02
四人はリクの部屋に集まっていた。
「俺たちで戦うのってどこまで通用するのさ?」
「さあな。誰もお前の力を測れないだろ?」
随分と長い沈黙が流れてから切り出したジルに、カルマが困惑の表情を返した。
「でもさ、試験には合格する可能性があるから、こんな状況ってことだよね?」
何とか前向きに考えようとしているようだが、口調は戸惑いを隠せない。
「すみません、僕、ちょっと軽い気持ちだったかも知れません」
予備の椅子に座っているリクは何故か下を向いて謝る。
「気にするなよ。オレだって驚いている」
「夢中だったから上手くいったけど、思い返すと信じられないよね」
モーリスは宙を見つめていた
「なあ、何なの? 俺は『魔法』を使えないままの方がよかったわけ?」
「違うよ。戸惑っているだけ」
「そうですよ! 僕だって先輩のこと初めて聞いたときから魔法が使えるようになってほしいって思っていたんです!」
このまま話していても堂々巡りになりそうであった。
状況を打開しようとしてか、お茶を一気に飲み干してカルマが提案をする。
「……まあ、反省会はここまでにして、明日のことを考えるか」
「あ、はい」
リクは水差しからカルマのコップに追加のお茶を注いでから、四人の中心に向かって手をかざした。
空中に薄い透明板が浮かび上がる。
「とりあえず、駒は僕らとゴブリンということにしますね」
ゴブリンというと、先ほどの戦いだろうか。と、考えていると、盤上に二種類の小さな水晶の欠片が十数個現れる。背の高い方がジルたち四人で十数個ある低い駒がゴブリンを示しているようだ。
「今日の場合、通常戦って考えていいと思います。試験も同様の内容でしたら基本陣形はこの形」
背の高い四つの駒が薄く緑色に変化して三角形の頂点と中心に移動する。
リクが続ける。
「僕が中央で支援します。これならどこから襲い掛かられても先輩たちの誰かが対応できるはずです。必要に応じて僕が魔法を掛けます」
「リクくんの背後に回った部分の支援は?」
「全天球を使います。……あ、僕が魔法で上下左右全ての方向を確認します」
後半は説明だったらしく、ジルに視線を向けていた。
考え込みながらカルマはリクに言う。
「お前の消耗は? 疲れないか?」
「長くは使えません。なので、短期決戦してもらう必要があります」
「数にもよるが、今日の序盤みたいに一体ずつ倒している余裕はないのか……」
カルマが考え込むように顎に手を添える。
「俺らを中心にして、円状に放出する魔法ってないの?」
「なくはないよ。でも、避けられると思う。ジルと私で火球の爆発に巻き込む方が現実的かな」
「オレは相手が近づいてきてから対処だな。初動を止めるのは期待できそうにないし」
「なんで? ゴブリンたちを集めたじゃないか?」
「基本的にあれは知能と魔力があるやつにしか効かねえし、人間みたいに高度な知能を持っている場合は耐えられる」
そういえば、今日の相手は自動人形にも関わらず多少なりとも知能があったような素振りを見せていた。
大体の方針ではあるが固まったようだ。
「次ですけどボス戦だった場合ですね」
盤の上の小さな駒が消え、大きな一つの駒が現れる。
「とりあえずオレは前線に出るだろ」
四人を表している緑色の駒のうち、一つがボスを表す駒の近くに移動する。
「僕は後ろですね」
言うと緑の駒が移動する。
「モーリスとジルは中間地点から攻撃……ってことでいいか?」
「私は大丈夫だよ。たまにそれでやってきてたし」
「ジル、お前は? 武器で魔法を連射できるか?」
「できるけど、カルマ一人で対処が厳しかったら俺も前に出るよ」
了解を返す。
「実際に使う魔法は? 決めておく?」
「敵との相性もあるから各自で決めておいて、後は現場で声かけの方がいいだろうな」
カルマが最もな意見を出した。
何となくだが、これ以上は話しても大きな成果を得られないとジルは感じていた。
この国で言う魔法は無限にある。ある程度、国が定めた基礎魔法はあれども、魔法力に想像力で形や属性を与えるのだから誰がどんな魔法を使えるのか……むしろその場で新しい魔法が生まれる可能性だってある。
(……あれ? 何か見落としているような?)
ジルは違和感を覚えた。
しかし、その正体が何なのかが分からない。
半分上の空になっていたが話は進み、終わる頃には辺りはすっかり夜になっていた。
***
住宅の窓が暗闇に切り取られたかのように並ぶ道をジルは歩いていた。モーリスを家まで送るためだ。
今まで彼女への気づかいなど考えたことすらなかった。
魔法武器が完成して以来、自分が夢中になると考えが及ばないことに気がついたのだ。
過去にしてきたことが埋められる訳ではないが、これからはもっと大切にしていこうと心から思っている。
そのはずなのだが、頭の中は何だか引っかかるものを覚えていて落ち着かない。
何かが足りないような……と、考え事をしていたことに気が付いたらしく、気が付くとモーリスは不思議そうにジルの顔を覗き込んでいた。
「わあ! モーリス、何だよ?」
「何か心配なことでもあるの?」
ジルは慌てて反射的に誤魔化そうと考えたが、恐らく気づいているのだろう幼なじみに嘘を言えないと思い直し、正直に話す。
「実はさ、何かこう本当に作戦会議があれでよかったのかなって……な」
「通常戦とボス戦を想定した戦い方を検証したこと?」
「何だかそれだけじゃダメな気がするんだよなー。例えば空を飛ぶタイプの敵が混ざっているとか」
懸念していることとは違うのだが、実際に手練れの魔法使いであれば空中静止を可能とすることもあるはずだ。
「可能性はどこまでも考えられるけど、今回は試験だから訓練場の範囲で戦えるんじゃないかな。相手はアビトさんだし、直接は手を出さないって言っているし」
「へ?」
「だってジルが壊した壁、修復したのアビトさんじゃない? 土や砂を使う地属性魔法が中心になるはずだよ。公平にって言う意味では手の内を見せてくれたんじゃない?」
「待って、皆そこまで分かるのか?」
「どうだろう? 私はそう思っていたから、そういう前提で話していたけど」
皆と同じようになるためにはまだ時間が掛かりそうだと痛感する。
「何か生きるって大変だな……」
「大丈夫だよ! そのうち分かるよ!」
慌てたようにモーリスがフォローする。
しかし、そのうち分かるようになるのかも知れないが、今のところ生活するだけでもやたらと頭を回転させなければいけなくて大変だというのがジルの思うところだった。
この調子だと皆と同じになるまでには相当な時間を費やしそうである。
そのとき、暗闇で道が見えづらくなったのかモーリスは杖に光を灯した。
「アビトさん、急だったけど目的でもあるのかな?」
「俺、実は思うところあるんだよな」
「アビトさんに?」
「うん、あの人、超越しているっていうか……」
「普通では考えられないぐらい優秀な人だと思うけど?」
「あ、いや、そうじゃなくて」
どう説明していいのか分からず天を仰ぐ。
そこには満月とそれを取り巻く無数の星が輝いていた。
「あ……」
繋がった。これがジルの違和感の正体だった。
まずい。今からでは四人全員で共有することなどできない。夜も更けてきているから戻っても仕事にも試験にも悪影響だろう。
「どうしたの?」
「モーリス! 明日の試験、ボス戦だ!」
必死で祈るように必死で説明する。今、頼れるのは目の前の幼なじみだけだった。
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