第5皿 先輩、私とおにくの当て合いっこ、しませんか……?
(ジュウウウという肉の焼ける音だけが響く)
「…………ごめんなさい、先輩が自分から話してくれるまで待つべきって思ってたんですけど、どうしても、気になってしまって……」
(はっと息を呑む音)
「そう、なんですね。突然、就職先が決まって……」
「ということはやっぱり、バイト辞めちゃうんだ……」
「だって、先輩、就職先全然決まらないから、就職浪人かなって、ついこないだまで言ってたじゃないですか」
「だから私……! あともう1年、一緒に居られるのかなって……」
「一緒に、卒業できるのかなって、思ってたのに…………!」
「…………」
「あっ! ご、ごめんなさい! 変な空気にしてしまって!」
「すごく突然だったから、ちょっぴり驚いちゃっただけです! えへへ…… グスッ」
「では就職のお祝いもしないとですね! ちょうどいいので、今日やっちゃいましょう!」
「じゃあとっておきの切り札を出しちゃおっかな~? お肉だけでもすっごくおいしくて楽しいですけど、なにか足りないと思いませんか?」
「ここで先輩にクエスチョン! 先輩の最高の相棒と言えば、なーんだ?」
「サンチュ? ブブ―違います! 白飯でもないでーす。私? ちがいまー…… えええ!? い、いまなんてっ!?」
「もーー焦るなぁ…… 先輩の冗談、心臓に悪いです。先輩ってば硬派なのに、たまーに変なギャグ、飛ばしてきますよね」
「ダメですよ? 私だから冗談ってすぐわかりますけど、他の女の人だったら、誤解しちゃいますからね? わかりました?」
「んーーーー? なんで黙ってるんですか、もう。変なところで気難しいんだから」
(恐るべき早口で)
「でもそこがすきっ」
(コホンと咳払いの音)
「さてと、答えが出なさそうなので、正解を発表しまーす。持ってくるので、しばらく待っててくださいね」
(タタタタと立ち去る音)
「あ、振り返っちゃダメですよ! いいですよって言うまで、正面向いててください」
(タタタタと足音が遠ざかる)
(トポポポポと遠くで何かの水音、そして呟き声)
「やっぱり辞めちゃう話は本当だった…… 私にはもう、後がない。なんとしても今日、告白しなきゃ。そのためには、この……」
「『プランB
「がんばって、ネム! あなたならできる! 偉大なるドラゴ二ウス8大神のご加護あれ! よし」
(足音を忍ばせて背後から近づく音、そして耳元で)
「先輩、お待たせしました。振り返って、いいですよ」
(ピトッと頬に触れる音、シュワァと泡が弾ける爽やかな音)
「あはっ! 冷たかったですか? そう、正解は、ジャカジャカジャカ、ジャン! ビールでしたぁ!」
「はい、じゃあ先輩の新たな門出を祝って! カンパーイ!」
(チンとグラスが鳴る音)
(ゴキュ、ゴキュと喉が鳴り、ぷはぁと息を吐く音)
「おいし~~い! キンキンに冷えたビールがのど越しさわやかで、しみわたるぅ…… やっぱり焼肉にはビールがかかせませんよね」
「先輩、ビールどのくらい飲みますか? デキャンタ持ってきましょうか。今日はねぇ、浴びるように飲んでもらっていいんですよ…… へへへ」
「え、なんか怪しい、裏があるんじゃないかって?」
「な、なに言ってるんですか、下心なんて、あるわけないじゃないですか!」
「酔った勢いで既成事実を作っちゃおうなんて、みじんも思ってないんですからね! ぷんすか!」
(ぐびぐびぐびぐびと喉が鳴り、ドン! とグラスを机に置く音)
「うへぇ、おいちい♡ あーー、ふわふわするぅーー ネム、なんかせんぱいと、遊びたくなってきちゃったなぁ」
「ねぇ、せんぱい」
(ギシリと椅子が鳴り、腕を絡める音、至近距離で)
「ネムと先輩のおにく…… 当て合いっこ、しませんか?」
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