第2話

もちろん、森は部活になんて入る気はなかっただろう。


しかし、今の森の手にはある部活への入部届が。



遡ること1週間前…


(最悪。部活入るつもりないし、こんな時間取るぐらいだったら帰りたい)


部活動紹介があり、しかも授業時間中に組み込まれていたので避けることも出来ずに講堂集まった高1生が身を寄せ合って体育座りをしていた。


森はこの学校に対して部活が盛んな印象は全くなかったようだが、生徒が少なめの割には部活の種類はやけに多い。


配られた紙に記された部活紹介のプログラム表の長さに目を見開く。


「国語部」や「野原部」など聞いたこともない珍しい部活から「卓球部」や「バレーボール部」などのメジャーな部活まで色々ある。


森は(入部する気はない!)という強い思いを持っているのか、目を瞑っていたのだが、面白い紹介の仕方に飲み込まれて、気づいたら見入ってた。


大会で優勝などの目標を掲げている部活ももちろんあるのだが、それよりも自分たちがいかに楽しんでいるか、生徒自身のやりたいことをやりたいだけしている印象が強い。


演劇部は15分程度の劇をしたり、園芸部は育てた野菜の芽や葉っぱなどでクイズをしたり。


「バカ部」


その名の部活が紹介されたのは、最後の方だった。


「バカ部は部活嫌いの人のための部活…というスローガンを掲げています。紹介して頂きたかったのですが、本日部員が全員欠席ということで、すいません」


司会をしていた教頭だったか、副校長だったか、が頭をぺこりと下げた。


「バカ部」その響きは森の頭にすっぽりはまってしまった。



「失礼します。1年3組森です。水谷先生はいらっしゃいますか?」


こうして、森は勇気を出して「バカ部」の顧問である水谷ともえを呼んだのだ。


「なにかな。あれ、1年生じゃない?」


「あ、はい」


水谷は若い女性で、長い黒髪に、小顔、大きな瞳、涙袋と二重幅は女性の理想の形で、すらっと長い足がよくわかる長ズボンとこの時期には珍しい半そでのtシャツ、いかにも学校の教師という服装だが、その服装がまるで似合わない綺麗な顔だった。


「あれ?もしかしてだけど」


水谷は黒髪を耳にかけて


「入部希望者?」


森はこくりと頷いた。


「ほんとに!?」


水谷は手をぱちんと合わせて


「うれしいわ!」


とぴょんぴょん飛び跳ねる。


ずいぶん見た目と中身のギャップがあるようだ。


と、そこに「あれ?バカ部入部者?」と、水谷の後ろから金髪で、いかにも運動部に所属していそうな男の先輩、三谷解が森の方に近づく。


「あ、はい」


森は三谷をじっと見つめながら言った。


「睨まないでよ〜」


三谷は笑いながら言う。


「俺ね、バカ部の部長だから安心して」


ね、と笑った。


(この人が部長?)


森は少し残念そうに呟いた。


「バカ部って陰キャの入るところだと思ってた」


と。


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