聡耳ちゃんと声劇部っ!

天井 萌花

第一話 ケンカ……かと思ったら演技!?

 ――もしも、もしも神様がいるのなら。

 

 きっとみんなに平等に一つ、“才能”をくれるんだよね。

 神様が本当にいるのかどうかは、私にはわからない。……けど。

 私は一つだけ、神様がくれた“才能”と言えそうな物を持ってるの。


 それは――耳。


 私は生まれつき、びっくりするくらい耳がよかった。

 遠くの音や、小さい音も聞けて――その人の気持ちが、ちょっとだけわかったの。

 買い物に行ったら、色んな人の話し声が聞こえて。

 知らない家の晩御飯がわかって、知らない誰かの機嫌がわかった。


 みんなは私の耳、うらやましいって思う?

 私は、あんまり好きじゃないの。

 普通ならよかったのに……って、いっつも思ってる。

 だって――聞きたくないことまで、耳に入ってきちゃうから。


『――やめて――っ!!』


 突然、女の人の悲鳴に近い声が聞こえてきた。


 ここは私の通う学校のクラブ棟。色んな部活の部室が並んだ、教室がある校舎とは別の建物。

 うちは小中一貫校で、ここを挟むように小学部と中学部の校舎があるんだよ。

 小学生も四年生以上なら、中学生の先輩達と一緒に部活動ができるんだ。


 そんなところで、悲鳴が!?


『やめて、そんなのひどすぎるわ……!』


 そこまで大きな声じゃないけど、私の耳にはしっかり入ってきた。


『――仕方ないだろう、今の状況をわかっているのか!?』


 今度は男の子――男の人?の、怒鳴るような声。

 喧嘩かな? わからないけど、ただごとじゃない空気……。


「……止めなきゃ!」


 とっさにそう思って、走りだす。

 何もできないかもしれないけど……聞いちゃった以上、無視できないよ。


 声がするのは、クラブ棟の一番奥の部屋。

 ドアの前で足で急ブレーキをかけて止まって、そのままノックもしないでドアを開けた。


「あの! ケンカはやめた方がいいと思い……ますぅ?」


 勢いのまま、大きな声で言おうとしたのに。

 自信がなくなって、私の声はか細く消えてしまった。

 なぜなら――誰も、喧嘩をしてるようには見えなかったから。


 いつも授業を受けてる教室よりも、ちょっとせまい部室。

 椅子や机は端っこに寄せられて、何人かの生徒が床に円を描くように座ってた。

 聞こえた言葉の似合う険悪な空気はなく――みんなぽかんとして私を見てる。


「あ……れ? えぇっと」


「――もしかして、僕たちがケンカしてると思ったの?」


 そのうちの一人が、コピー用紙の束で口元をおおって笑いだした。

 座ってても私よりずっと背が高いのがわかる、顔立ちの整った男の人。


 金色の短い髪はサラサラで、私を見つめる目は、宝石みたいに綺麗な水色。

 絵本に出てくる王子様みたいな、かっこいい人……。

 ブレザータイプの制服……ってことは、中学部の人みたい。


「はい……声が、聞こえてきたので」


 もうほとんど自信は無くなっちゃったけど、正直に言う。

 そしたらお兄さんの隣にいた人も、クスッと笑った。


「あらー、そうだったの? ごめんなさいねぇ心配かけちゃって」


 きゅっと黄色い目を細めてほほえんだ人も、中学部の制服を着てる。

 ふわふわの白い髪を胸元まで伸ばした、優しそうな美人さんだ。


「喧嘩なんてしてないから、大丈夫よ。私達――をしていたの」

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