第36話 仮免探索者みう《採取》

 約束通り、水曜日の午前中をリハビリ日の配信とした。

 瑠璃さんは理衣さんにつきっきりの看病をしてるので今日は俺たちだけとなる。


 今日はいつもの場所で普通に探索していく。

 体は元気になっても、まだまだ正式ライセンス獲得まで遠い道のりであった。


「クマおじさん、武器お願いします!」


「よく来たね、みうちゃん。今日も配信かな?」


「うん! 今日は理衣お姉たんがいないから、お兄たんと二人なの」


「以前までのスタイルに戻っただけですけどね」


「あたし、あの時と比べてだいぶ強くなったよ?」


 ドヤ顔いただきました。

 

「それじゃあ、武器もソロ用に変えるか?」


 今日は任せられる後衛がいないのだ。

 だから多少素早く動ける軽い武器にするかと聞いてくる。


「ううん、今週お休みするくらいで武器は変えないよ。むしろいないからこそ、いる前提で武器を振おうと思うの。そうしたら後でアーカイブを見たお姉たんが、あたしの成長を見てくれるでしょ?」


「はっは、そうだな。別にコンビを解散したわけじゃないからな」


「そうだよー、勝手に解散させないでよ!理衣お姉たんに失礼だよ?」


「と、言うわけでいつもの」


「おう、お前もカメラマン頑張れよ」


「当たり前じゃないですか。誰がこの役を他人に譲るかって話ですよ」


「お前も筋金入りだよな」


 熊谷さんはそう言って見送ってくれた。


 ダンジョンの浅い層では敵はいない。

 それでも、準備ができたら配信をする。

 それが配信者としての心構えだと妹は言う。



「こんにちはー! みうだよー」


 カメラマンの陸だ。テロップを画像の下部に流す。

 あくまでも掛け声以外に存在を匂わせない。それが俺のスタイルである。


:みうちゃん!

:きちゃ

:お兄たんも一緒だね!

:あれ、今日は理衣たんは?


「はい、皆さんに残念なお知らせがあります。今日は理衣お姉たんが検査で来れなくなってしまいました。と言うわけで、今日はあたし一人……あ、あたしとお兄たんで頑張ります!」


:お兄たん、カメラ揺さぶるのやめて!

:自己主張激しいな

:いつもやで

:絶対にカメラの前に自分の姿を映さないためである

:幼女の中に男が混ざるなんて言語道断だよなぁ?

:それ

@威高こおり:今日はスケジュールが合わなくてごめんなさい


「あ! こおりお姉たん! こんにちわ!」


@威高こおり:はい、こんにちわ

:可愛い

:挨拶ができてえらいね

:こおりお姉たんは今日コラボ予定だったの?


「あ、えっと。都合が合えばどうですかって! 実はお姉たんからお誘いいただいてたんです。でも、理衣お姉たんと先約してたからお断りしてて。でも、今週は理衣お姉たんの都合が悪くて、よければどうですかーってお誘いしたんです! 昨日!」


:昨日の今日でコラボは無理やなー

:そうだね

:だからスケジュール合わんかったのか

:向こうからの誘いだったら意地でも合わせろ、と言いたいが

:流石の昨日の今日は無理よ

:今日は平日やんな

:平日の朝からこのメンツ、ニートかよ


「あの、あたしあんまり難しい言葉わからなくて。ニートってなんですか?」


:あーあ

:ここではニートという言葉は禁句ですね

:いつもよりNGワード緩いのが災いしたな

:ニートは働かないで、お家でずっと暮らしている人だよ


「えっと、お兄たん?」


:お兄たん……

:お兄たん、お前ニートやったんか?

:通りでニートがNGになってないわけや

:こんな敏腕カメラマンでもニートに?

:あかん


「みうちゃん、そんなコメントはほっといて、今日の目標を語ろうか?」


「あ、はい!」


:これ以上突っ込まれると大変だもんね

:お兄たん、お前の気持ちわかるで

:勝手にニートにすんな

@威高こおり:陸くんは働いてないんじゃなくて、みうちゃんの看病をするために仕事を辞めたんですよ

:人、それをニートという

@威高こおり:学生のうちに生涯年収稼いだ人もニートになるんですか?

:あ……お兄たんはニートの星や

:ネオニートの称号をくれてやろう


 誰がネオニートだ、誰が。

 そんな不名誉な称号、辞退させていただくが?


「えっとですねー! 今日はモンスター討伐は程々に採取や採掘を頑張ろうと思います。あたしのライセンスはまだ仮なので、これを正式にするのが目標です」


「そうだね! 体が治るまでにランクを上げられるようになっておこうか」


「うん!」


:だからFにいたんか

:そもそもどうやってその年齢でダンジョンに入れてるかの方が謎だった

:理衣たんも入ってたやろがい

:あの人は見た目が幼女でも実年齢が九頭竜プロと一緒だから

:合法ロリって最高だよな!

