第14話 接近開始

初の飲み会を経て、またしばらく何気ない日常を送っていた俺は春香と過ごす時間を増やしていた。


交流が多い彼女だが、俺のさり気ないアタックに気付いてるのか他の子との時間をこちらに割くようになってきている。


連絡はマメに取ってるし、俺から遊びに誘ってることが多いからな。


うざがられない程度に押して、少し引くを繰り返すことでアプローチを仕掛けてるってわけだ。


明るい春香を堕とすにはどうしようかと悩みつつも、一緒に過ごす時間はまぁ楽しい。


そんな俺の考えは知らないようでだんだんと春香からも誘われることが多くなってきている。


やれデートの練習やら、男がいないと行けないラーメン屋やら何かしら理由をつけてね。


依存傾向が見え始める頃合いを探りつつ、今日も春香と一緒にいた。


「それでね!祐に今度一緒に行って欲しいのはここなの!」


「えーと。カップルカフェ?」


「そ、そう!いやあのね?勘違いしないで?あくまでカップルの二人に見えるなら限定メニュー頼めるのと割引されるってだけ!祐が彼氏でもまぁ、見えなくはないかな?とか!」


すげー早口。そこまでごまかさないでも。


「なるほどね。サークルの先輩とか春香の男友達もね…」


「うん…」


そう。春香には男女問わず友達が多い。


俺とは違って人当たりも良くて可愛いし、嫌みが無いから分かるけど。


女の子からも春香は少し抜けてるけどしっかりしてるし、モテるのに男遊びしない&ピュアってことで好感度が高い。


男からはもちろん可愛い、スタイルが良い、誰にでも明るく接してくれるってことで好感度が高い。


そんな春香に群れる男の中にも変な男どもは付いて来るわけで。


「何というか。単純に狙ってるのが見え見えなんだよな」


「ほんとそれ!あたしとしては仲良くできればいいなってだけなのに」


「春香は万人受けしそうだしなぁ。人に好かれやすい才能だと思えば良いけど上手くいかないもんだ」


「そうなの!祐ってば分かってくれる!」


第三者視点だと楽しそうではあるけど、その分だけ悩みもありそうだしねぇ。


「何となくだけどさ。春香は告白受けて彼氏作らないの?いやなんとなく相手一人いればこういうことも考えなくても良くなる気がする」


「…うーんとね。考えたこともあるというか…うーん」


「歯切れが悪いけど…」


「その…実はね」


普段ハキハキと話すこの子がどもるのは少ない。


少々お勉強が足りない言動をすることはあっても基本物言いはきっぱりなイメージだから意外だ。


「昔の彼氏との話なんだけどね?その…あたしこう見えてとっても重いらしくて…」


うん。素質あるから狙ってるので分かる。


「何かイメージと違うけど嫌なことでも?」


「へへ…よく言われる。聞いてくれる?」


「俺なんかで良ければ」


春香は弱々しく笑いながらこぼし始める。


「ありがと。そーだなぁ…あたし、その人のことが本当に好きだったか今では分からないけど当時はお熱だったの。それこそめちゃ重いってくらい」


「男としてはそれくらい好きになってくれたら嬉しいと思うけどなぁ」


「どうなんだろね?彼にとっては負担だったみたい。あたしが彼と話す女の子がいたらその…泣いたり、腕切ろうとしたりしてたからね」


「ふむ」


なるほど。自傷型のヤンデレだとこうなるのか。


相手に被害を与えないばかりに矛先が自分に行ってしまうと。


「笑えるでしょ?こんなヘラヘラしてる女が実は重い重い束縛してるって」


春香は話しながらも俺のことをチラリと見ていた。


幻滅とか嫌われるとか思ってるのかも。


「俺はその彼じゃないからどう思ってたかは分からないけどね。俺が春香の彼氏だとしたら嬉しく思うよ。モテないのもあるけど、好きになってくれただけじゃなくてそれをしちゃうくらい想ってくれるわけだし」


「…引かないの?」


「別に。その彼のこと悪くは言えないけど少なくとも俺がもし仮に同じ立場なら他の子と極力話さないように気をつければ良いわけだし」


「…祐優しいね。何か他の男と違ってガツガツしてないというか…何だろうな?あたしのこと狙ってるとかじゃなくて心配して聞いてくれてるって分かるの」


遠からず近からず。


狙ってるけど、ベクトルが違うからね!


それに姫路さんとの1件のカルチャーショックが凄まじくて女の子耐性がわりと上がった。


余裕少し出るくらいにはね。


「分からないよ?優しいフリして本当は春香をとそうとしたりしてるかも」


「えー?そうなの?んー…祐はあたしを受け止められるかなぁ」


春香はまんざらでもなさそうに髪をいじり始める。


何この思わせ振り。


たしかにこれは男なら勘違いするわ。


天然彼女無し男キラーとしか思えないぞ。


「どうだろうなぁ。今のところ俺は春香のそっちを見てないから何とも言えない」


「真面目か!でも確かにうん…」


よしと何か決めたような春香は俺に微笑む。


え、なに。


「付き合わないと分からないもんね!祐!今日から恋人ごっこしよ?」


「ごっこ?え、なぜ?」


「あたしが彼氏を作れるかのチャレンジと祐が本当のあたしを受け入れられるかのチャレンジ!」


「はぁ!?それいいの?」


「ふっふー!言ったでしょ?祐が取り乱すところ見たいって!」


「あぁ…」


そういえば言ってたような。


「やりぃ。祐がそんな声大きくなるの初めて聞いた…んふふ」


とっても甘い声になってるよおねーさん。


「そりゃ驚くわ…自分を安売りするなよ?」


「するわけないじゃん。祐だから一応それなりにその…信用というか?しちゃってるの」


もじもじしてる。


ツン風デレデレみたいな?


「そ、そう。まぁ春香が良いなら俺は嬉しいけど」


「ほんと?」


「ごっこでも春香の彼氏になれるならそりゃ」


「んぅー!もう!ずるい!」


何がだよ… 


早速その日からカップルごっこを始めた俺達は恋人らしく帰り道でめちゃくちゃゲーセンで遊んだ。

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