第13話 祝賀会への出席
まるでどこかのお姫様みたいな装いに仕上がったリンネアは、祝賀会が開かれるという大広間に向かっていた。
王族や彼らに招待された限られた人しか入れないというバルコニー席があるというので、そちらに向かっている。
ただでさえ裾の長いドレスは足元が見えなくて不安なのに、その足には踵の高い靴を履かされていた。リンネアはぬいぐるみを片手で抱きながら、もう片方の手でドレスの裾を摘まみ、エリダと共にひたすら慎重に長い通路を歩いているのだ。
「リンネア様、お着きになりましたよ。皆様お揃いのようです」
エリダに言われて顔を上げると、通路の先に、数人が立っていた。
一人は会ったばかりなのですぐにわかった、ラーシュだ。
黒を基調とした詰襟の礼服を身に着け、黄金の勲章がついた深紅のサッシュをかけている。緻密な金の刺繍が施された光沢のある濃紺のマントは床につくほど長く、謁見室で会った時よりも
彼のそばには壮年の男女と、背の高い青年と利発そうな若い女性。こちらを見ている全員から発せられるオーラが
「我々を待たせるとはいい度胸だな」
ラーシュから凍てつく言葉が飛び出すが、こちらも好きで遅れたわけではない。
「まさか、こんな格好をさせられるとは思っていなかったので」
リンネアは彼の目の前までやってくると、ひきつった笑いを浮かべた。
「まあ。お兄様に言い返す人なんて初めて見たわ」
若い女性は金色の長い睫毛の乗った目をぱちぱちと瞬いた。
リンネアよりも年下に見えるが、今「お兄様」と言ったということは、彼女は彼の妹、そして皇女ということだ。そして、たぶん他の者も彼の家族なのだろう。
「あなたが、聖剣を抜いた乙女か。そして、そのぬいぐるみが聖剣ってわけ?」
ラーシュの後ろに立っている色素の薄い金髪の青年が、にやっと口元を緩めた。
「お前たち、名前も名乗らずに無礼だぞ」
彼は二人をたしなめてからこちらを向き、目尻にしわを浮かべて握手を求めてきた。
「失礼した、聖剣を抜きし乙女よ。私はハーラル・ウルリク・フロド・ヴァロケイハス。ラーシュの父だ」
畏れ多いと思いながらも、リンネアはおずおずとそれに応じる。
ラーシュの父――すなわち先代の皇帝。堂々たる雰囲気は陛下に負けていないが、柔らかな笑顔のおかげで少し安心する。
「はじめまして、リンネア・ライネです」
「リンネア。私がラーシュの母のイングリッドよ。こちらはラーシュの弟のアスゲイルと妹のユーリア。あなたのご家族は? 一人で皇妃選定の儀にいらしたの?」
イングリッドは声も雰囲気も温かいのでほっとした。
「家族はいません。私一人です。ファルクス村から半月前に出てきて、たまたま今日ここでお祭りをやっていると聞いて参加しました」
そう答えるとイングリッドは目を瞠って、ハーラルと顔を見合わせていた。
「偶然? 運命? 惹かれ合う二人……ってこと?」
きゃあっと小さく悲鳴を上げたのはユーリアだ。
年の頃は村長の孫娘と同じくらいだろうか。なかなか元気のあるお方だ。
「たまたまか、やはりあなたは特別なのかもね。そのぬいぐるみも」
アスゲイルに指摘されて、リンネアは慌てて深紅の焔獣を両腕で抱きしめた。
「もうそろそろいいだろう? 皆を待たせている」
ラーシュはため息交じりに会話を遮った。
――はいはい、そうでした。私が遅れてきたせいですね。
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