第9皿 私に、先輩の股を、ごしごし、させてくださいね……?

「…………」



(沈黙。ブォーンというファンが回る音だけが聞こえる)



「あ……」


(先輩、ネムの左胸から手を放す。ガタッと椅子が動く音)


「せ、せんぱ…… ぷぇ!?」


(先輩、身を乗り出す。ネムの頬を両手で、むぎゅっと挟む音。ネム、タコの口に)


「ぷ、ふぇんぷぁい??」


(フッと笑う音。先輩の顔がネムの顔に近づく、衣擦れの音)


「ぷ、ぷ、ぷ、ふぇんぷぁい~~!?」


(先輩の顔、どんどん近づく。吐息の音が聞こえる距離)




「むぷぇぇぇ~~~~~~~~!!??」




(ガタガタンと机に腕があたる音。ゴトン、何かが倒れ、びしゃあと零れる音)



「ぷはッ! あああごめんなさい!! 腕が当たって、ビールジョッキ倒しちゃいましたぁぁ!!」


(ポタッ、ポタッとビールが机から床に滴る音)



「ああ、先輩の全身がびしょ濡れに……! 今、拭きますね!」


(カタンとおしぼりを持つ音、ぎゅっぎゅっと先輩の服を拭く音)


「すっごいビショビショ…… これ、肌まで濡れちゃってますね」


「先輩、Tシャツ、脱いでもらってもいいですか?」


「はい。このままだと風邪ひいちゃうんで、全身拭かないと」


「いらない? ダメです! もうすぐ新生活が始まるんだから、風邪引いたら大変ですよ」


「……はぁ、わかりました。そこまで言うなら諦めます」



(ガタンと立ち上がる音)



「と、見せかけてからの~、スリーパーホールドーー!」


(ガタタタッと暴れる音)



「うふふふっ、身動きとれないでしょう……!? 大丈夫、怖くないですよ……? このまま、私に身を委ねて…… そして」



「こうです! ごしごしごしごし!!」



(羽交い絞めにして先輩の腹をめくり、ごしごしと強引に腹を拭く音)


「ん~~?」


(ペタペタと先輩の腹を触る音)


「うん、キレイに拭けました♡ これでもう安心…… あ」


「やだ。ここも…… 濡れてる」



(はぁと悩まし気に息を吐く音。そして、カチャカチャと金属の何かをいじる音)



「え? なにしてるのかって? ズボンもビショビショだから、脱がせようと思って」


「さすがにそれは無理? でも、風邪引いちゃわないか心配で……」


(ズボンに伸ばした手を、ぱしっと掴まれる音)


「本当に無理? 特に今はダメって? なんで『今はダメ』なんですか? え? 察しろって?」


「よくわからないけど、わかりました。そこまで言うなら、諦めます」



(ガタンと立ち上がる音)



「と、見せかけてからの~、パイルドライバーー!」


(ドゴンと重たい何かが床に打ちつけられる音)



「えへへへ、油断しましたね! 私、次またおじさんに痴漢されたら撃退できるように、プロレススキルを勉強中なのですっ! さぁ、無駄な抵抗はやめて」


(至近距離で熱い吐息がかかる)


「私に、先輩の股を、ごしごし、させてくださいね……? って、あれれ?」



(ガタン、ゴンと何かが暴れる音)


「あたたたッ!? ちょッ、先輩!? なにす…… あたたたたッッ!!」


「こ、これは、もしや、脇固め!?」


「なんて美しい返し技ッ……! ああッ! 先輩の腕が、カチカチの太ももがッ」


「私のお肉を! まるでトングで摘まむように強引に挟みこんで……ッ あああッ!」




「イッちゃうぅぅぅぅぅぅ~~~~~!! あぁ~~~~~~~~~~ん!!!!」




「女子大生の左肘を容赦なく破壊してくる先輩もスキ~~~~~~ッ!!」



「あんッ!!」


(ゴトンとネム、床に転がされる音。ダダダダと先輩が逃げ出す音)



「はぁはぁはぁ……」



(しばらく肩で息をする音が響く)


「どうしよう、ビックリして、つい変なテンションになっちゃった……」


「だって、あ、あ、あれ…… キ、キ、キ、キス、する流れだったよね……!?」


「先輩に告白したら…… 私のほっぺをむぎゅってして、顔が近づいてきて……」


「そして、そして……」



「…………」



「きゃああああああーーーー!!♡」


「こ、これって、どういうことかな? 先輩も、私のこと、好きってことなのかな!?」


「もし、そうだったらどうしよう……! 嬉しすぎて、死んじゃう……!」


「ダメ、ダメ! ネム、落ち着くのよ! まだ、わからない。告白の返事、貰えたわけじゃないし!」


「先輩、好きな人いるって言ってたし! お酒の勢いで、そういう気持ちになっちゃっただけかも……」


「うっ…… やっぱ私の勘違いかも…… ぐすっ…… 聞きたくないけど、でも告白の答えを、貰わなくちゃ……」



(立ち上がりギシッと床が軋む音、パンパンと衣服の埃を払う音)



「先輩、どこ行っちゃったんだろう。せんぱーーい?」


「あっ!」


(突然、窓がピカッと光り、ピシャーーンという雷が落ちる轟音)


(そしてバツンと室内の照明が落ちる音)




「きゃああああああああ!!!」

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