第10話 兆し

俺達が訪れたのは駅近にあるショッピングセンターだ。


まず始めに姫路さんの好みや価値観を探ろうという意味合いがある…が、単純に女の子とウィンドウショッピングをしてみたかった。


その後軽く歩いた後に、半個室があるレストランに向かうスケジュールというわけだ。


いきなり完全個室だとどうかと思ったのでの選択だけど、どうだろう。


少し考えたが、控えめで静かな彼女は個室気味の方が良いと判断した結果である。


「わぁ…綺麗な展示が多いね」


「だね。ちょうどショッピングセンターでガラス細工の展示会してたらしくて。ちょうど11時からだったんだよ。写真撮影も良いらしいけど、寄ってかない?」


「いいね!私写真撮るの好きだから是非…!」


うんうん。


目の前に広がる色とりどりのガラスの展示に目をキラキラさせている彼女。


光の反射が可愛い顔を映していた。


「そっか。姫路さんわりと写真フォルダ保存してるって言ってたもんね」


「うん。私、散歩しながら風景の写真撮るの趣味でね。何気ない日常を撮って、この日はこんなことあったなぁとか思い返すの。思い出みたいなものかな?」


「お、それはいいな。俺はマメじゃないし、すぐ忘れるから姫路さんみたいに写真撮ってみようかな。参考までにどんな風に撮ってるか見せていただけると助かります先生」


「ふふっ…分かりました生徒君。どうぞ」


自然にお互いの距離が近くなる。


俺が姫路さんの手元まで体を寄せると少しだけ肩を寄せてくれる。


…もう見える位置なんだけどね。


「おぉ。すごい綺麗に撮れてるね。素人ながらにも感じちゃう」


「ありがとう。まだまだ撮り方初心者だけどね。自己満足だしいいかなって」


「趣味だしそれくらいがちょうど良いよ」


「うん」


いくつか彼女の写真フォルダを眺めてると優しい気持ちになれる。


こんな風に一緒に散歩できたらなとも思ってしまうけど。


「あれ?これって俺?」


「あっ…えと、あっ」


そう。


彼女が写真をスワイプして見せてくれていたところで、1枚だけ俺の寝顔写真があった。


これはそうだな…姫路さんと勉強してる時に安心してたのか居眠りさせてくれってお願いしたときの。


まさか撮られてたとは思わずびっくりするが、脈有りだって感じるくらいには経験無い男である。


「あのあのあの!えっとね!これはその…安達君を撮ってみたいのはあって…でもほら、私風景写真ばっかりだから練習も兼ねてというか…ね?決して盗撮とかじゃなくて…あ、でも肖像権が…」


顔を真っ赤にして手を横に振りながら悪いことしてしまったとアピールするような姫路さん。


そんな気にしなくていいのに。


「大丈夫大丈夫。落ち着いて?俺はむしろ撮ってくれて嬉しいまであるよ。だって別に顔良くないし、被写体になれて光栄」


「ほんと?」


「うん」


「消さなくて良いの…?」


「うん」


妙におどおどと姫路さんは確認してくる。


まぁ男が女の子にしたら警察案件かもだけど。


「…良かった。引かれちゃうと思って言い出せなくて」


「引かないよ。姫路さんのためならいくらでも練習台になるし。可愛い子に撮られて嬉しいし」


「か、可愛い…えへ…もう、褒め上手」


軽く俺の袖を掴みながら顔を下に向ける姫路さん。


萌え性能高くないかこの子。


「本心だからね!さっきも待ち合わせの時に周りの人みんな姫路さんのこと見てたし。他の男にナンパされないかひやひやしたよ」


「え?そうなの…?あんまり周り見えて無くて…でもその、心配してくれたんだ…?」


「うん。嫉妬したかも…なんてね」


彼氏でも無いのにヤバい発言してしまった。


すぐに冗談にしてリカバリーしろ俺。


「…安達君もそうなんだ」


「え?あ、うん…『も』の意味が分からないけど…」


「ううん…私も安達君のこと見てる女いるとモヤモヤしちゃうというか…その、見てほしくないってなるので」


あれあれ。


少しずつ姫路さんの口調に影が見え始めてる。


たまたま横切っていたお姉さんが俺の近くで会釈してくれてるのに睨んでるし。


「あー、そっかそっか。じゃあ俺達似た者同士というか、相性良いかもね」


おい。安達祐。何燃料投下してるんだ。


つい嬉しくてそんなことを口走る。


「うん…とっても良いよ…重い人同士って需要と供給ばっちりだもん」


「あはは…」


視界の隅で姫路さんのスマホロック画面が俺の例の寝顔写真になってることに今更気付いたが。


そんな俺を姫路さんはジッと覗き込んでいた。

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