第18話 ロックオン

帰宅後、早速俺はPDFにあるゲーム名を見て始めた。


PCとスマホどちらでもプレイできる&クロスプレイ対応のため、とりあえずスマホから。


「(なるほど…たしかにありきたりと言えばそうかも)」


誰しもがネットに入って一度は触ったか広告は見たような平凡な作りだが、たしかに可もなく不可もなくといった印象。


だらだら続けるには良さそうな雰囲気。


とりあえずプレイヤーネームは本名から取って『ゆう』とした。


長続きするかも分からないしね。


一通りレベリングをしながらゲームシステムを理解するために地道にプレイする。


やればやるほどスルメのように味が出るな。


これといって特大の楽しさというのが無いだけに、わりと無心でやれる。


これくらいのゆるさならたしかに他のゲームのつなぎや、会話メインのツールとしては良いだろう。


いつの間にか夕方になっていたため、一旦中断。


「(とりあえずフレンド申請だけして夜にやるか)」


俺は例のPDFに記載している『黒紅くろべに』に申請を送ってスマホからアプリをタスクキルした。


夕食後、例のゲームを立ち上げてみると早速フレンド欄に1人追加されてることに気付く。


はやいな。


とりあえずチャットからコミュニケーションを始めてみようか。


『ども。いきなり申請すんません。初心者でとりあえず誰かにフレンド申請しないと報酬もらえんくてしました』


『いえ。大丈夫。ミッションありますからね。どします?一緒に回ります?』


『お、ええっすか。なら頼みます』


『合流しますね』


しばらくその黒紅について回りながら、フィールドをうろうろしてレベリングと素材回収をする。


時折チャットで教えてもらいながら進めてると時計の針は日付変更を指していた。


『あ、もう日付変わりましたね。黒紅さんは時間大丈夫?』


『大丈夫。こっちはまだやるけど夕さんやる?』


『んー…いや、明日もあるから寝ますわ。最後にマイクオンにして直接挨拶して終わりたいんだけどいっすか?』


『ん。別にいいよ』


よし。これで俺の声が刺さるか判定する。


他の名簿にも声フェチの子はいたが、この子は特にフェチらしく、刺さると推したくなると書いてあった。


一か八かだな。


「あーあー…これ聞こえてます?」


『…!』


「あのー」


『あ、うん。聞こえてる。夕さん良い声だな』


「そっすか?あんまり言われたことないんで分からんですが」


『周りの人見る目というか聞く耳ないな。相当好み』


お?まさかの刺さりよう。


これは狙っていけそうだ。


「あざっす。今日はありがとうございました。このゲームわりとジワジワハマりそうっす」


『それなら良かった。基本毎日インしてるから気軽にチャット飛ばしてよ。今度はこっちもマイクつけるからさ』


「おけっす。じゃあ、また」


『おつー』


ゲームを落としてよし!とガッツポーズ。


ひとまず入口は突破した。


後はどれだけこの子の癖に忍び込むかだな。


俺はわくわくしながら就寝した。


ーー


どうしよう。


うちこと大井夏美おおいなつみはドキドキしながらPCを閉じていた。


いきなりフレ申請来たからオッケーしたけど、まさかこんな好みな声の人なんて。


野良かサークルの人か分からないけど正直どうでもいい。


この人ともっと話してみたい。


うちの癖に刺さる中性的だが、低音域寄りの微妙なラインの男性声。


落ち着いていて、凄く良い。


あんまりゲーム慣れしてないみたいだから、うちがどんどん教えてあげないと。


それこそワンチャンあるかも…なんて。


毎日マルチできるように事前にインしてること伝えたし大丈夫だよね?


とりあえずこの人が離れないように『見てなきゃ』。


もう少し情報収集して、野良の人なら間接的につながりを探って、サークルの人なら…いくらでもやりようはある。


うちはこの後の計画を練りながら寝た。



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