第3話

三谷は森と水谷を連れて部室に向かう。


「部室さ、もうほんとに汚いし、夏は暑くて、冬は寒いから、引くと思う」


三谷は笑いながらそう言った。


「ほんとに!顧問としてあの部室は許せませんよ!」


と、水谷も笑いながら言う。


よほどの部室なのだろう。


森は困った顔をしつつもピタッと三谷に遅れないように歩いた。


「えーっとね、歩きながら部活の説明軽くするんだけど、うちの部活は活動日とかなくて、まじで個人の自由なんだよね。ただ、新学期なんで自己紹介のために最初は集まるけど」


三谷は森の方に振り返り


「だから、えーっと名前分かんないけど、後輩ちゃんも自由にやりな」


と言ってまた前を向いた。


「ただね、うちの部活、部費がでなくて、そこは必要な時に調達しなきゃなんだよね」


「他は部費出てるのに不憫です!」


水谷は怒ったような冗談のようなどちらとも取れない口調でそう言った。


「だからね、代行っていうのをやってて」


校舎から出て、校庭の端の方にボロボロの2階建オンボロアパートを三谷は指差して


「あれっすね」


そう言った後、スタスタと1階の真ん中の部屋の扉を開ける。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


森は足早に部室に入る。


「あぁ!!資料作り任されてるんだった!三谷くん、後輩ちゃんよろしくね!」


「了解っす!」


水谷は走りながら三谷に手を振り、校舎の中に消えていった。


この建物の外観は人を寄せ付けない風貌で、コンクリートの壁はもともとクリーム色の塗料が塗られていたように見えるが、かなり剥がれ落ちており、さらに卒業した生徒が思い出を残すためかペンキや絵の具での落書きが多い。


部室の中は、建物の築30年という数字にそれ相応だが、努力をして綺麗に保たれている雰囲気がある。


壁、床ともにコンクリート剥き出しになっているが、使わなくなったであろう、体育の運動マットが横たわっていたり、教室のある生徒が使う机が3つ、椅子が9脚あったり、長机がひっくりかえっていたり。


まるで、幼い頃に憧れた秘密基地のようだった。


1階には3部屋あるようだが、そのうちの2つを繋げているらしい。


森は無理やりくり抜かれた壁を不思議そうに覗き込む。


「すごいですね」


「俺がくり抜いたんだ」


三谷は運動マットに腰を下ろす。


森はしばらくキョロキョロしていたが、突然何かを思い出したように


「あ、部長…」


「ん?」


「さっき言いかけてた代行サービスってなんですか?」


「あーね、そっか。忘れてた」


三谷は隣の部屋に消え、1枚のプリントを持って再び運動マットに腰をおろす。


「座りな」


森はこくんと頷いたあと、三谷の隣に腰をおろした。


三谷は森にそのプリントを渡す。



代行サービスやってます!


▷彼氏彼女、告白などの恋愛系から物探しや探偵まがいのものまで、基本的にNGなし!

▷費用:要相談!

▷秘密は必ず守ります!


相談だけでもokです!


バカ部まで!



とカラフルな宣伝のプリントだった。


「それが全てなんだけど、さっきも少し話したけどうちの部活、正式に認められてはいるんだけど、活動内容がはっきりしてないからか、部費が貰えなくてさ」


「代行が活動内容なんじゃ……」


「まぁーでも、校内でお金払ってもらって活動してるから、それも多分ダメなんだよね。黙認されてるけど。商売になっちゃってるもん」


「たしかにです」


「で、こういう活動してるんだけど、これも別に強制じゃなくて、自由参加だから」


「はい」


「そこのホワイトボードに代行の依頼があったら書くから、参加したかったら自分の磁石貼って、集まったメンバーで代行する感じでやってます。磁石はそのうち作るからそれまでは書いてくれたらいいよ」


「ありがとうございます」


ホワイトボードには新学期が始まってまもないが、依頼が書かれていた。


▷野原部からの依頼

 部活動紹介の際に体育館に連れて行ったウサギのテケが行方不明。捜索代行希望。代行というか、一緒に探して欲しいとのこと

 4/15まで希望者募る!

 4/15 15:40に部室集合!


三谷・山口


「あ、あの、私もウサギ一緒に探します」


森は小さく手を挙げてそう言った。


「まじで?」


「もちろんです」


「じゃあ、ごめんけど名前書いてくれる?」


「あ、はい」


森は山口の横に自分の名前を書く。


「いやぁ、今年も後輩ちゃんが入って良かったよ。潰れるかと思った」


三谷は呟く。


「よし、今日は他には誰も来ないだろうし、部室閉めちゃおうかな」


三谷は、机の上の鍵を手に取る。


「次の活動日って……」


「あ、そうだった。また、忘れてた」


三谷はズボンのポケットからスマホを取り出して電源をつける。


「うちの部活はグループチャットで基本的にやりとりしてんの。だから、後輩ちゃんも」


と言って、森にQRコードを見せるので、慌てた様子で、森はそれを読みとった。


「ん。たぶんね、今週土曜日に集まるから予定なしでよろしくね」

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