第58話 口でする①

「カチカチですね」


 柘植野に耳元で囁かれて、柴田が今まで体感したことのないゾクゾクが背中を駆け上った。


「ああ、また硬くなった。ほら、脚を開いて……。窮屈きゅうくつでしょう」


 柘植野は慎重に、柴田のデニムパンツのジッパーを下ろした。

 それから顔を近づけて、すんすんとぐ。


「わああ!? 嗅がないでください!! 恥ずかしい!! てか洗ってないし汚いです!!」


 柘植野は返事をせず、ボクサーパンツの上からキスをした。


「アッ……ア……」


 それだけで、先走りがとぷりとあふれた感覚がした。


「口でしましょうか。僕も自分の触ってていい?」

「アッ……。でも汚い……」

「ふふ。脱いじゃいましょうね」


 柘植野は柴田のデニムパンツと下着を脱がせ、自分も下半身裸になった。


 柴田は、初めて見る柘植野の裸に釘付けになった。

 色白で、肌がやわらかそうだ。脚は細身で、膝が目立つ。

 そして股間に自分と同じものが付いていることに、柴田はドキドキした。


 柘植野さん、今、「口でしましょうか」って言った!? あの口で……ミステリアスでエロティックな口でおれのを……!!


 柴田は興奮しすぎて目眩めまいを感じた。


「触りますよ」

「……!!」

「ダメなの?」

「だだだだだダメじゃないです!!」


 酔った柘植野は、ときどき敬語を落としてしゃべる。

 それもすごく、えっちなお兄さんみたいで、えっちだ……!!


「はゎッ!!」

「とろとろだね」


 柘植野の細い指が、鈴口をくるくるとなぞる。


「ひゃ、柘植野さん、それやばい、ンッ、ンンッ……」

「かわいい、柴田さん。力を抜いて。気持ちいいのだけ感じて」


 柘植野の薄い唇は、そう言葉を発しながら柴田のガチガチになったものに近づく。


 柘植野の唇が鈴口にキスをした。

 柴田はその瞬間に情けない声を上げた。


 その直後に、柴田のものは柘植野の口の熱い粘膜に包み込まれた。


「やば……やば……」


 柴田の目に、快感による生理的な涙が浮かんだ。


「あつい、あつい」

「ひもちいい?」

「きもちい、きもちいです、おかしくなる」


 柘植野は付け根から先までつつぅとめ上げた。


「何これ……?? こんなきもちいの??」

「いつでもイっていいですからね。口の中に出していいから」


 そして柘植野の唇が、また柴田のたかぶりを包み込んだ。


「うぁ、やば!!」


 射精感をコントロールできなかった。柴田は急激に高まった快感に引きずられるように、熱い口の中に吐精した。


「んー。ひもちい?」


 柘植野は幸福に笑った。そのことが、柴田の涙腺を決壊させた。


 なんでそんな、幸せな顔、してくれるんだよ。


 柘植野は、猫のようにするりと柴田の頬に頬をすり付けた。

 それからティッシュを取ってきて、口の中の白濁を吐き出した。


「ごめんなさいね。おいしくないものは腹に入れない主義なんですよ」

「いや、食べ物じゃないものを腹に入れなくていいです」

「気持ちよかった?」

「……柘植野さーん!! 気持ちよかったです!! 超ヤバかったです!! 熱くて!! 脳のネジどっか行くかと思いました!!」


 柴田はガバッと柘植野を全身で抱きしめた。


 射精したあとなのに賢者タイムに入らない。

 いや、賢者タイムをはるかに超える、柘植野への痛いほどの愛がある。


 好きな人とするってこうなんだ、と柴田は感激した。


「柘植野さん、キスしてください」

「うん。もう一回つ?」

「勃つけど、しなくていいです。ゆっくりキスしてください」


 柘植野は首をらして、柴田に優しく口づけた。何度も。


 柴田はうっとりしていた。幸福だった。


「ねえ、柴田さん……?」


 柘植野は恥ずかしそうな声を出した。甘えるような上目づかいの瞳は、期待にうるんでいる。


 柴田はハッとした。

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