第61話 初めて呼ぶ名前

「柴田さん、きて」


 ボクサーパンツだけ穿いた柘植野は、ベッドに横たわって柴田を呼んだ。


 柴田は、柘植野の色白な肢体したいがベッドの上にあることに興奮した。


 柴田もシャワーを浴びて、下着1枚だ。

 すでに硬いものが下着を押し上げているのを恥ずかしく思いながら、ベッドに上がって柘植野を抱きしめる。


 柘植野の肌はやわらかく、しっとりとしている。柴田は興奮でくらくらした。


「柘植野さん」

「ん?」

「『文渡あやとさん』って呼びたいです」


 柴田が照れて言うと、柘植野はぱっと嬉しそうな顔をした。


「いいですよ! 僕は……『すぐるさん』と呼ばれるのは嫌ですか?」


 柘植野は、柴田が自身の名前を重荷に思っているのを知っている。


 ——優しい上に優秀、みたいでビミョーじゃないですか? 荷が重いというか。


 両親からの重すぎる期待を込められた名前だから、柘植野は慎重に聞いた。


「『優さん』でいいです! 柘植野さん、いや、文渡さんは特別です! 呼び捨てでも、タメ口でもいいんですよ」

「ありがとう。あなたへの敬意を忘れたくないから、自然と呼び捨てやタメ口に変わっていくのを待ちたいです」


 柴田は、「あなた」と呼ばれて、たまらなく幸福になった。何度言われても慣れない。しゅわしゅわと幸せな気持ちが弾ける。


 子ども扱いされてると思ってねてたの、間違いだったな。

 文渡さんは、最初からずっと、おれを1人の人間として尊重してくれてたのに。


 柴田は反省して、柘植野に回した腕にきゅっと力を込めた。絶対にこの人を離さない、と思って。


「優さん? ちゅーしませんか?」


 柘植野が少し甘えた声でねだる。柴田は柘植野がかわいすぎて泣きそうになった。


 どうして、あんなに大胆でえっちなのに、こんなにかわいいことを言うんだろう。

 わざとなんだろうか。そうだ、絶対わざとだ。えっちな男のテクなんだ。


 柴田は、昨日柘植野にされたように、できるだけふわりとキスをした。


「ンッ」


 柘植野の肩がぴくんと跳ねた。


「優さん、優しい……」


 ウルウルのとろけた目に見つめられて、柴田は限界だった。柘植野のやわらかい唇をむさぼった。


「ちゅぱ……んむ、んん……」


 柴田が唇を離すと、柘植野は長いまつ毛を湿らせて、うっとりと柴田を見上げた。


「文渡さん、おれ、気持ちよくできてますか?」

「うん。とっても気持ちいいです。ねえ、舌、入れて?」


 柘植野は薄く唇を開いてねだった。


「あー! 文渡さん! えっちすぎる! おれ童貞なんですからね! 理性を保てるように気をつかってくださいね!」

「好きにしていいんですよ」

「そんなこと言ったらダメです! 絶対ぜったい優しくします!」


 柴田の頭を、嫉妬心がよぎった。

 今までに柘植野を抱いた男の中で誰よりも、優しくしたいと思った。


「優さん……!!」


 柘植野は感動した声で名前を呼んだ。

 それから柴田の頭を引き寄せて、唇の隙間すきまから舌をすべり込ませた。


「んぁ……!? あ……」

「優さん? 舌気持ちいい?」

「なんか……ざらざらして……ぞくぞくします……」

「もっとしようか。んむぅ!?」


 今度は柴田が、柘植野の口に舌を入れた。


 ざらざらした表面をこすり合わせると、柘植野は身体をぴくぴくと震わせて感じる。


「優さん……! もう待てない……!」

「もー!! えっちすぎます!! あおらないで!! 我慢してるんです!! そんなにえっちなこと言うなら言う通りにしますからね!!」


 柴田は柘植野の下着をぎ取った。柘植野が腰を持ち上げる。

 きゅん、とすぼまる様子だけで、柴田の興奮が高まった。


 ふにふにと周りをほぐすように揉む。もうやわらかくて、指が入りそうだった。


 また柴田を嫉妬の波が襲った。

 柘植野の身体は男を受け入れるように開発されている。

 柴田は、自分の前に柘植野に触れたすべての男たちに嫉妬してしまう。


「……優さん? ……やめておきますか?」

「えぇ!? おれ、ヘタクソでしたか!?」

「いや、黙ってしまったから、不安になって……」

「あー! 違うんです! ドキドキして! ごめんなさーい!」


 柴田は柘植野の唇に「ごめんなさい」のキスをした。


 照れて笑う柘植野の目は、柴田だけに向けられている。

 柴田は、「今はおれだけの柘植野さんなんだから」と考えて、過去の男たちへの嫉妬を抑え込んだ。


「あのぅ……優さん? もう、指が入るように準備してあるから……」

「……!! 挿れますよ」


 柴田は夢中だった。ふーっ、ふーっ、と荒くなる呼吸を押さえつける。


「はぁん……優さんの指……」

「あーかわいい。ヤバすぎ。ちょっと触ってるだけですよ? そんなに気持ちいい?」

「きもちい、きもちい……!」

「文渡さんエロすぎなんですよ! おれ童貞ですからね! 手加減してくださいね!」


 2人はもう、自分が何を言っているかよく分かっていない。

 ただひたすらに、身体をつなげる快楽に向かってたかぶっていく。


「はー、指3本入っちゃった……。もう挿れていいですか」


 柴田は「イエス」しか聞きたくない口ぶりで聞いた。もう「待て」はできなかった。


 今までの男の誰よりも優しくしたい、なんて決心は、柴田の脳からとっくに消えてしまった。

 目の前の細い身体を自分のものにすることしか、考えられなかった。


「うん。優さん、ちょうだい」


 柴田の先端が、すぼまりにキスをして、それから容赦なく、肉を分けて奥へ進んだ。

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