めくるめく快楽というものが本当にこの世に存在するなんて
5月(May)
官能小説やエロ同人漫画、裏垢男子のpostは私たちをめくるめく妄想の世界に連れて行ってくれるが、自分はそれを知らずに枯れていくのだと小さな絶望を抱えてずっと生きてきた。
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中イキはおろか、人からの刺激では外イキすらしたことがない。ましてや潮吹きなんてAVの世界だと思っていた。
だから30分前に初めて会ったばかりの男の指によって、自分の身体から生暖かい液体がビシャっと溢れたとき何が起こったのか全く理解できなかった。
「潮吹けたねえ」
太ももの間に座っていた男が股の間から顔を上げた。
4月、初めて受けた「プロ」の施術で初っ端から潮を吹くことができたわたしは、完全に身体を持っていかれていた。
翌朝、セラピストに与えられた強烈な快感を頭の中で反芻し、自分の指ではそれが得られないことに驚愕した。そしてTwitterを開いて、前日に指名したセラピストにDMを送り5月の予約をしたのだった。
次回予約までの間、わたしはひたすら彼のツイキャスのアーカイブを聴き込んだ。初回の予約はパネルで選んでおり、プロフィールの本文やSNSの投稿、口コミを全く読んでいなかった。わたしは割とひとの思考や言葉に濡れるタイプなので、次回までに彼について断片的にでも理解を深めておきたかった。
女風の予約をする手段は主に3つある。店に電話する、店にLINEやメールをする、セラピストに直接TwitterでDMする、だ。Twitterは大切な集客手段となり、ほぼ全てのセラピストがアカウントを保有している。
利用する女性側も「女風垢」をつくり、セラピストの情報を収集や予約をすることが一般的だ。さらに女風関連の内容を投稿するためだけのアカウントを作り、予約するアカウントとは別に運用しているユーザーも少なくない。セラピストにDMを送るアカウントで、惚気や愚痴を呟くと具合が悪いからだ。
わたしは元々裏垢として使っていたものを女風垢にして、予約と情報収集を兼ねている。
5月も下旬になると日差しもかなり夏めいてきて、出勤時に100%遮光の重たい日傘を持ち歩かなくてはと考える。
通勤時にTwitterのタイムラインをザッピングするのは日課になっていた。女風垢で情報を閲覧しているせいか、最近育児垢の方にもセラピストの情報が表示されるようになって心臓に悪い。
『人生で初めて推しというものができた。性感が天才。顔もいい。沼不可避」
朝投稿したツイートに、早速数件のいいねとコメントが付いている。ここ2週間くらいよくやり取りをする女風垢たちだ。
『めっちゃテクピじゃん!羨ましい♡』
『うちの好きピにも見習ってほしい、最近デート利用ばっかなんだよね(泣』
"女風界隈"では、他の女風垢と交流を図るユーザーが少なくない。Twitterの投稿にコメントを付け合うだけでなく、スペースでの雑談やオフ会までもが開催されている。「風俗利用者」という一般的ではない共通点を持った女たちが一同に会して何を喋るのか気になったので、仲の良いユーザーが開催することがあれば参加してみたい遠っ持っている。
結局、5月は2回利用してしまった。まだ数回しか施術を受けていないのが信じられないくらい、短期間でわたしの身体は変化していた。明らかに膣内の感度が上がっており、中イキができる日も近そうだった。
経験人数は、決して少ない方ではない。長く付き合った彼氏とお互いの性感帯を開発しようと試みたこともあるし、チャラチャラ遊んでいるTinder男に抱かれてみたこともあった。だけど、声が止まらないとか勝手に涙が出るとか、そんな凄まじい快楽は得たことがなかった。
これがプロか、と思った。
実のところ、女風セラピストだからといって必ずしも性感技術があるとは限らない。大多数の店舗は新人向けの性感講習をしているが、どれだけ真面目に取り組むかは人それぞれだし、ベースとして才能のあるなしは大きい。もちろん人間同士なので客との相性もある。
他のユーザーの投稿を読んでいると、何人も回遊して−つまり回遊魚のように様々なセラピストをぐるぐる試して、やっと継続的に予約するセラピストを見つけたという人も少なくない。初手、彼と出会えたのはかなり運がいいと言えるだろう。
いや、運が良かったのか悪かったのか。わたしは人生初めての『推し』にまんまと魅了され、翌月からペースを上げて予約を入れることになる。
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