第45話 特別なオムライス②
パシャリ。
柘植野はスマホのカメラで巨大オムライスを写真に収めた。
どうして今まで、柴田さんの料理の写真を撮ろうと思いつかなかったんだろう?
これからは毎食写真を撮ろう。そしてプリントして日付を書いて、アルバムにしまおう。
——これからも夕ご飯作らせてください!
柴田のメッセージを思い出すと、頬が
これからも、ずっと長く——。
オムライスを食べ終わったら、柴田さんにそういう話をしよう。柘植野は改めて決意し、テーブルの前に座った。
「うーん、デカい」
2人分と間違えたんじゃないかというくらいデッカいオムライスだ。
でもケチャップのハートをできるだけデッカく描きたかったから、このサイズなのかもしれない。
柘植野はポジティブに考えて、またニヤけた。
オムライスには輪切りのにんじんとブロッコリーが添えてある。
そういえば、ブロッコリーのグラタンから全部が始まったんだったな。
柴田が
僕たちは、あの日から始まったんだ。
柘植野は急いでブロッコリーをスプーンに乗せた。いつもの癖で、添え物から食べ始める。
グラタンのブロッコリーは穏やかな黄緑だったけれど、今日のブロッコリーはぱきっと鮮やかなグリーン。単体で食べるなら、この方が食欲が湧いてくる。
口を大きく開けて丸ごと口に入れた。噛むたびにザクザクと鳴る。かといって筋っぽさはない。
爽やかな野菜の味わいで口がいっぱいになる。ほのかな甘みが舌をくすぐる。
ソースも塩も付けていないのにこんなにおいしい。僕の好きな人はこんなにブロッコリーを
早くほかも食べなければ冷めてしまうと分かっている。でも涙がじわじわと湧いてきて、柘植野はしばし食べられなかった。
「おいしいよぉ〜……」
涙声で言いながら、オムライスにスプーンを立てた。
いわゆる「ふわとろオムライス」だ。
真ん中を割ってパカーンとするやつを柴田さんもやったんだろうか。それは確かに繊細な作業を要求されただろうな。
パカーンとするところを見せてほしかったけど仕方がない。
ケチャップのハートがもったいないので、柘植野はケチャップのかかっていない
僕の好きな人が料理上手すぎる。また柘植野は泣きそうになる。
口に運ぶ間にも、半熟卵とバターの濃厚な香りが早速食欲を刺激する。お腹がぐうと鳴る。
ケチャップライスのトマトの香りも漂ってきた。口がこれから味わう快感を想像して待ち構える。
ぱくり。
「ン〜〜!! おいし!!」
口の中でとろとろにほどけた半熟卵から濃密なバターの香りがあふれ、それをケチャップライスの酸味がキュッと引き締める。
大きめに切られた玉ねぎは、少しだけピリッとした味を残す程度に炒められている。
とろけるような幸福の味に、時折玉ねぎがアクセントになってたまらない。
柘植野はひと口を飲み込む前にもうひと口をすくった。
そしてハートマークに感激しながら、夢中で2人分はありそうなオムライスを食べ終えた。
柴田さんに、ファンレターを書かなければ。
柘植野は泣きすぎて鼻をかみながら、今日の書き出しを考える。
書き出しを捕まえたら、今日は言葉が踊るステップに任せよう。
言葉が思考を飛び越えて踊り出すことがある。そういうときは、言葉が踊るのに任せればうまくいく。
今日はそんな夜だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます