第16話 春先開花:笹木春香の堕ちたワケ
とりあえずカップルセットにはいちゃいちゃできるような仕掛けをいくつか配慮されているということで。
「春香。口開けて?」
「ぁ…にへへ…あ、あーん…」
そう。何故かスプーンがデフォルト1つしか無い。
もちろん追加で1つ頼めるが、あえて頼まないってのをブログで見たぞ。
スープをすくいながら春香の口に運ぶ。
「んぅぅ…おいしぃ…えへへ…」
満面の笑みで嬉しそうに咀嚼。
味わっているようで何よりだよ。
「ねね。祐?フーフーして?」
「お?そんなに熱かった?」
「ち、違くて…その…してほしいの」
「あー…なるほど。了解」
オーダーを叶える度に増えていく。
比例かな?
俺は要望通りにフーフーしてまたスープを春香の口に運ぶ。
何だか餌付けしてるみたいで少し楽しいかも。
「にへへ…もっと美味しくなった!」
「それは良かった」
「もう!冷静!」
「いやまぁ…外だし」
「家とかなら祐もいちゃついてくれるの?」
「んー…恋人(仮)じゃないなら」
「ふーん…へへ、分かった」
分かってないよこの子。
しばらく俺は恋人作れないんだごめんな。
今度はサンドイッチに目をやる。
パンに直接ソースペンで文字を書くこともできるらしく。
中身がカツと卵メインであるし、そっちに書くか。
「よし。春香に書いてあげよう」
「え!?いいの!?お金取らない!?出すよ!」
俺はホストか?
ただの素人だしお金なんて取れないよ…
「いやいやいや。いらないって。何書いてほしい?」
「え!えっとね…えーと…じゃあ、春香大好きって書いて?」
「お、おう」
幸せの顔というのは春香の今の表情を指すんだろうな。
俺が必死にソースペンで書いてるのをジッと眺めてる。
緊張するだけどね。
「できた。これでどう?」
「わぁ…!嬉しい!えー!あたしのこと好きなの!?にゃあ…んもう!困っちゃうよー!」
「いやあの。要望通りにしただけ…」
「む…乗ってくれてもいいのに」
「バカップルみたいなのでNG」
不機嫌なフリで実は口角上がりっぱなしなようです。
もしゃもしゃハイペースで平らげると、サラダを見つめる春香。
よく食べる子は好きだな。
「あたしは今動けないので祐にあーんしてもらう権利があります」
「サンドイッチ食べるとき手を動かしてたけど」
「今だめになったの」
「そーすか…」
大皿に乗ってるサラダを小皿に分けて、またまた春香の口まで運ぶ。
「あー…!新鮮さがすごい!祐がフレッシュにしてくれてる!」
「うん、美味いね」
確かに新鮮な野菜を使っているようでシャキシャキと食感が良い。
スルーし始めてるが許せ。
「祐が食べさせてくれると何倍も美味しく感じるよ!」
「男冥利に尽きます」
「にへへ…そうであろう!」
とにかく俺とのやり取りが楽しいようで先ほどの豹変っぷりはどこへやら。
純粋な少女のようにずっと笑顔な春香は魅力的だ。
「よし。そろそろ食べ終わるし、行こうか」
「うん!めっちゃ美味しくて幸せ過ぎた!」
それはなにより。
「この後どうする?特に決めてなかったから解散でもどこか寄っても良いけど」
「え!?解散とか嫌!まだ祐といたいもん!」
「お、嬉しいこと言ってくれるね。適当に散歩でもする?」
「する!祐となら何でも良い!」
もう好意を隠さなくなってるなこりゃ。
春香は俺の腕を取ると組んでくる。
恋人の組み方である。
「えへへ…これ見られちゃったらあたし達カップルに見えるかな?」
「だろうね。どこからどう見ても」
「やったぁ…!あたし祐の彼女~!」
「はいはい」
テンション上昇中の春香を連れて、俺は近くの公園まで歩いていく。
「公園?遊ぶの?」
「いや。この年だとハードな運動はなかなか」
「まだ20代前半よ?あたしら」
「俺はそんなに運動しないからさ」
「あたしけっこうするよ?楽しいもん」
「まぁまぁ。ゆっくりベンチで座ってダベろ」
「うん!祐の言うとおりにすりゅ…」
おいおい。くっついて顔をスリスリ腕にしてこないでくれ。
惚れちゃうだろ!
「と、とりあえず座ろう」
「うにゅ…」
何かもう効果音ばっかりで大丈夫かこの子。
「えーと。春香さん。今日のお出かけはどうでしたか」
「最高!もう嬉しくて死んじゃう!」
自傷癖あるんだからシャレにならん。
「生きてくれ…俺のためにも…」
「うん!祐のために生きる!」
また引っ付いてはスリスリをしてくる。
何だろう。遠慮なくなるとスピードが止まらないような。
「あー…えっと。言いにくいんだけどさ。そろそろ良い機会だし、言っておこうかと」
「んー?」
「恋人ごっこはそろそろ終わりにしないか?」
「えっ…」
急に固まる春香。
微動だにしないのは困るので続ける。
「あんまりなぁなぁの関係でいるのはお互いのためにならないし、一旦終わりにしよう。検証結果を出すのが目的だったしな」
「…このままでもあたしはいいのに」
「関係性はハッキリしておかないと何かあったときにトラブルの元になりやすい。それは春香の方が分かってるんじゃないか?」
「うん」
心当たりが多そうだからあえて伝えた。
「で。結果はどうだ?恋人作れそうか?俺は春香のその…束縛ってのを間近で見たけど『正直なところ受け入れたい』って感じた。まだ少ししか見られてないから確実とは言えないのは申し訳ないけど」
「うん…祐なら彼氏にしたいって思ったし、受け入れてくれるのが今日だけでも分かった」
「そっか。なら良かった」
よし、良い具合だから攻めておこう。
「俺も春香となら恋人継続もできそうって分かったしここしばらく本当に充実してたよ。『春香のことしか考えられないくらいに』」
「あ…あっ…えへ、へへへ…ウレシイ…ウレシイヨ…」
静かに泣きながらだんだんと目の奥が暗くなる春香。
姫路さんとはパターンが違うがいけたかな。
「すぐに付き合うのは不誠実な気がするし、もうしばらく友達ってことでもいいか?ほら、お互いのことをもっと知ってからでも遅くないし。むしろ理解し合ってからの方が長続きするって聞くからさ」
「うん…ひっく…うん…ぐす…うん!」
春香は俺に抱きつきながら、ウレシイウレシイとずっと呟きながら満足するまで離してくれなかった。
依存し始めた彼女を抱き止めながら、俺はぞくぞくと震える背筋から来る謎の快感を隠してほくそ笑む。
解散前に春香からデートの誘いを正式に受けた。
何でもサシ飲みをしたいらしい。
快諾して、春香と最後にハグをしてその日デートは終了した。
デート当日まで何度も何度も通話して、大学のサークル部屋でいちゃつかれたのは言うまでもない。
リーダーさんごめんよ。
因みにだが、春香の病み度を上げるためデートまでに他の子と付き合う可能性も0ではないことは伝達済みだ。
渋々了承しているようだが、その目は負けないという意志が強かった。
意味深なことを告げながら日々を過ごして俺はついに…
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