第62話 未熟者同士

「うぁぁ、ヤバ、文渡あやとさんのナカ、あっつい!」

「んぅ、そのまま、奥まで、こすって」

「こうですかっ!」


 柴田は柘植野の腰をつかんで、柔肉を割り、できるだけ深くまでハメた。


 柴田の脳は、初めての快感と初めての幸福に塗りつぶされていた。


 ハァハァと獣のように興奮した息をついて、柴田のいつもの穏やかな雰囲気はかけらもなかった。


「文渡さん、気持ちいいですか、気持ちいいですよね?」

「きもちい、すぐるさん、ちゅーして」


 柘植野は切ない表情でキスをねだる。


 柴田はハッとした。

 文渡さんはラブラブエッチがしたいのに、おれ、がっついちゃった……!! 優しくしたかったのに、マジで童貞……。


 柴田は慌てて、愛情を込めてキスをした。


「文渡さん、大好きです」

「僕も、すぐるさんが大好きです」


 柘植野をイかせたかった。柘植野は甘い声を漏らして感じているが、イけないもどかしさに身をよじっているように、柴田には見えた。


 柘植野の反応をうかがいながら、ずぷぷ……とゆっくり挿入してみた。数往復で、柴田は柘植野の弱いところを探り当てた。


 そこを押し込むように腰を動かす。柘植野はもう、意味のない言葉を、ただ快楽のままに漏らしている。


 柘植野は柴田の唇を求めて、キスの合間に何度も「すぐるさん」と回らない舌で呼ぶ。


「気持ちいい? 文渡さん」

「きもちい……!」

「ラブラブエッチできてますか?」

「できてるぅ……らぶらぶえっちぃ……」


 とろけ切った表情のまま、柘植野は微笑んだ。

 柴田の心臓はキュンと撃ち抜かれた。


 そのときめきで、柴田は快感に流されそうになった。

 限界が近い。未知の快感をずっと味わっていて、大好きな人とラブラブなキスを交わしているのだから。


「文渡さん、おれ、もう……」


 文渡さんをイかせられなかった……。

 柴田はしょげて、眉を下げて柘植野を見た。


「イけそう? 好きに動いて。僕ももう、きもちよくて……!」


 「好きに動いて」と言われた柴田は、「ヨシ」と言われた犬のように、全力で動いた。


「すぐるしゃ、ンァッ!! はげしッ!! イくぅぅぅ……ッ!!」


 柘植野はブリッジのように腰を反らせて絶頂に身をゆだねた。


「文渡さんエロ、エロすぎ、アッ……!!」


 柘植野の痴態ちたいを見せつけられた柴田も、すぐに達した。


「あ……すぐるしゃん……」


 柘植野は絶頂の余韻から抜け出していない。弱々しい声で柴田を呼んだ。


「文渡さん! 大丈夫ですか? ごめんなさい、おれ、独りよがりで……!」


 賢者モードの柴田は、1人反省会を始めてしまった。


 今までの誰よりも優しくしたかったのにできなかった。

 ラブラブエッチをするって約束も忘れていた。

 最後は自分が気持ちよくなることしか考えてなかった。


「すぐるさん」


 柘植野が腕を伸ばして、柴田を抱きしめた。


「優さん。とっても、ラブラブでした」

「ラブラブって、思ってくれますか」

「うん。ラブラブでした」

「うぅ……大好きです」


 柴田は眉を下げたまま、柘植野に抱きついた。柘植野は優しく柴田の頭をでた。


 おれ、うまくできなかったけど、柘植野さんは「大丈夫ですよ」って伝えてくれる。


「文渡さん。おれ、焦ってました」

「焦ってた?」

「文渡さんが大人だから、おれも大人にならなきゃって思ってました。だから、子ども扱いされてるとか、童貞だからリードされるんだとか、モヤモヤしてました」

「ごめんなさい、気づけなくて」


 柘植野は目を見開いて、悲しい顔をした。柴田は首を振って、柘植野の頬にキスをした。「謝らないでください」と伝えたかったのだ。


「おれも、自分の気持ちの理由が分からなかったんです」

「そうですよね。優さんは自分で答えにたどり着く力を持っている、聡明な人です。子どもだなんて思ってません」


 柴田は照れ臭くて、頬をゆるめた。


「ありがとうございます。おれがちゃんと大人になるまで、もう少しだけ、文渡さんに甘えてもいいですか?」

「ええ。もちろん。あなたは賢い」


 柘植野は、宝物を抱えるようにそっと柴田を抱きしめた。


「大人になろうなんて焦るものじゃないですよ。いろんな経験をして、優さんの速度で大人になってください」

「そうでしょうか……」

「僕だってまだ、世間的には若造です。優さんの前ではカッコつけているけど、本当はすごく未熟なんですよ? だから、一緒に大人になりましょうよ」

「……はい!」


 柴田は泣きそうになった。


「優さん」


 柘植野がやわらかく微笑んで、柴田を呼ぶ。


「はい」


 柴田はあたたかな安心に包まれて返事をした。


「ねえ、あと何回戦しますか?」

「エッ!? 複数回は前提として!?」


 やっぱり文渡さんはとってもえっちだ。

 柴田は完敗の白旗を上げた。


◇◇◇


「やっぱり今日は、文渡さんに教えてもらうばっかりでした」


 柴田は柘植野に抱きついて、恥ずかしそうに言った。

 柘植野の肌は柴田が濡れタオルで拭いたばかりで、しっとりとあたたかい。


「今日が初めてなんだから、そういうものでしょう」

「そうですけど……」


 柴田は少し甘えたい気持ちで、柘植野の肩に顔をうずめた。


「これから先、僕が優さんに教えてもらうことだって、たくさんあります。間違いありません」

「そうでしょうか? 文渡さんは大人だから……」

「ふふ。年上だからって、あんまり期待されると緊張します。さっきも言ったでしょう? 僕は未熟な人間だって」

「そうは思えません。文渡さんはかっこいいです」


 柴田は年上の素敵な恋人が心底誇らしくなって、柘植野の指に指を絡めた。


「ありがとう。でも、僕だって優さんに教えてほしいことはたくさんありますよ。たとえば——」

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