第6皿 ほら早く触ってくださいよぉ! 奥手でウブな先輩には無理ですよねぇ!?
「私がまだバイト入りたてで、右も左もわからなかった時、先輩にこう…… 手取足取り、教えて貰いましたよね」
「アレのおかげで私、これまで知らなかった世界が開けて、すっかりハマっちゃったんです」
「だから今日、もう一度。私と、してくれないかなって」
(ギシッと椅子は鳴り、吐息が触れそうなほどの近さで)
「そう、私と…… 一緒に……」
「お肉の部位、当てっこゲームしましょー! いぇーい♡」
「やー、バイト入った時、お肉の名前ぜんぜんわからなくて」
「先輩に夜な夜なレッスンして貰えなかったら、どうなってたことか」
「その節は、どうもありがとうございました!」
(ぼそっと。先輩に聞こえないように小声で)
「……先輩のそういう優しいところが、大好きなんだよなぁ……」
「あ、いえ、なんでも…… ないです!」
「コホン。それじゃあ、話を戻して。お肉の部位当てゲーム、しましょう!」
「ルールは簡単。出題者は、お肉をひと切れ選んで焼く。回答者はそれが何のお肉か、該当する部位をボディタッチしながら答える。これだけです」
「そして、先に間違った方が恐怖の罰げーーむ! です!」
「ふふふっ! この1年で、私めちゃくちゃお肉詳しくなったんですから。覚悟してくださいね!」
「じゃあ、先攻をお譲りします。先輩からどうぞ!」
「…………」
(ある肉をトングで掴み、網の上に置く音。ジュワァッと香ばしい匂い)
「ふむ。薄切りの赤身肉。スジがほどほどに入っていて柔らかそうですね。このお肉は、ずばり、ココです!」
(カタンと椅子から身を乗り出して、先輩の体をギュッと抑える音)
「ミスジ、ですね! 肩甲骨周りのお肉で柔らかくて、あっさりとした風味が特徴で……」
「先輩の肩…… 固くて、ごつごつしてる…… 細身に見えるのに、意外と着やせするタイプなんですね…… 好き」
「肩幅も広くて、こんなに厚みがあるなんて…… ああ、先輩の逞しい肩に顔を埋めて、匂いとか魂とか、なんかもう色々思いっきり吸いたい…… 好き。 ……あ、えっ?」
「正解でした? と、当然です!」
「それにしても先輩、いきなりミスジから来るとは。攻めてますね……!」
「じゃあ、次は私の番です! お題は、これっ!」
(ある肉をトングで掴み、網の上に置く音。ジュウウウッと脂が爆ぜる音)
「うふふっ! さあ、先輩にはこれが何か、答えられますかぁ?」
(両手で口を抑えて、聞こえないよう小さな声で)
「このお肉はズバリ、イチボ! 牛さんのお尻にあたる部位」
「先輩はお肉のエキスパートだもん。部位当てクイズは、どう考えても私の不利。だから―—」
「わざと際どい部位のお肉を選んで、答えられなくする! 硬派な先輩には、とても女子大生のお尻なんて、触れないよね?」
「そうして先輩が棄権したところで、罰ゲームを突き付けるの。内容はそう。私のパパと会ってもらうこと!」
「それでなし崩し的に交際に持っていくのよ。我ながら、なんて策士なの!」
(両手を外して、先輩に向かって勝ち誇ったように)
「さあ、先輩、答えてください! ズバリ、このお肉の部位は!?」
「ほらほらほらほら、お肉がどんどん焼けていきますよッ? ギブですかぁ? 奥手でウブな先輩には無理ですよねぇ!? ほら無理なら早く棄権し」
「あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~んッッッ!!!」
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