第13話 飲み友
サークルにお邪魔してからしばらくして。
俺は初めて飲み会に参加していた。
前に紹介された時より人がいるなという印象だけど、他のサークルよりは控えめだろうな。
この前リーダーさんに何でもっと人が来ないのか聞いたところ、ちょめちょめ目的の人は追い返してるのと純粋に飲み友を探してる人を迎え入れてるからと仰せ。
なんとまぁ、律儀なところはギャップだ。
わりとしっかりしてるリーダーさんがモテない理由は分からないが、春香いわく女の子みんなに平等に優し過ぎるってのが原因だねと評価していた。
優しすぎるのが低評価だとよ…悲しいね。
飲み会が始まるまでそんなことを思い返していた。
「それじゃ!今日はアダッチの歓迎会も含めてやってこーぜ!」
リーダーさんが先陣を切る。
「いいね!アダッチ~ふぅ~!」
「あがるー!ふぅ~!」
「よっ!アダッチ~!」
ねぇ。待って待って。まだ飲んでないよな?
素面でこれはもう違うだろ。
「祐!楽しんでこ!」
春香とは一番一緒に話していたせいか、俺の隣に来てくれていた。
話しかけてくると同時に肩を優しくぶつけてくるのはズルい。
好きになるぞ!
「うん。春香も」
リーダーさんがかんぱーい!と言うや、サークルメンバー達はお酒を流し込み始めた。
乾杯の後にはこれといって何か起きるわけではなく、少し騒がしくも和やかに会は進んでいった。
「にへへ…祐飲んでるー?」
「うん?飲んでるよ」
「ほんとー?グラス減ってないにょ~!」
酔ってるなぁ。
春香は見た目ではあまり赤くなってないように見えるが言動から仕上がってることが分かった。
「俺は遅めだからさ。無理無い程度に嗜んでる」
「えー?冷静なの何か駄目な気がするー」
「何で?」
「大人っぽくて余裕あるじゃん!あたしなんてもう何言ってるかわかんないもん」
呂律がまぁたしかに怪しいけど。
「慣れてないからさ。酔いつぶれるまで飲むのはあれかなと。だってさ…」
俺は先輩達をちらりと見る。
何というか、ふらつきながら突っ伏したり、煽って飲み合ってるからね。
誰かが正気でいないとお店に迷惑かかるだろうなと声にしないものの、察してほしい感じにしてみる。
「あー…たしかに先輩達はこうなるからなぁ…リミッター外れるんだろね」
察してくれたのか苦笑いな春香。
毎回苦労組か?もしや。
「楽しいのは良いんだけど、節度をね」
「…耳が痛い!」
うぅと呻く春香。
心当たりがあるんだろうね。
「お、なになに?サッキーとアダッチもうデキてる感じ?」
「うぇい!いいやん!また落としにかかってるんやサッキー!」
ちょうど煽り合いしていた先輩男性二人がこちらにきた。
どういう?
「ちょっ!ちゃうし!祐とお話してただけ!それに落とすなんてしてない!」
「またまた…サッキーに話しかけられて告ってる奴何人見たか」
「それな?毎回フラないでもいいのによ~」
先輩達は悪酔いしてるのかケラケラと笑う。
何だかイヤだな。
「あたしの勝手だし。それにそんな軽くないから!普通に男の子と話してて悪い?」
「悪いことはねーけどさ。思わせ振りしてると…なぁ?」
「それ!俺らもまぁ…サッキー見た目良いし騙されたからよ」
「別に騙してないし!先輩達が勝手に勘違いを…」
やばいな。少しヒートアップしそうだから手助けしておこうか。
「まぁまぁ。先輩達もかっけぇんですから、他に選び放題でしょう?春香はたしかに可愛いですし、狙う気持ちも分かりますが…何も先輩達が選択肢を狭めることはないっすよ」
「どういう意味だ?」
「それな」
俺がサラリと褒めたのが嬉しいのか二人共まんざらでもなさそう。
ほんとちょろいな男。俺もだが。
「いえ。お二人が良いなって思う子を色々と会った上での方が春香の良さだったり、逆に他の子の良さに気付けるじゃないすか。なので、固執するより視野を広げた方が経験値にもなるのかなと」
「なるほどな。たしかに一理ある」
「それな。春香はもうワンチャンねーし」
妙に納得し始めた二人にさらに追撃。
「あと。俺なんかお二人に及ばないっすよ。こうして春香に話してもらってるのもタメなのと、先輩女子に行く勇気がないからですし。ワンチャンも何も話してるだけっすから。顔もこれだし、先輩らみたいにイケメンなら狙うとか考えたかもですが」
「お、おう…あんま自分を下げんなや…」
「それな…わりぃ。少し飲み過ぎたわ」
罪悪感を与えて同情を誘う。
卑下し過ぎるのではなく、あくまで相手を立てる作戦だ。
「いえいえ。ほら、お二人を待ってる人もいますよ?」
隣のテーブルを手で視線誘導。
呼んでるかは知らんが。
「おう!戻るわ!」
「アダッチもイイ男だぜ!気落ちすんなや!」
気を良くした二人は俺の両肩をバシバシしてから戻っていった。
「…祐。ありがと」
「とんでもない。酔っ払いは褒めときゃいいかなと」
「ううむ…そっか」
上手くさばけなかったのを後悔してるらしい。
「べ、別にあたしも?そんな怒ってたわけじゃない?ってか、祐より飲み場に慣れてるから?一人でもその…何とかできたし」
「そうだね。余計なお節介だったか。ごめん」
「え!?違う!あぁぁ…違くて!本当にね?感謝してるの!言葉のその、あ…あにゃ?というか」
噛んでるの可愛いな。
「ことばのあやね」
「そう!それ!」
あえてひらがなっぽく言い聞かせる。
「まぁ今回のは俺と一緒にいてくれてるお礼ってことで一つ」
「…え?」
「いやほら。春香交流あるはずなのに俺の隣にずっといてくれてるし。まだ完全に馴染めてないのをフォローしてくれてるしさ。そのお礼」
「そんなそんな!いいのに…あたしが好きでしてるだけだし…あっ」
春香は顔を赤くして口を抑える。
「いやいやいや!好きってその、好きってやつと違くて!あれ!違くないけど!違うの!」
「はいはい。春香も酔ってるんだから血圧上げないの」
「むー!また余裕ある!」
「そういうことじゃないんだけどな…」
ぷくーっとふくれる春香は実に子供らしいが、ピュアな可愛さを含んでいる。
見た目がギャルなだけに少しギャップだな。
「決めたもん!あたし祐の取り乱してるとこ見たいからしちゃうもんね!」
「なにそれ」
「ふっふー!」
春香は謎に自信満々なまま何も言わず、肩を先ほどより少し強めに、そして長めに密着させていた。
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