第7話 優等生

「どうも。安達って言います。演習相手いないので、組んでもらえますか?」


「え!?あ、はい…私なんかで良ければ」


「あー、助かります。えっと、お名前は?」


姫路雪ひめじゆきと申します」


「姫路さん。ひめじ…あぁ」


「…??」


そうだ。この子は1年の成績上位者だ。


目立たないようにしてるのか分からないけど、名前は見たことあった。


履修科目試験でも大体上から5番目にはいるインテリっ子。


「いえ、よく張り出されてる成績上位者にいた人なんだなと」


「そんなそんな…私はまだまだです」


ずいぶんと謙虚だな。


「それより、演習しましょう」


「おけです」


俺と姫路さんは滞りなく、実験を終えてレポートをまとめた。


よし、早速試してみよう。


「姫路さんのおかげでめちゃめちゃ早く終わったよ。ありがとう」


「いえいえ、こちらこそです。いつも一緒に講義取ってる子がお休みだったので助かりました」


「そう?俺も組む人がいなくてさ。『姫路さんとだから』ありがたかったんだよ」


「えっと…そうなんです?私以外にも組めそうな人はいそうですけど…」


「そりゃそうだけど、やっぱり真面目で真摯に打ち込める人じゃないとレポートもそれなりにできないし。たまにしか見れてないけど姫路さんのレポートすごく分かりやすいよね。参考レポートで発表されてたし」


「えへへ…ありがとうございます。そう、ですかね…?安達君に褒めてもらえるくらいには出来てたってことですし…」


うんうん。いいな。  


本にあるのはまず相手を理解して、褒めることが大事と。


これは普通のコミュニケーションでも使うべきところだけど、私は貴女を見てますので、あなたも私を見てねっていう返報性をさりげなく入れ込むところらしい。


「たまに講義室で姫路さん見かけるけど、いつも予習復習してるもんね。俺も実は見習って少し早めに講義室来て資料まとめたりしてるんだよね」


「え!?そうなんですか!そんな見てくれてるなんて恥ずかしいですよ…」


「いやいや、たまたま見かけただけだよ。そのたまたまで毎回してるからこそ、習慣でやってるんだなーって影響受けた感じかな」


「それを言うなら安達君こそ、人のいいなってところをそのまま実行できてるんですから。素晴らしいですよ。なかなかできません」


「ありがとう。今までは遠巻きに姫路さんと勉強できたら捗るだろうなぁって思ってたんだけど…もしよかったら講義前とか空き部屋で予習しない?」


「それはいいですね!せっかくこうしてお話もできて勉強の方向性も似てるようですし!」


きました。


これでまず始めの1歩は完了。


とりあえず、相手との個人的なやり取りを増やす。


時間と目的を共有することで共通項を作るってことだな。


その日、俺と姫路さんはレポートをまとめた後、軽く復習して解散した。


実に青春だった。

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