第6話

週明けの月曜日。


三谷は朝8:40に登校し、部室に直行する。


ちなみに8:40は遅刻である。


「おはよーうっす」


そう部室内に呼びかけるが、もちろん返事はない。


各々自らのクラスで、朝学活でもしているころだろう。


「ふぅー」


三谷はポンポンと履いてきた運動シューズを脱ぎ、背負っていたリュックを床に置き、運動マットに飛び乗る。


仰向きに寝転がり、天井をしばらくの間眺めた。


バカ部でこの部室を作るときに気休めに貼った壁紙。


三谷の趣味で星空が広がった天井は所々コンクリートが見えている。


「よしっ!やるか!」


三谷は持ってきたリュックを手繰り寄せて、ノートパソコンを引っ張り出す。


三谷の兄は有名なフリーターで、三谷は彼の仕事を手伝っていた。


兄が取材した際に録音したものを文字として書き起こすのが、三谷に任された仕事だ。


三谷はイヤホンで録音を聞きながら、キーボードの上で指を踊らす。


三谷のキーボードの腕前は、キーボードの早打ち競技があるのなら世界トップレベルになるだろう、凄さなのだ。





3時間後。


三谷は突然充電が切れたように、運動マットに倒れ込む。


「あぁー終わったぁ」


三谷は身体を起こして、メールボックスに文字起こししたデータを添付して、兄に送信した。


再び、後ろに倒れ込んで、「俺もライターになろうかな……」と呟く。


そのまま目を閉じて、夢の世界へ飛びったった。





「三谷くん!」


バカ部顧問兼三谷、山口の担任を務める水谷は三谷を起こすために彼の身体を揺さぶった。


「あ……」


消え入りそうな声を出した後、ようやく三谷の目は開いた。


「三谷くん、おはよう」


「あ、おはようっす」


三谷は再び目をつむる。


「今、何時っすか」


「12時半!昼休み中です」


「結構寝てたな……俺」


三谷はよいこらせ、と身体を起き上がらせると水谷の眉毛を寄せた顔を見て、眉を寄せた。


「……あれ?俺なんかしました?」


「なんかしました?じゃないのよ。三谷くんが授業受けたくないのも分かるし、それは学校としても担任としても、配慮する。けどさ、出席日数はどうにも出来ないから、来てるなら一旦教員室来てって言ってるでしょ!もぉー」


「あれ?そうだっけ」


「今月3回目の説明です!」


「ごめん、水谷っち」


「いい?卒業するんでしょ?高校。じゃあ、せめてこれだけはやってもらわないと」


水谷は腰に手をあてて、いかにも怒っている人の風貌だ。


「ごめんって」


三谷も胸の前で手を合わせる。


「今回も、見逃すけどさぁ、次はないからね!」


「はぁい」


「で、罰として今日の私の授業は出ないさい!」


「えぇ……」


「えぇ……じゃないよ!ほんとに。出席日数もそうだけど、単位も取れなかったら卒業できないんだからね!」


「はぁい」


三谷は肩を落とす。


「三谷くんには特別課題やってもらいます。教室には……英語科の教室でいいから。授業に出なくてもそれを1カウントとします!」


「いいの?」


「言っちゃあ悪いけどさ、三谷くん授業出ても分かんないでしょ。分かんないというか、英語って書いてもらう授業だから、多分とっても大変だと思うから。校長にも許可取ってるし」


「うん、ありがとう」


「ってことだから!今から英語科の教室行くよ」


水谷は強引に三谷の手首を引っ張る。


「まってまって!リュック背負うからさ」


三谷は離された手でリュックを持ち、部室の扉を開けて待っている水谷の方に足を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る