第7皿 え? 先輩、彼女いるんですか?
「あっ……! はっ…… いやっっ……!! せ、せんぱ……っ!」
「ダメェェェェ!!」
(バチ―ンというなにかを叩く盛大な音)
「どこ触ってるんですかぁ!! 先輩のエロスケベヘンタイチカンメガネ、デモソンナトコモスキッ!」
「え? 誘導したのはそっちだろって? そ、そうですけど……! だってまさか先輩がそんな凶行に及ぶなんて思ってもみなくて……」
「わかりましたよぉ! 正解です! イチボであってますぅ!」
「ああもう、折角の作戦が裏目に出て、まさかのお尻揉まれ損に……!」
「え? 早くお肉食べたいって? もうっ! 涼しい顔して!」
「なんでもないです! それじゃあ、いただきまーす!」
(クチャ、クチュと肉を咀嚼する音)
(その後、ビールをゴキュゴキュと煽る音)
「ぷはーーっ!! おいしすぎる~~!!」
「お尻のお肉だけあって、とにかく柔らかい! 噛むとみるみるうちに溶けてなくなっちゃいます!」
「そこにビールをグーーッと煽ることで、イチボの上品な甘みとビールの爽やかな酸味がお互いを引き立て合って……」
「お口の中でマリアージュするぅ~~! 幸せ~~!!」
「ね、先輩も幸せですか?」
「良かった。先輩と幸せな時間を分かち合えて、私も嬉しいです」
「…………」
(しばし沈黙。煙を吸うファンの音だけが響く)
「先輩、次の職場ってどんなところですか?」
「あ、いや、どういうお仕事されるのか気になって」
「経営系、ですか。へぇ…… その職場を選んだ理由ってなんですか?」
「………………え?」
「ごめんなさい? よく聞こえなくて。いやなんか、気になってる人がいるからって、聞こえたきがして?」
「硬派な先輩に限ってまさかそんな、軟派な理由で就職先を決めるはずないですよね!」
「ごめんなさい、もう一度。大きくお口を開けて、はきはきと、ゆっくり、発音してもらってもいいですか?」
(先輩に顔を寄せて)
「えーっと、す・き・な・ひ・と・が・い・る・か・ら、ですね! うーん、なるほどね! って」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!??」
「好きな人がいる? え? 彼女?? うそでしょ?? え、ちょっと待って、ヤバいちょっと待って」
「先輩、彼女いたんですか!? 毎日毎日バイトばーっかりしてて、お肉と結婚してそうな枯れた先輩にまさか彼女を作る甲斐性があろうとは!?」
「あ、片思いなんですか。よかったぁ…… いや、よくない!!」
「ど、ど、どんな人なんですか? その、先輩の好きな人は!」
「頑張り屋で、明るくて、元気で、でもちょっと天然なところもあって、笑顔が素敵な女の人なんですかぁ、へーえ」
「どこのテンプレヒロインやねん!!」
「やめときましょ、先輩! そんなつまんなそうな定型文女。私、もっといい人紹介できますよ。そう例えば」
(色っぽくウィンクしながら)
「異世界系マジカルドラゴン・モン娘ハーフとかどうです?」
「……え? 異世界、興味ない? あと、つまんないとか言うなって?」
「ガーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」
「バイト先の金髪ハーフ女子大生が至高の焼肉で俺を昇天させて異世界にお持ち帰りしようとしてくるけど」
「そもそも俺には好きな人がいるので、始まる前に終わってた件」
―—完―—
「いやあああああああああ!!!!」
(ガタンと席を立ち、どこかへ走り去る音)
「やだやだやだやだっ! こんな終わり方いやだぁぁぁぁぁ!!!」
「だってこんなに好きなのに! 一目惚れだったの! 私の運命の人なの!」
「パパが決めた人と結婚するのが嫌で…… 大学の間だけ、ママの故郷に留学して」
「そこでもし運命の人と出会えて、異世界に連れて帰ることができたらその人と結婚してもいいって」
「なんとかパパを説得できたのに……!」
「私、先輩を諦めて、異世界に戻らないといけないの?」
「それでパパが連れて来た好きでもない人と、結婚するの……?」
「私、こんなに、先輩のことが、好きなのに……?」
(…………ぐすっと鼻をすする音)
「…………言おう」
「…………最後にもう一度だけ、好きだと伝えよう」
「駄目かもしれないけど、私の気持ちを真っすぐに伝えて」
「駄目だったら、きっぱり諦めて異世界に帰ろう」
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