第3話 婚活が気になるお年頃

 柴田が送ってくる東南アジア旅行の写真を、柘植野は素直に喜べなくなった。


 移動の間は、はぐれないようにお友達と手をつないでいるんでしょう……!!

 そのお友達はすぐるさんを狙っているかもしれないのに……!!


 そんな妄想でイライラしていたら、全然ネクタイを上手く結べなくて、柘植野は危うく友人の結婚式に遅刻しかけた。


 柘植野はギリギリで披露宴会場の丸テーブルに滑り込んだ。

 本日の主役は大学生時代のゼミの同期2人だ。学生時代から交際を続けて、ついに式を挙げるというのだからおめでたい。


 柘植野が案内されたテーブルを見回すと、懐かしいゼミの同期たちが揃っていた。


「みんな、久しぶり」

「……ああ、柘植野か! 髪型が違うから誰かと思った」

「ひどいなあ」

「髪切ったんだ。よかったね。似合ってる」

「……うん。ありがとう」


 柘植野ははにかんだ。

 同期のみんなは、柘植野が暗い大学時代を過ごし、トラウマを抱えていることを察していたはずだ。そのせいで、髪を伸ばして右耳を隠していることも。


 明るい青年がおすそ分けに突撃してきたところから、すべてが回り始めた。

 そして10年抱えたトラウマを乗り越えたことを、柘植野は誇らしく思った。


 披露宴はつつがなく終わり、二次会に移った。立食ガーデンパーティーだ。


「すみませんねぇ、9月に入ってもこんなに暑いと思わなくて、屋外にしてしまって」

「だから言ったやろ? 急遽きゅうきょミストを手配したおれの手腕に感謝してな?」

「こんな感じで尻に敷かれていくんで、安心してください。じゃ、おれが尻に敷かれてる間に好きなだけ飲み食いしていただいて」


 新郎2人の軽い挨拶あいさつに、くすくすと笑いが起きる。


「懐かしいな。あいつら、ゼミでは『漫才コンビ』としか思われてなかったのが、付き合ってるとバレたときは驚いたよなぁ〜」


 同期の1人、江里口えりぐちが懐かしむ。


「そうだったね。あれから何年も関係を維持して結婚にまでたどり着いて、すごいなあ」


 柘植野は微笑んだ。

 新郎2人がまぶしければまぶしいほど、自分と柴田はいつまで一緒にいられるんだろう、と不安になる。


「ほんとにねー。私もそろそろ婚活に本腰入れなきゃ」


 同期の貴山きやまが口を挟む。


「婚活してんの!? おれもしてるんだけど」

「マジ!? お互い知り合いを紹介しない? 合コンでもアリ」

「紹介!? めっちゃアリ!!」

「2人はどうやって婚活してるの? 始め方が分からなくて」

「まずはお付き合いからって感じなら、このアプリがおすすめだよ〜!」


 婚活の話題で盛り上がる同期の輪から、柘植野はそっと離れた。


 どうしても、柴田と自分の年の差のことを考えてしまった。


 もしも柘植野が、自分と同じくらいのとしの人とお付き合いしていたなら、自然と結婚が視野に入ってくる年齢だ。

 でも柴田は9歳も下の大学1年生。結婚を意識してもらう方が無理難題というものだ。


 わざわざ「将来についてどう思いますか」なんて、たずねるのも恥ずかしいし……。

 待つしか、ないんだろうな……。


 飲み干したシャンパングラスをウェイターに渡して、新しいのと交換したとき。


「こんにちは。新郎の大学のご友人ですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る