第24話 尋問?

 リンネアは戸惑ったが、ユーリアがニコニコとした表情で「私がお呼びしたの。二人でゆっくりとお話ができると思って」と悪びれる様子もなく答える。


「ちょうどいい時間ですわ、お兄様」

 ユーリアは笑顔を浮かべ、兄をからかうように言った。ラーシュは眉一つ動かさずに、リンネアの隣の席に腰を下ろした。


 ――ち、近い。

 リンネアはさりげなく彼から離れるように椅子からわずかに腰をずらす。


「贈り物はすべて届いたか? 俺が一日たりともリンネアを忘れない日がないように、お前も日々俺のことを感じてくれていただろうか?」

 ラーシュは贈り物で溢れるリンネアの部屋の様子を察しているかのように、穏やかな声で問いかけてくる。


「贈り物には感謝しています。ただ、少し多すぎると思います」

 彼女の控えめな抗議に、ラーシュはわずかに眉を上げた。


「そのショールは気に入ったようだな。リンネアが喜んでくれるなら多すぎるとは思わない」

 その言葉には冷静さの中に隠された温かさが感じられ、リンネアはどぎまぎと視線をあちこちにさまよわせるしかなかった。


 ラーシュが来ると知っていたらショールをかけてこなかったのに。


 たしかに、とても素敵なデザインで柔らかく身を包んでくれるこの品物は日常的に使えるので、病み上がりからずっと使っていた。体が回復してからも少し肌寒い日は愛用している。


「さあ、お二人とも、どうぞお茶を楽しんでくださいな。今日は兄が忙しい中、特別に時間を作ってくださったんですもの」

 ユーリアはラーシュとリンネアのやり取りを楽しそうに見守りながら、ティーポットを再び手に取った。


 ラーシュの前のカップにも琥珀色の液体が注がれる。


「では、私はそろそろお部屋に戻るわね」

 二人分の紅茶をセッティングしたユーリアは、満面の笑みを浮かべて立ち上がる。


 よく見ればユーリアは自分の席にティーカップを用意していなかった。はじめからラーシュが来たら離席するつもりだったのだろう。


 ――二人きりなんて、話すことないのに……。

 リンネアは訴えかけるようにユーリアを見上げたが、彼女は優雅に温室を出ていこうとする。


「リンネア。何か隠していることはないか?」

 紅茶を口に運びながらラーシュが突然そう切り出してきたので、リンネアはびくっと肩を震わせる。すると、温室の扉を開きかけたユーリアがあやうく転びそうになった。


「お、お兄様! それでは尋問ですわ!」

 つかつかとユーリアが戻ってきて、慌ててたしなめる。


「兄は、リンネア様のことをもっと知りたいと言っているの」

 ユーリアが補足する。


「はあ……そうでしたか」

 リンネアはてっきり魔法のことがばれたのかと思ったので、ホッと胸を撫で下ろす。


「正直に話せ」


「お心のままに、好きにお話になって?」

 まるで同時通訳だ。


「私はファルクス村のはずれにある村で生まれました」

 魔女であること以外は特に秘密にする必要はないから、そこだけ気をつければいい。


「村では普段、何をして過ごしていた?」


「趣味や好きなことがあれば教えてほしいと言っているわ」


「薬を作っていて、よく森に薬草やハーブを摘みに行ったり、満月の夜には月光浴を――いえ、星空を見るのが好きで」

 髪には魔力が宿るという。長ければ長いほど効果的で、手入れをすれば魔法の質も上がる。その中で満月の光を浴びることは一番重要なことだった。


 ――そこは、絶対に話せないわ。


「何が目的で皇都へ来た?」


「今一番大切にしていることや目指していることがあって、こちらを訪問したのかと聞いているわ」


「えっと、皇都は楽しいと村の人に教えてもらっていたから、一度見てみたくて……」


 尋問まがいの質問はその後も続き、ユーリアは結局、茶会の最後まで同席することになったのだった。

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