第19話 騙し合い
最初に黒紅とマルチプレイをしてから数日後、俺は大学の空き時間を見つけてはゲームをしていた。
何とも絶妙にハマるんだこれが。
本来ならターゲットのための方法だったのが目的になりがちなのを反省しつつ。
いくつか講義と小テストを終えてゲームサークルに訪れていた。
何故と言われればそう。
ターゲットの情報収集である。
オンラインで堕とすにはやはり彼女の周辺情報は探りたい。
リーダーさんから前に誰かしらいると聞いていたから来てみると…
あ、リーダーさんしかいないわ。
「どもっす」
「よーっす。安達君。順調かね」
「そうですね。早速1人フレンドになってくれましたので」
「お!ええやん!だれ?」
「ええと。黒紅って人ですけど」
「ほー?黒紅か…何というか絶妙なチョイスしたねキミ」
どういう意味だ?
「どういう意味だ?って顔してるね。にっしっし」
「そんな表情出てます?」
「たっぷり出てたよ~。まぁそれは良いとして。黒紅はね…声が良い人としか継続的に絡まないのよ。だからボイチャして不合格なら即切られるの」
「ほー?なら俺は合格なんすね」
「うん。珍しいなーと思ってさ。一応私はあの子のこと知ってるしそれなりに仲良い方だし」
使えるぞリーダーさん。
協力者にはもってこいだ。
「へー…出来れば黒紅のこと知った上で仲良くなりたいところです」
「たしかにあの子あんまり友達いないし、安達君がつるんでくれるならいいね。あ、でも初めに軽く言っておくと…束縛すごいよ~」
望むところだ。
むしろそれが前提条件。
「重い子は好みです」
「ははは!いいねぇ!私そういうノリ好き。ってことは黒紅が女の子って分かってるね?」
「えぇまぁ。リーダーさんがあの子って言ってますし、彼女のチャット男性を装ってますけど女性の口調癖が見えるので予想したまでっす。初めて聞く男の声に同性で好みとか言いにくい気がしたので」
まぁ、イケボには俺も言うかもだけど。
「ふむふむ。男アバター使っててもなりきれないところあるんかなぁ」
「癖は抜けないですからね」
まぁ、本当は春香の人脈で特定しただけだが。
サンキューサッキー。
「探偵っぽいの燃えるわ!よし、なら黒紅の人柄とか教えるね」
なるほど。なるほど。
とにかく声フェチ、好きな人を見続けたいというのが情報価値が高いな。
それにサブカル趣味があるなら俺もある程度合わせていけそうだし。
それに。
やはりというか先輩なので年上女子を攻略できる嬉しさはある。
「ありがとうございます。ある程度把握できたので早速黒紅にアタックしますね」
「にしし。良いってことよ。後輩君よ、黒紅落とすのだ!」
「任せてください。
「頑張りたまえ…あ、そういや。サークル仮メンバーとして贈り物渡してなかった」
「そんなのあるんです?」
「勧誘したいからね。ほれ」
何だろ?クマの人形とスマホの充電器?
「ゲームサークルっぽいっしょ。入ってくれそうな子にレンタルしてるの。人形はアロマの香り出すやつ入ってるの。1週間ごとに交換しに来てくれれば香りまた出せるから。充電器は急速だから人気でね?こっちは1週間レンタル後に返却~」
「ほー。何かいいですね。それならレンタルしときます。また来週返却しに来ます」
「おうよ~」
黒紅はまさか自分が女の子として特定されてるとは思ってないだろうな。
今のところは男扱いとしておいて、ネタばらしの時に攻める材料にしよう。
「黒紅の声どんなんだろうなー」
男性風だったらカッコいい。
俺は新たに楽しみを見つけて帰宅し、早速レンタルしたアロマクマと充電器をコンセントに刺してごろんと部屋で過ごした。
ーー
「はいよ。依頼完了。夏美ほんと好きね安達君のこと」
『刺さったんだから仕方ないじゃない。それに前払いでうちに付きまとう男渡したんだからさ。仕事したの?』
「美味しくいただきました。ぺろり…舌打ちすんなよ!しました!今頃部屋で付けてるんじゃない?」
『ちっ…設置まで確定させるのが仕事でしょーに』
「また舌打ち…なによ?安達君の部屋に行って襲えば…」
『おい』
「こっわ…う、嘘よ。そこまでは担保できぬ」
『はぁ…1週間後に回収して何も撮れてなかったら許さないよ』
「そればっかりは何とも言えない!相手依存の行動ほぼなのにコントロールなんて出来んやろ!」
『一理あるけど、前払いなんだからね』
「はい…尽力します」
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