第3話 魔女だなんて言えない

「言い伝えが正しければ、これから竜が復活する。それを倒すために聖剣はなくてはならないものだ。もし盗んですり替えたとすれば大罪だぞ」

 頭ごなしに怒鳴られたわけではないのに、恐怖で身がすくむ。


 まるで正面から猛吹雪が吹きつけてくるかのよう。


「そんなことしていません! 本当に勝手に変わったんです。そばで見ていた人に聞いてみてください」


「魔法でも使わない限り、そんなことが起きるとは思えない」

 冴え冴えとしたアメジストの瞳がこちらを睨みつける。


「ま、まほ……っ? そんな、おとぎ話じゃあるまいしー……」

 リンネアは口元をひきつらせて笑ったが、背中を流れる冷や汗が倍増したのは秘密だ。


 ――たしかに私は魔法が使える。誰にも内緒だけれど魔女だから。


 もしかして無意識に魔法を使ってしまったのだろうか。それならもう一度魔法を使ってぬいぐるみを元に戻せばいいだけの話だ。そして、戻った聖剣を元の場所に刺し直して、一件落着。


 その後、雑貨店でほしかったぬいぐるみを買い、相棒にして憧れの自由を満喫するのだ。

 名前だってもう決めてある、フランムルージュだから「フランちゃん」。安直だなんて言わないで?


「では、元に戻せたら私はお役御免ということでいいんですよね?」

 言い伝えにある「王族と結ばれ」という一文は、そのままヴァロケイハス王家の一員となることを示す。


 だから建国祭の日にだけ行われる聖剣を抜いてみるチャレンジは、正式には「皇妃選定の儀」と呼ばれているらしい。教えてくれたのは、宮殿まで連れてきてくれた衛兵だ。


 チャレンジは誰にでもできる。これは、当初、貴族令嬢のみに与えられた儀式だったが、成功した者がいなかったので徐々に一般人にも広まったという。


 平民が王族に輿入れする、そんな夢のようなストーリーに憧れて、毎年聖剣の前には長蛇の列ができるそうだ。リンネアもずいぶん並んだので、毎年そんな感じで祭りを盛り上げてくれるなんて、王族も面白いことをするんだなあなんて笑っていた。


 今まで三百年間、一度も剣を抜いた者はいなかった。もちろんそういう想定もしてあるので王族にはあらかじめ皇妃候補の女性を何人か選出し、独身の王族が二十五歳までに剣を抜く者がいなければ、その候補の中から妃が誕生するという方法で王家の血を継いできたんだって。


 全部、衛兵さんの受け売りだけれど。

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