、いくらで購入できますか?

:↑コメきっしょ


「あ、出禁です」


 俺はさっきのコメントを発言したリスナーをメンバーシップから永久追放した。

 変態に性差はないのだと深く理解するとともに残念な気持ちでいっぱいになっている。同性だからと油断してはならない瞬間を垣間見た。


:草

:判断が早い

:当然だよなぁ

:前回もみうちゃんを欲しがってた奴が出禁にされてたし

:俺らハンネも設定されてないモブだし

:モブがしゃしゃんな、と

:お気持ちでNGを増やしていくリスナー達

:こうやってメンバーシップ募っても平気で切ってくるの怖いな

:いや、さっきのはコメントがきしょいから残当やろ

:それはそう

:感情をコメントに載せるなとアレほどwww

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る