第5話
「えー本日はバカ部にも手伝って頂き、ウサギを捜索します。みなさん、ご協力ありがとうございます。名前はテケです。今から写真を配ります」
野原部部長桐谷が集まった人を前に説明を始める。
野原部全員と、バカ部から4名、さらに教員も3名ほどきてくれたようである。
「えっと、写真を回してくださーい」
桐谷は前列にいた数人に何枚か写真を渡す。
さらに詳細にどこを探すのかなどを話した後、桐谷はまた前列の数人に地図を渡した。
三谷から森に渡された写真には、真っ白な毛でウサギと言われて想像するよりも一回り小さい耳がピンと立っていた。つぶらな目がキュルルルンとしている。
地図は学校付近がざっくり3分割されており、赤青黄の3色マーカーで囲まれているところを探すようだ。
公園や道端など、範囲はそれなりに広い。
バカ部が担当するのは学校付近にある公園と近場の交番にウサギの目撃情報がないか聞くこと。
「ずっと探してるのに全然見つからなくて…もし、この捜索で見つからなかったら諦めます」
と野原部部長の消え入りそうな声と一筋の涙が光った。
・
バカ部メンバーは指定された公園に着き、ウサギ捜索を開始する。
この公園は野球エリア、遊具エリア、原っぱエリアの3つに分けられる。
野球エリアは休日は近所の野球少年で埋め尽くされ、遊具エリアはいつも夕方になると親子がよく遊びにきている。
一般的には大きい分類の公園になるだろう。
ウサギが好む植物が生えているのは原っぱエリアであるが、念のため前エリアを見回る。
三谷、山口は原っぱエリア、前野は遊具エリア、森は野球エリアを見て回ることをジャンケンで決めた。
「俺さ、なんとなくこの公園にテケちゃんだっけ……がいる気がするんだよね。俺の勘がそう言っている!」
「もう、そんな勘頼りになんないよ」
と山口は笑う。
「え、待って待って。あの影なに?」
三谷から50mほど離れた草むらの手前に不自然に小さな影がある。
手前にはなんとなく白い塊が見えるような気もする。
「テケちゃんじゃない?」
三谷の声は高揚している。
「こんなに早く見つからないよ。こういうのってゴミとか袋なの」
「しっ。刺激しないようにしないと」
「そぉっと、そぉっと」
三谷は声に出しながら、ゆっくりと近づいていく。
・
「山口先輩」
「しぃー」
山口は眉毛を寄せながら、三谷を見つめている。
「しぃー?」
「三谷くんがウサギみたいなの見つけて、刺激しないように」
「山口先輩」
「しぃーだって、前野くん」
山口は人差し指を自分の口元に持っていく。
「ウサギが……」
「なに?」
「ウサギが」
「うん?」
「ウサギを見つけました」
「うん。よかったね」
「はい」
「ん?ウサギ?」
「はい」
「ウサギを見つけた?」
「はい」
山口は目にも止まらぬ速さで振り返る。
「テケちゃん!」
「はい」
「前野くんが見つけたの?」
「はい」
「三谷くん!」
山口は、もう少しで白い物体に触るところだった。
「山口!しぃーだって!」
三谷は立ち上がって、振り返り、口元に人差し指をあてる。
「前野くんが見つけたって!」
「え?」
「だ、か、ら!前野くんがテケちゃん見つけたの!」
「まじ?」
「うん」
前野も頷く。
「じゃあ、これは……?」
その時、先ほどまでうさぎと間違えられていた物体は「にゃー」と一言鳴いて、スクッと立ち上がり、草むらに入っていく。
どうやらお昼寝をしていたらしい。
・
山口先輩が野原部の桐谷に代表で電話をすると
「ええぇ!うれしいです!ありがとうございます!報酬弾みますね!」
と電話をかけているスマホから離れていてもその興奮した声が聞こえた。
・
「一件落着だなぁ」
三谷はそう呟いた。
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