第41話 未来

 翌日、病院から連絡があって急いで家を飛び出した。病室の前には波瑠の家族が立っていて、中へと通された。


「おはよう、茜君……昨夜はよく眠れた?」

 

 そう言ってベッドに横たわる彼女と目が合った。

「波瑠……」

 そばに駆け寄ると、波瑠は照れたように笑った。

「えへへ……手術は成功。経過観察はしばらく必要だけど、もうこれからは入院しなくていいんだって」

「よかった……」

 波瑠の手に触れるとちゃんと温かい。これは夢じゃないんだって実感する。

「お父さんたちがね、茜君が来たらしばらく外で時間を潰してくるって。三十分くらい帰ってこないと思うよ」

「それは気を使わせてしまったな」

 そう言って俺は姿勢を正した。


「波瑠、今日会ったら伝えたいことがあったんだ」

「うん、聞かせて」


 暗闇のような日々に君が光を照らしてくれた。遠い昔に忘れてきた、生きる楽しさも、人を愛する気持ちも、全部君が教えてくれたんだ。


「波瑠のことが好きです。俺と付き合ってください」

「もちろん。喜んで」


 そう言って微笑むと、波瑠は体を寄せた。顔が近づく。

 至近距離に目を瞑ると、唇に固い感触があった。

 目を開けると、赤い顔をした波瑠がいた。


「歯、当たっちゃった……」


 俺は波瑠の頭の後ろに手を回し、顔を近づける。今度は柔らかい感触があった。手を離すと、波瑠の顔はさらに真っ赤に染まっていた。

「夢で見た以上に可愛いな」

 俺の言葉に初めはきょとんとしていたが、意味を理解したのか頬を膨らませた。

「もう! 茜君のバカ! ……ふふっ」

 波瑠が笑うから俺もつられて笑った。


 錯覚なんかじゃない未来が、そこにはあった。

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