第4皿 私のお肉が先輩に優しく摘ままれて、包み込まれていきます

「はい。『I・SE・KA・I』です。興味、ありますか……?」


「…………」


「え、全くない!?」


「行きたいと思ったこともないし、そもそも異世界自体に、興味がない!?」


「ガーーーン!!」


「……先輩、ちょーっと失礼しますね」



(ガタゴトと客席の下に潜り込む音、聞き取れないほど小声で)



「どういうこと!? 日本人男性のおよそ98%が、異世界に興味があり、一度は転生したいと考えたことがあるって友達が言ってたのに!」


「ハッ! まさか先輩は残り2%に分類されてるってこと……? 流行には乗らない硬派メンズなのね。好き♡ って、そんなこと言ってる場合じゃなくて」


「異世界に興味ないとなると、どうやって告白ムードにもっていけば…… って、きゃあああ!?」



(ゴンと思い切りテーブルに頭を打ち付ける音)



「せせせ先輩! 急にテーブルの下、覗き込まないでくださいよ! さっき食べたハラミが出ちゃうとこでしたよ!」


「え? テーブルの下でなにやってるのかって?」


「私の人生のビクトリープランを練って…… あああ、じゃなくて、つ、机の下にいた座敷童に焼肉あげてました!」



(溜息をついて椅子に座り直す音)



「コホン。先輩そんなことより、次のお肉が焼けたみたいですよ」


(ジュワワワワという脂っぽい肉が焼ける音)


「うわぁ、おいしそうな味付きカルビ! 脂がお肉からいっぱい染み出して、きらきら光ってキレイ……」


「あの、こちらのカルビですけど、私のオススメの食べ方でもいいですか?」


「ありがとうございます! 私のオススメは、こちら! ジャーン! サンチュでございますー!」


「脂っぽいお肉は、サッパリしたサンチュと一緒に食べると最高においしいんですよね」


「こうやって、クルクルクルっとサンチュで巻いて、お肉に抱きつくように…… ああ、私も先輩のサンチュになりたい……」


「できた! じゃあ先輩、またアーンして…… あちちちちっ!」


(バチチッと脂が跳ねる音)


「網越しだと脂が跳ねて……! 先輩、あの…… 隣の席に座っても、いいですか?」


「すみません、ありがとうございます。それでは…… お邪魔して」



(カタンと立ち上がり、横に座る音。グッと声が近くなる)



「はい、それじゃあ先輩。お口を開けて…… ど、どうぞ……」


(シャクッと葉を噛む音、ごくんと呑み込む)



「私のオススメ、どうでしたか……?」


「…………」


「よかったぁ……! そう言っていただけて嬉しいです! おんなじお肉でもひと手間かけると随分味の印象が変わりますよね」


「それじゃあ私も同じ食べ方で…… え? せ、先輩が巻いてくださるんですか?」


「あ、ありがとうございます。それではお言葉に甘えて…… ゴクリ」


「ああ、私のお肉が…… 先輩に優しく摘ままれて…… 包み込まれていく……」


「垢ぬけない少女が、魔法使いの魔法でドレスアップして、舞踏会で王子様と出会うかのような、そんな私の―—」


「サンチュ巻きカルビ…… え、おおげさだって? 全然そんなことないです。先輩の指にかかれば、どんなお肉も恋するお姫様に変身するんです」


「それじゃあ食べるのもったいないけど、いただきます!」



「あむっ、しゃくしゃく」


(すぐ隣でクチュ、クチャと咀嚼する音)


「ああっ、おいしい~~! 何時間も特製ダレに漬け込んだカルビのしょっぱ甘さと、サンチュのシャキシャキの触感が合わさって」


「口の中で楽しいハーモニーを奏でますぅ。あぁ、癒されるぅぅ……」


「サンチュで巻くことで脂っぽさも緩和されて、これならいくらでも食べることができますねぇ」


「まさに最高の組み合わせ…… ビールと枝豆、白米とキムチ、先輩と私……」


「…………ああ、ずっとこうしていられたら、幸せだなぁ……」


「……でも、それは叶わない願い、なんですよね」


(カタンと椅子を先輩に向ける音)


「先輩。私、店長からこっそり聞いちゃったんですけど……」





「今月でバイト辞めるって、本当ですか?」

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