@クマおじさん:政府から特例が降りてるんだよ

@クマおじさん:15歳未満でもスキル持ちは仮免許が与えられるって

@クマおじさん:年齢の引き下げじゃなく、探索者の確保が狙い

:この素早い書き込み、俺でなきゃ見逃しちゃうね

:何それ、知らない

:クマおじたん、詳しいですね


「クマおじさんは、ダンジョンセンターの職員さんなんだよ! いつもあたしが武器を借りてるところ!」


:そら詳しいわけだ

:ダンセン職員か

:クマおじさんで通してるからただの物知りおじさんかと思った


「クマおじさんは、あたしがそう呼んでるから、だからそう名乗ってくれてると思ってるよ! あたし、難しい漢字読めないから」


:あ、そういう

:クマおじたんの優しさに全米が泣いた


「それでみうちゃん。今日は、どんな依頼を受けたんだっけ?」


「あ! うん。今日は採掘と採取、あとは部位の回収をするよ。コウモリさんは耳、ネズミさんは尻尾です」


 それぞれ10個づつ。

 普通にスケジュール的に無理な進行だ。

 特に素人が逸る気持ちで引き受けても失敗しかしないだろう。


 しかしそこからの学びも多いので、今回は無理にでも進めた。

 役割分担を覚えさせるためである。


「全部一人で取れるかな?」


「一人は無理なので、お兄たんも一緒にお願いします」


 ぺこりと頭を下げる。

 はい、可愛い。

 俺はカメラをガクガク揺らしながら反応した。

 コメントからいくつものクレームが入るが無視する。


「じゃあ、一緒に頑張ろう!」


「あい!」


 大きく挙手。

 その様子を俺含めリスナーは微笑ましそうに眺めていた。


:お願いができてえらいね

:俺一人でこれをやるの無理だわ

:初心者がやる仕事量じゃないぞ

:みうちゃん。ラットはともかく、バッドは大丈夫そ?


「お兄たんはテイムしたモンスターを合成して、お役立ちモンスターを作れるから平気です」


:なんそれ

:お兄たんはスライム使いじゃなかったんか

:よく見たらスライムにしたっておかしな性能してたしな

:テイムしたスライムをカメラマンにする男やで

:そうだった


 話の方向性は決まり、俺たちはダンジョンを歩いた。


「これは違うー! これも違う。お兄たん、この葉っぱ、依頼のやつかな?」


 みうは薬草採取の依頼を達成すべく、適当に引っこ抜いた草花を俺に見せてきた。


:初心者に薬草採取は難しいで

:それな

:植物図鑑持ってても難しい

:普通は討伐だけしてランク上げちゃう

:またはそれが得意な人を雇うとかな


「へぇ、普通はそうなんですね! お兄たんは知ってた?」


「さぁな、俺は全部自分でやれちゃうから」


:さすがお兄たんだぜ

:俺たちにできないことをやってのける

:そこに痺れる、憧れるぅ〜

:マジで何もんだ?

:Fランクでないことは確か


「お兄たんはあたしと一緒の仮免許なんですよー! ね?」


「ああ。探索者学園は自主退学したからな。なので卒業してないし正式なライセンスは持ってないんだよ」


:それで生涯年収を?

@威高こおり:同年代では伝説でしたねー

:こおりたんですらすごいって思える人なんだ


「今は俺より妹の頑張りを見るところでは?」


 このチャンネルの主役は妹だぞ?

 俺は『めっ!』と周囲に威圧を送った。

 萎縮するリスナーたち。

 趣旨を履き違えたらだめだぜ?

 みうは俺がどういう存在か知らないんだから。

 威高さんは俺のことになると何故か饒舌になるからな、勘弁してほしいぜ。


:あ、そうやったね

:ごめんやで


「お兄たん、この葉っぱ正解でいいの?」


「そうだなー。兄ちゃん的にはみうが持ってきたやつは全部合格にしてあげたい」


「それじゃだめだよー! クマおじさんが困っちゃうから!」


「それもそうか。みうのためにもならないもんな」


「うん。あたしも本気で挑みたいし、覚えたいと思ってるからね」


「ヨシ、じゃあおさらいをしようか」


「おさらい?」


:そして出てくる薬草図鑑

:俺らも勉強しろってか

:みうちゃんと一緒に探せるなんて感激だなー


「それじゃあ、選別はリスナーのお姉さんお兄さんたちにやってもらおう」


「え、それっていいの?」


「いいよな?」


 答えは聞いてない、とばかりにリスナー参加型にしておく。

 こうすることで配信に一体感を持たせるのだ。

 自分だけでミスをすればみうは引きずりやすい。


 だがみんなと一緒にやったという思い出を作れたら、次からは自分が発案してリスナーを巻き込む企画を立てると思ったからだ。


:よーしお姉さん頑張っちゃうぞー

:ワイは今から薬草専門のプロや

:みうちゃん、一緒に薬草探そうねー、お兄さんも協力するよ


「わっ、ありがとうございます! お兄たん、こうやって一緒にやるのも楽しいね?」


「だろ。みうは全部自分でやりたがるけど、配信ってこういう無茶振りをリスナーさんにするのも醍醐味なんだ」


:流石に見るだけで戦闘はできないけど

:薬草の見分けくらいはできるよ

:手元の図鑑と相違点を見比べる、パーフェクツ!

:大丈夫かなぁ?


 失敗なんていくらでもしていいのだ。

 むしろその企画をみんなで楽しむ。

 みうにはこういうどうでもいい企画を楽しんでほしいから。



 結局、協力の甲斐もあって目標の薬草は+20でフィニッシュ。

 みうの目利きはそれなりに高く評価された。



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