第10皿 もうっ、わざとやってませんか!? 先輩の変態っ!

(明かりが消え、真っ暗な店内。時折ピシャーンと雷が落ちる音)



「きゃあああ! 雷怖い、真っ暗怖い……! 私、雷も暗いのもダメなんです……!」


「はぁはぁ…… ぐすっ…… 先輩、どこ行っちゃったんだろう…… 探しに行かないと」




(ガタッと立ち上がる音、おっかなびっくり歩く床が軋む音)


「せんぱぁい…… どこですかぁ……? 大丈夫ですかー……?」


「私はここですよー…… あたたた!」

(ゴン、と何かに腰をぶつける音)


「いたら返事してくださーい…… ぎひぃぃぃぃ!!」

(突如、隣で「いらっしゃいませー」という置物のSE音)


「お、お、お、お化けでたぁ~~! 怖くてもう無理ぃ! せんぱーーい!!」

(突如耳元で「ネム」と男性の低い声)


「あぎゃああああ!!!! 悪霊退散!! オンマリシエイソワカーーッ!!」

(ゴンというネムのパンチが炸裂する鈍い音、男性の呻き声)


「あれ、生々しい手ごたえが…… あっ、きゃああああ!!」

(体勢を崩し、ドシーンと床に倒れる音)




「いったぁぁ…… くない、かも。あれ、私の下に何かがいる。なんだろう」

(手を伸ばし、下に敷いている何かをぺたぺたと、上から下まで触る音)


「さわさわ、ぺたぺた、ごそごそ、ふにふにふに……」


「あ、この感触。奥手でシャイに見えて実はすごく男らしい、この肉感は……!」


「先輩だぁぁ~~!! うわぁぁぁん! 先輩、無事でよかったです~~!」



(ギュッと先輩を抱きしめる音。ざぁぁぁぁと遠くで雨が降る音)



「突然の停電、びっくりしましたね。今日、大雨の予報なんて出てなかったのに」


「…………」


「あ、ごめんなさい! 私、くっつき過ぎ、ですよね……? でも…… あの、その…… よければ、しばらくこのままでも、いいですか……?」


「実は私、子供の頃にバジリスクに丸呑みされてから、暗闇が、苦手で」


「いやゲームの話じゃないです。私の故郷にいっぱいいるんですよ、でっかいニワトリの親玉みたいなやつ」


「いますよぉ! それは先輩が日本育ちの坊ちゃんだからです。ああ、世間知らずの先輩を全身異世界色に染め上げたいなぁ…… え? あ、えっと何でもないです!」


「ふふ、先輩と一緒にいると、暗闇の怖さなんてどっかいっちゃうくらい、楽しい♡」



「…………」



「えっと、あの、先輩。さっきの、私の話ですけど……」


「いやわかってるんです、迷惑でしたよね! 先輩、好きな人がいるんですもんね! 先輩の気持ちも考えず、すみませんでした!」


「でもあの、どうしても、伝えたくて。知って貰いたくて。私の、気持ちを」


「今日でもう、最後だから……」



(ざぁぁぁぁと雨の音だけが響く)



「あ、そういえば、言ってませんでしたっけ」


「昨日、バイトを急に休んだ理由。実は、故郷から父が来てるんです。それで……」


「は、伴侶が見つかる目途が立たないなら、もう帰って来いって」


「さっき父を説得して、日本に留学に来たって言いましたよね? その条件が、留学中にお婿さんを見つける、というもので……」


「今すぐ俺に会わせろ、無理ならもう連れて帰るって、聞かないんです」



「…………」



「あっ! ちちち違うんですよ、これは先輩にプレッシャーをかけるとか、そういうことじゃなくって!」


「だからその…… 最後に思い出作りをしたかったというか…… そう、それだ!」


「先輩との焼肉が楽しくってつい、悪ノリしちゃったんです! ビックリしました? 先輩シャイですもんね~?」


「そういう素直で優しくて、すぐ絆されちゃうところも」


「…………すき。大好き。ぐすっ」



(ネム、ずびびと鼻をすする音)



「……はぁ、停電で焼肉パーティどころじゃなくなっちゃったし、お開きにしますか!」


「後片付けは早朝に来てやるので大丈夫です。じゃあ、お疲れ様でした…… え?」


「まだ、俺の肉当てのターンが来てないって?」


「で、でも、こんな真っ暗で、しかも電気が止まってたら焼肉は無理じゃ…… ええ? もう、お肉は用意してあるから大丈夫?」


「えーでも、先輩既に負けちゃってるしなぁ。どうしよっかなぁ…… あ、ちょっ、あひゃひゃひゃひゃ!!」


「脇は、反則ですよッ……! あ、はっ…… ン、んん…… あぁ~~~ひゃひゃひゃ♡」


「わかった、わかりましたからぁ、もうやめてください! ぜぇぜぇ……」


「もう、仕方ないなぁ。じゃあラストのお肉当てクイズ!」



「先輩のお肉を、私に食べさせてください」



「ほら、私の口はここですよ。あーーん」


「やだッ! どこに突っ込んでるんですか! そ、そ、そこは胸の……!」


「もうっ、わざとやってませんか!? 先輩の変態っ! むーーっ!」 


「次外したら強制的に、おしまいにしますからね!」


「ほら、ここです。ちょっと見えにくいですけど、よーく狙って……」



「はむっ!」



「ああ…… お肉、おいしい~~♡」


(咀嚼する音が響く)


「……え!?」


(ガタンと立ち上がる音)





「このお肉は…… もしかして……!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る